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 落ちる、落ちてゆく。

 暗闇の中を、どこまでも落とされてゆく。


 私はしっかりとさやかちゃんの腕を掴み、離されないようにしながら辺りを見回した。

 あんなに小さな扉から、どうやって私まで入れたのかわからないけど、とにかくここはあの扉の中だと思う。

 宇宙空間のような、淡い光がまたたく暗闇の中、私とさやかちゃんは下へ下へと落ちていっている。


「り、リンお姉ちゃん……」

「大丈夫。絶対皆と合流するまで私が守るから。安心して」

「……うん」


 今にも泣き出しそうに大きな目を潤ませて、さやかちゃんは小さくうなずいた。

 うん、必ずなんとかするから。だから、頑張ろうね。

 私はうなずきを返すと流水を手に取った。

 暗闇の中で流水は青い光を帯びて輝いている。その刃を振るい、未だにさやかちゃんの腕を掴んだままの黒い手を切り裂いた。


 ヒィイイィイィ


 気味の悪い叫び声を残して、黒い手は消えた。


「リンお姉ちゃん……」

「うん、大丈夫」


 しがみついてきたさやかちゃんの頭を撫で、私は下を見やった。ぼんやりと見えてきたあれは、回廊だろうか。中心には一つの部屋がぽつんと建っている。

 暗闇の底で、灰色の回廊と怪しげな部屋が私達を待ち構えていた。


 ふわり、と回廊に降り立つ。

 回廊は細く長く、ゆるやかな曲線を描いて中心の部屋に向かっている。明らかに怪しいけど、あの部屋に向かうしかなさそうだ。

 私とさやかちゃんは顔を見合せてうなずきを交わし、慎重に回廊を歩きだした。


 回廊は、非常にややこしく入り組んでいた。迷路になっている長い廊下を、私の【直感】頼りで進んでいく。


「リンお姉ちゃんがいてくれて良かった」

「うん、さやかちゃん一人がここに落ちなくて本当に良かったよ」


 たとえ迷路になっていなかったとしても、こんなところにさやかちゃんが一人で落ちなくて良かった。もしそんなことになっていたら、ユキトさんなんて心配のあまり、何をするかわからないな。

 いや、今もそうかもしれない……早く、皆と合流しないと。

 半泣きで慌てているユキトさんの姿が脳裏を過り、私は改めてさやかちゃんを守る決意を強める。


「ピィ、ピィ!」

「あ、うん。レヴィもいるしね」

「蛇さん、どうしたの?」「多分だけど、自分もいるよー頼りにしてー、みたいな感じだと思う」

「へえ、そうなんだ。蛇さん、ありがとう!」

「ピィ!」


 私の肩の上でレヴィは胸を張ってみせる。任せて! みたいな雰囲気だ。

 でも、まだ活躍らしい活躍はしてないんだけどね。可愛いから、まあ、いいけど。


 そんな話をしながら、長く複雑な回廊を歩き続け、私とさやかちゃんはようやく中心の部屋にたどりついた。


「ようやく部屋にたどりついたけど……」

「ピィ?」

「入らないの? リンお姉ちゃん」


 うーん、と私は眉をひそめる。正直、複雑な感じなのだ。


「ここに行かないといけない気はするんだけど」

「だけど?」

「……すごく嫌な感じもしてる」

「……ええー」

「ピィ……」


 私の言葉にさやかちゃんはものすごく嫌そうな声を上げた。ついでにレヴィも似たような鳴き声を出す。

 いや、でも本当にそう感じているから仕方ないよね。

 行きたくない。だけど、行かなくちゃいけない。


「……とにかく、何があってもいいように警戒して行こう。いいね? さやかちゃん」

「……うん」

「ピィ! ピィピィ!」

「蛇さん、なんて言ってるの?」

「多分、自分がついてる、頑張って! ……かなあ」

「そっか。ありがとうね、蛇さん。うん、さやか頑張る!」

「ピィ!」


 不安そうな顔をしていたさやかちゃんだけど、レヴィの応援でやる気を取り戻したようだ。

 私はレヴィの頭を撫でて、流水を握る手に力を込めた。

 さあ、部屋に入ってみようか。




「うわあ……」

「ピィ……」

「ふわぁー」


 部屋の中に入って、私達はあんぐりと口を開けた。

 鏡、鏡、鏡。壁一面に、大小様々な鏡がかけられていたのだ。ミラーハウスにちょっと似てるかもしれない。


「さやかちゃん、私についてきてね。鏡に近寄っちゃ駄目だからね」

「うん、わかった」


 さやかちゃんを連れて、まず一歩中に足を踏み入れる。鏡に姿が映る。

 ……よし、何も起きない。

 部屋は広く、そして中央に宝箱が置いてあった。


「怪しい……」

「ピーィ」

「怪しさ満点だね、リンお姉ちゃん」


 怪しすぎるけど、どうしたものか。

 宝箱は頑丈そうな鉄製で、青色と赤色、二つあった。

 どちらかを選べ、ということだろうか。


「……リンお姉ちゃん、どっちを開ける?」

「うーん……」


 なぜか、勘が働かない。私は宝箱を眺めながら腕組みをして唸った。


「さやかはわかんないから、リンお姉ちゃんが選んでね」

「ピィピィ」


 さやかちゃんとレヴィが私の決定を待っている。

 ……赤より、青の方が安全そうだよね?


「よ、よし。開けるよー」


 さやかちゃんを少し下がらせて、青色の宝箱を開けてみることにした。


「頑張れ、リンお姉ちゃん!」

「ピィ!」


 一人と一匹の声援を受けて、私はそろそろと手を伸ばし、宝箱に触れる。

 開けようとして力を込めたけど。


「……開かない」


 なんと、鍵がかかってた。


「ええー」

「ピィー?」

「ちょ、ちょっと待ってね。うーんと」


 持ってて良かった【鍵開け】のスキルとトラップツール。

 スキルレベル5になっている【鍵開け】のおかげで、それほど時間をかけずに宝箱を開けることが出来た。


「えーと……ネックレスが入ってるね」


 中には、銀と青い宝石で作られた華奢なネックレスが入っていた。

 【鑑定】してみて、目を丸くする。


 【修行の首飾り】

 備考:ステータスの一部が下がる代わりに取得経験値が増加する。


 うわ、レアアイテムだ!

 効果を聞いたさやかちゃんも驚いた表情になる。


「すごーい! やったね、リンお姉ちゃん!」

「ピィピィ!」

「うん。皆に合流した後で、このアイテムをどうするか決めようね」

「え? リンお姉ちゃんの物になるんじゃないの?」

「ピィ?」

「違うよ。今回はパーティーで来てるから、皆の物になるんだよ」

「ふぅーん、そうなんだー」

「ピィー」


 納得したのかレヴィとうなずき合っているさやかちゃんに笑みを誘われながら、ネックレスをインベントリに入れておく。


「じゃあ、もう一つの宝箱を開けてみようか」

「うん!」

「ピィ!」


 私はまたさやかちゃんを少し下がらせてから、残った赤色の宝箱を開けた。


 ――ビーッ、ビーッ


 とたんに鳴り響くサイレン。やばい、トラップだった!!


「り、リンお姉ちゃん……!」

「さやかちゃん、こっちに来て!」

「ピィ、ピーィ!」


 私はさやかちゃんを背に庇い、何が起きてもいいように、流水を構えた。

 あり得ない光景に目を剥いたのは、そのすぐ後のことだった。

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