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血のような赤色で描かれた魔方陣は、書斎にまがまがしい雰囲気を漂わせていた。
「……えっと、取り敢えず部屋を調べてみようか」
「そう、だな」
私の言葉にトオルが答えると、固まっていた皆がそれぞれ動き出した。
「何が起こるかわからないから、魔方陣は踏まないように注意してね」
「ピィ」
皆に注意を促して、部屋を見回す。まずは、重厚な作りの机から調べてみようかな。
机の上には羽ペンとインク、そして何かが書かれた紙が置かれていた。
「……これは、この屋敷の主人の懺悔?」
紙に書き殴られた内容は、自分がおかした罪を後悔するものだった。
「皆、この紙にこの魔方陣の事とかが書いてあるみたいだよ」
「おー、どれどれ?」
私が皆に呼び掛けると、近くの本棚を調べていた露草が覗き込んできた。皆も、机の周囲に集まる。
露草が紙に書かれた懺悔を声に出して読み出した。
「なになに? ……私はなんと愚かなことをしてしまったのだろう。妻と娘を亡くしてから、狂っていたに違いない。……ふんふん、奥さんと娘さんを生き返らせたくて、黒魔術に手を染めたらしいよ」
「安直ですねー」
「そういうのって、たいてい失敗するよね」
ユノが辛辣に評価を下し、ユキトさんも同意する。
「そうなのー?」
「ピィー?」
「うん、そういうパターンが多いかな」
さやかちゃんとレヴィが可愛く小首をかしげたので、私はうなずいておいた。
「で、続きは?」
トオルが続きを促し、露草が再び話しだす。
「えっと。何度か失敗してたみたい。その時、あのハンプエッグ達も呼び出したみたいだね。で、消えた使用人達は、やっぱりというかなんというか、生け贄に使われたっぽいよー」
「……あの日記のメイドさんも、かな」
無意識に手を握り締めながら尋ねると、露草は苦々しい表情でうなずいた。
「うーん。リンちゃんには悪いけど、全員捧げてしまった、って書いてあるよ」
「……そっか」
ゲームだけど、なんだかやるせない気持ちになって視線を落とすと、頭をぽん、と軽く叩かれた。
顔を上げると、トオルが苦笑していた。
「ゲームの話だぞ。気にするな」
トオルはぶっきらぼうな口調で言いながら、もう一度私の頭を優しく叩く。そっけない言い方だけど、心配してくれているのがわかり、私は微笑んでみせた。
「うん、ありがと。……それで、この魔方陣だけど」
「あー、なんか、蘇生の魔術に失敗して、魔界のどこかに繋がってしまった、って書いてあるよ。その時正気に戻って、封印するためにいろいろとしたみたい。今は、魔方陣に入らないと魔界には行けなくなっているみたいだねー」
「つまり、魔方陣に入ってそこにいるボスをやっつければいいんですねー」
露草の説明を聞き、ユノが身も蓋も無い言い方でまとめた。
うん、まあ、わかりやすいよね。
「ボスってどんなモンスターかな?」
私が尋ねると、露草は紙を見ながら唸った。
「うーん。闇の者、としか書いてないなー」
「やっぱり、ゴースト系なのかな?」
「可能性は高いな」
ちょっと怖そうにユキトさんが首をすくめ、トオルが腕を組みながらうなずく。
その隣では、ユノがさやかちゃんに話しかけている。
「さやかちゃん、さっきの戦いで新しいスキル使ってましたよねー? 範囲回復の魔法ですかー?」
「うん、ユキ兄にお願いしていくつか新しい魔法を買っておいたの。だから、さやかも頑張るよ!」
「頼もしいですねー」
「ピィ、ピィ」
「ふふ。レヴィもよろしくですー」
レヴィも、自分も頑張るよー、と言うように鳴いてユノに頭を撫でてもらっている。
私達はしばらく戦闘準備を整えたり、作戦を話し合ったりしてから、いよいよ魔方陣に入ることにした。
あの、黒ずくめの男性が敗北したというボス。……どんな相手だろう。
「じゃあ、行こうか」
私が皆を見ると、皆は強くうなずきを返した。
それに私もうなずいて、魔方陣に足を踏み入れた。
――ぐらり、と視界が歪む。
一瞬で場所が変わり、書斎から石造りの部屋の中へと移ったようだ。
冷たい空気に肌が震える。
四隅に蝋燭が置かれた薄暗い部屋の奥で私達を待っていたのは、巨大な鎌を担いだローブ姿の骸骨だった。




