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 立ち上る湯気。鼻につく異臭。じんわりと芯から温まる感覚。

 私は今、温泉に来ています。

 もちろん、《World》内の話だけどね。



「ふわぁー良い気持ち! 来て良かったね、リンちゃん!」


 露草が両手を伸ばしながら私に笑いかけた。私も笑顔を浮かべてうなずく。


「うん。リアルでは行ったことないんだけど、はまりそうなくらい気持ち良いね」

「ふふーん。《World》観光スレをチェックしていたわたしの手柄ですよー」

「うふふ。ええ、ユノさんのおかげでのんびり身体を癒すことが出来ます。ありがとうございますね」


 薄い胸を得意気に張るユノに、与一さんがくすくすと笑いながらお礼を言う。


「気持ち良いね、蛇さん」

「ピィ……」


 楽しそうにはしゃぐさやかちゃんと、湯中りでぐったりしているレヴィ。

 ユキトさんは、男専用の方でのんびりしてるはずである。

 今日はユキトさん以外は女の子のパーティーで、のんびり温泉なのだ。あ、露天風呂なので皆水着を着用してます、あしからず。



 白く濁ったお湯を両手ですくいとり、少し高い位置からこぼしてみる。陽光にキラキラと輝いて、とても綺麗だ。

 周りの景色もいい。

 この露天風呂は山奥にあるから来るのは大変だったけど、その分眺めは良かった。

 あー、本当に良い気持ちだなー……。

 そんな風に私がまったりしていると、硫黄の臭いに逆らって、なにやら美味しそうな匂いがしてきた。


「リンさんもいかがですか?」


 与一さんが串カツをほうばっている。見ると、皆もそれぞれジュースやらアイスやらお菓子やらを食べながらお喋りに花を咲かせている。

 アイス、どこで手に入れたんだろ。


「ありがとうございます。なら、一本いただきますね」

「ええ、どうぞ。美味しいですよ」


 勧められるまま串カツを一本貰い、食べながら話す。


「それにしても、驚きました。与一さん達がフール君を知っていたなんて」


 ここにくる道中、《塔》で聞けなかったことをいろいろと聞いてみたのだ。すると、フール君こと真白君の話になって驚いた。


「さっきも話しましたけど真白とはこのゲームをプレイしてすぐの頃に知り合ったんですよ。今は違いますけど、同じギルドに所属していましたから、その縁で」

「フール君がギルドを抜けたんですよね。どうしてだろ……」

「さあ。わたしにはあの笑顔仮面の考えることはわかりませんわ」


 与一さんは新しく取り出したスパイシーなチキンをかじりつつ肩をすくめた。


「笑顔仮面、ですか?」

「いつも笑顔ですけど、嘘くさいでしょう?」


 確かに、と思わず苦笑してしまった。串カツを一口かじって、さらに尋ねる。


「白の《塔》を攻略した時に貰った鳳凰の宝玉は、フール君が持っているんですよね?」

「ええ。それがパーティーを組む時の条件でしたから」

「どんな色でした?」

「色? ええと、赤ですわ。鳳凰と同じ、深紅の宝玉でした」

「赤……」


 私はお湯を肩にかけながら思い出す。確か、フール君は決闘の時、白の宝玉を賭けの対象にしていた。

 つまり、白と翠と赤。フール君は宝玉を三個は所持していることになる。

 ……全部で何個あるんだろ。


「リンちゃん、与一さん、楽しんでるー?」

「二人もジュース飲みますか? さっぱりしますよー」


 考え込んでいると、露草とユノがやってきた。与一さんがジュースを受け取り、一つを私にと差し出す。


「なにか思うところがあるようですけど、今はのんびりなさってはいかがでしょう? せっかくの温泉ですし」

「……そうですね。せっかくですもんね」


 ジュースを受け取り、私は笑みを浮かべた。

 フール君のこととか、宝玉のこととか、気になることはあるけど、ちょっと脇に置いておこう。今は皆で温泉を楽しまないとね。


 そうして、私達は時間を忘れて温泉でまったり過ごし、《白の都》に戻った。

 いつまでたってもあがってこない私達を心配してユキトさんがやってきて、私達に痴漢と間違われ、石やらジュースの瓶やらを投げられたりしたけど、それ以外は問題もなく楽しめた。

 ……ちなみに、私はユキトさんに瓶を投げた際、スキルを手に入れた。


 スキル【急所狙い】

 取得条件:一定数以上の敵に急所攻撃をする。

 効果:急所攻撃をした際、一定の確率で一撃死させる(ボスクラスには無効)


 ……どこに瓶が当たったのかは黙秘します。

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