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冷気が足元から肌を伝い、身体を包み込む。ぶるりと身体を震わせて、私は違和感を口にした。
「なんだか、身体が重い気がするんだけど……」
「リンちゃんも? うちもなんか変な感じがする」
「わたしもですー」
私の言葉に露草とユノが同意する。やっぱり、気のせいじゃないんだ。
「う……気持ち悪い」
「さやか!?」
「VR酔いか?」
魔方陣から出てきたさやかちゃんが青い顔をして口元をおさえる。ユキトさんが慌てふためくのを余所に、トオルがさやかちゃんの側にしゃがみこんで顔を覗き込んだ。
「んーん……あのね、なんかこの部屋、闇の力? が強いんだって。さやかは妖精族だから、ステータスが下がるって書いてある」
「ウインドウにか」
「うん。気持ち悪いのも、そのせいだと思う」
「だ、大丈夫なのかい? さやか」
「うん、ユキ兄。少し慣れてきたから大丈夫」
さやかちゃんはまだ青い顔で笑顔をみせる。うう、かわいそうに……。
それにしても、闇の力か……。
「私達の身体が重いのも、そのせいかな?」
「ああ、おそらくそうだろう。厄介だな……」
トオルの言う通り厄介だ。私は部屋の奥で沈黙を守るローブ姿の骸骨を見た。
【デス・ロード】は窪んだ眼窩に青白い炎を揺らめかせ、私達を待ち構えている。
……やるしかないよね。
「皆、やれる?」
尋ねると、再び強いうなずきが帰ってくる。
「うん、いこう」
私は流水を手に取り、一つ深呼吸してからデス・ロードへと足を踏み出した。
「強い……!」
思わず唸ってしまうくらいに、デス・ロードは強かった。ゴーストと同じく、攻撃する瞬間以外は物理無効に加え、あちこちに短距離転移するのだ。しかも。
「《スラッシュ》! ……あー、やっぱ駄目! すぐ回復しちゃうよ!」
「【ファイヤーボール】! ……ダメージ量より回復が上回ってますー」
露草、ユノが焦りを浮かべている。そう、デス・ロードは闇の力が関係しているのか、ダメージを受けてもすぐに回復してしまうのだ。
「これは……無理ゲーじゃないか?」
「回復するよー! 【エリアヒール】!」
「ありがとう、さやか。うーん、正直勝てる気がしない……」
トオルとユキトさんの会話に、皆もうなずいている。
「……一度逃げて、作戦を考える?」
「それしかないな。だが……」
「……そう簡単に、逃がしてはくれないようだよ」
ユキトさんが苦笑しながらトオルの言葉を引き継ぐ。
見ると、デス・ロードが大鎌を振り上げていた。
デス・ロードが投げ放った大鎌は、ブーメランのように私達の間を飛び回り、切り裂いていった。
「きゃあっ!」
「さやか!」
「さやかちゃん!」
ステータスが落ちているさやかちゃんのHPが、かなり削れてしまった。慌ててユキトさんが駆け寄ろうとするが、それより早く、デス・ロードがさやかちゃんの背後に現れて大鎌を振りかざす。
――どうしよう。このままだと、さやかちゃんが。
その一瞬、私はスローモーションになったかのように感じた。勘が告げている。この状況を打破できる物を私が持っていると。
ゆっくりと、死神の鎌がさやかちゃんの首へと降ろされる。
私はインベントリを開き、脳裏に引っ掛かっていたそれを探した。
「……あった!」
見つけた瞬間取り出し、私はそれを使用する。
それ――【光のビー玉】は眩しい光を放って薄暗い部屋を明るく照らしだした。
ギャアアアア!!
デス・ロードが凄まじい悲鳴をあげ、身を捩らせる。その隙に、ユキトさんがさやかちゃんを連れて後ろに下がった。
さやかちゃんが私に笑顔を向ける。
「リンお姉ちゃん! 部屋の中が光のフィールドになったよ! さやか、ステータスがアップしたみたい!」
「あいつは逆に大ダメージみたいだね。チャンスだよ!」
ユキトさんにうなずいてみせて、私は言った。
「皆、連携いこう!」
「おう!」
「はいですー」
「りょーかいっ」
さあ、反撃だ。
光のフィールドでは、デス・ロードは本来の力を発揮出来ないようだった。HPが回復することもなくなり、私達は順調にHPを削ることが出来た。
そして、二度目の連携で、ラストのさやかちゃんが魔法を放つ。
「【シャイニングアロー】!」
光が矢となってデス・ロードに突き刺さる。血が凍り付くような悲鳴を上げて、デス・ロードは消えていった。
「……やった、のか?」
トオルがつぶやく。
「やりましたよねー?」
「やった、ね」
ユノが辺りを見回し、露草が笑みを浮かべる。
私達は顔を見合せ、そして、歓声を上げた。
「わぁーい、やったー!!」
「ピィ、ピィ!」
「やったね、リンお姉ちゃん、蛇さん!」
「さやか、よくやったぞー! えらい、えらいぞーっ!!」
皆、はしゃぎまくりだ。
笑顔で飛び跳ねていたさやかちゃんが、ふと何かに気付いたかのように止まると、銀のロッドをしまった。
次に取り出したのは、てっぺんが花の形になっている、可愛らしいロッドだった。
「見て見て! 【豊穣のロッド】だって!」
「うわ、かわいー。さやかちゃん、それ、さっきのヤツのドロップ?」
「うん! えへへ、やったー!」
露草の問いかけに満面の笑顔で答えて、さやかちゃんはロッドを振り回す。それを、私達は微笑ましく見守った。
小さくユキトさんが「いいなあ……」とつぶやいていたけど、聞かなかったことにしよう。うん。
ふと気が付くと、最初にデス・ロードが佇んでいた部屋の奥に、扉が現れていた。
この先には、何がいるのだろう。
私は高鳴る胸を押さえて、皆が見つめる中、扉を開いた。
そこにいたのは――。




