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 クマが放った無差別の衝撃波は、私だけじゃなくさやかちゃんにも襲い掛かった。


「きゃああっ!」


 さやかちゃんの悲鳴に私は歯ぎしりをする。守ってあげられなかった。ごめん、さやかちゃん!


「さやかちゃん、自分にヒールかけて!」

「で、でもリンお姉ちゃんのHPが……」

「大丈夫!」


 攻撃を受けなければ問題ない!

 私はクマに接近して、さっきの技を使わせないように攻撃を仕掛けた。素早くて一撃が重いクマとの戦いに、神経がガリガリ削られるけど、今はとにかく攻撃を躱しつつ、注意をさやかちゃんに向けさせないようにしなくちゃ。


「【ヒール】!」


 さやかちゃんが自分を回復する。よし、後はもう少し待てば私も回復してもらえる。

 私は流水を握る手に力を込めて、クマへの一撃を放った。


「えっ!?」


 クマに流水が当たった次の瞬間、クマは私の懐に飛び込んできた。避ける間もなく、ボディに一撃を食らう。

 痛い、けど。それ以上にまずい! HPがあと少ししかない!


「リンお姉ちゃん!」


 悲鳴のような声でさやかちゃんが私の名を呼ぶ。ああ、ごめんね、さやかちゃん。一人にしちゃうね……。

 迫るクマの爪を見ながら、私が半ば諦めた時。


「……ピィィ!」


 私の首に巻き付いていたレヴィが鳴いた。

 ふわあ、と白い光が私を包む。


「えっ!?」


 クマの一撃が弾かれた!? しかも、HPが全快してる!


「れ、レヴィの力なの?」

「ピーィ……」


 レヴィは疲れはてたようにぐったりしつつも、誇らしそうに鳴いた。


「ありがとう、レヴィ!」


 私はレヴィに感謝すると、クマに斬り掛かった。クマは攻撃が弾かれてバランスを崩している。チャンスだ!

 私は右手に流水を持ったまま、左手でククリを抜き放ち、スキルを発動した。


「《ダンシング・ブレード》!」


 《塔》に来る前に買っておいたスキルだ。

 発動したとたん、体が勝手に動き始めた。ダンスをするように軽快なステップを踏みながら、両手の武器を次々にクマに繰り出してゆく。

 一撃のダメージは低いけど、流れるような連続攻撃は、確実にクマのHPを奪っていた。

 剣舞のようなスキルが終わった時、クマのHPは残り僅かになっていた。


「これで――終わり!」


 クマの心臓にあたる部分に、流水を突き立てる。クリティカルの音楽が流れて、クマのHPは無くなった。


「やったー! リンお姉ちゃん、すごーい!!」


 クマが光となって消えたのを見て、さやかちゃんが歓声を上げた。私は喋る元気もなく、その場にへたりこむ。

 大きく吐息を吐く私の耳に、何かが割れる音が聞こえてきた。


「え? ――さやかちゃん、こっちに!」

「り、リンお姉ちゃん……!」

「ピィィ……」


 さやかちゃんは慌てて私の側に来て、まだ元気のないレヴィも動揺した鳴き声をもらした。

 部屋中の鏡に亀裂が走っていた。

 亀裂は一秒ごとに広がり、少しずつ砕けて床に落ちてゆく。私とさやかちゃん、レヴィが息を飲んで見守る前で、全ての鏡は甲高い音をたてて砕け散った。

 とたん、ぐらり、と視界が回った。




「さやか! リンさんも!」


 次に目を開けた時、私とさやかちゃんは小さな扉の前に戻っていた。

 なぜかユキトさんが紅蓮とマリアロッテくんに羽交い締めにされていて、与一さんが困った顔をしている。

 そんな与一さんも私達に気付くと花がほころぶように笑顔になった。


「ああ、二人ともご無事に戻られて、なによりですわ!」

「さやかーさやか、大丈夫か? 怪我はないか? 怖い思いはしなかったか?」

「わんこのおねーさん、よーせいちゃん、おかえり! このおにーさんが心配して大変だったよー」

「ったく、面倒かけんじゃねーよ」


 ユキトさんは紅蓮とマリアロッテくんに放してもらい、すぐにさやかちゃんへと駆け寄った。マリアロッテくんは与一さんと同じように笑顔を浮かべて私達の帰還を喜んでくれて、紅蓮は舌打ちしながらそっぽを向いた。


「あ……ええと。ご心配かけました?」


 なんだかまだ皆と合流した実感がわかなくて首をひねると、マリアロッテくんに苦笑された。


「なんで疑問符ついてるの。心配したよーボクもヨイチも、鬼のおにーさんは心配して暴れるし、紅蓮だって……」

「ああ? 俺は心配なんてしてねーよ」

「あらあら。素直じゃないですわね」


 紅蓮がマリアロッテくんに凄み、与一さんがくすくすと上品に笑う。


「さやかーさやかー。着いてけなくてごめんなー」

「ユキ兄、苦しいよー」


 ユキトさんはさやかちゃんに抱きついて号泣していて、さやかちゃんは苦しそうにしながらも笑っている。

 そんな皆の様子を見ていると、ようやく無事に戻って来れたんだなあ、と思えてきて、私も笑みを浮かべた。


「えっと……ただいま戻りました。皆、心配かけてごめんなさい」


 ぺこり、と頭を下げる。ピィ、とレヴィも私の真似をして頭を下げた。

 私とレヴィ、そしてさやかちゃんに対する皆の笑顔が暖かい。

 紅蓮でさえも、笑みを返してくれた。


 こうして、私達はなんとか皆のもとに戻れたのだった。

 クマとの厳しい戦いの後だけど、次はもしかしたらグリフォンとの戦いかもしれない。

 私達はHPを回復したり、作戦を話し合ったりして準備した。


 その途中、またしてもレヴィにポーションを一瓶飲まれてしまったけど、クマとの戦いではレヴィのおかげで助かったしね。一つくらい喜んであげよう。

 それだけじゃなく、インベントリからわたあめも取り出して少し分けてあげると、レヴィは大喜びした。

 ちなみに、クマのドロップ品は魔石と【熊の隠し爪】だった。……えっと、これって暗器ってやつだよね?

 【熊の隠し爪】

 ATCK:17 SPEED:21 DEX:18

 備考:時折、麻痺の効果が発動する(小)


 ……うん、まあ、使える物は使うけどね。

 でもなぜ暗器? なにかが間違った方向に進んでいる気がするんだ。なにかが。

 私は隠し爪をジャケットの袖に仕込みながら、複雑な気分を味わっていた。


 そうして、私達は奥にかけられている姿見へと足を進めたのである。

主人公は着実になにかの道を歩んでいますw

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