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ウィンドウを開き、私は武器を装備、の欄にチェックをいれる。最初に選択できる種類の中から私が選んだのは、短剣だ。
ポーン。軽い音と共に、利き手である右手に鞘に入ったままの短剣が現れる。
【初心者の短剣】
ATK:15 SPED:5 DEX:3
攻撃力の低さとリーチの短さは厳しいが、素早さ補正が魅力的なので、これに決めた。つい最近までやりこんでいたゲームで使用していた武器だというのも大きい。
鞘に付けられていた皮紐とフックでベルトに下げて、抜いてみる。
レベルが低いせいか多少重く感じるけど、これくらいなら大丈夫かな。
モンスターに見つからないように木の影に移動して、抜き身の短剣を横凪ぎに振ってみた。
空気を切り裂き風が生じる。続けて、上から。斜めに、そして一歩を踏み込んで突き上げた。
――うん、大丈夫。
オンラインは初めてだけど、アクションゲームには慣れている。動きは鈍いし力は無いけど、なんとかなりそうだね。
短剣を持ったまま木の影から様子を伺うと、タンポポは先程と同じくふわふわの頭部を揺らめかせて立っていた。よくよく観察すると、綿毛の奥には赤い光が二つ瞬いている。あれが眼だとすると、タンポポは此方に背を向けた格好であり、絶好の機会と言える。
私は一度深呼吸して、木の影からそっと足を踏み出した。息を潜め足音を殺し、慎重に近付いてゆく。
最新式のVRは、ゲームとしての制限をかけたまま、リアルさを追及している。 例えば、目の前に落ちている木の枝を踏んでしまったら、現実と同じように折れるだろう。ポキリと音をたてて。
だからこそ、慎重に動かなければいけない。
タンポポの様子を観察しながら、じりじりと距離を縮めていると、ふと、これ以上近付いたら気付かれてしまう、と感じた。
私は右手の短剣を強く握りしめて、大きく息を吸う。1、2、――よし!
「ふっ!」
息を吐くと同時に、踏み出した足に力を込めて瞬時に距離を詰める。気付かれる前に一撃を入れないと、奇襲の意味が無い。
うねっていたタンポポが茎を捻って振り向くその一瞬、私の短剣は狙い通りに、タンポポの二枚の葉っぱの一枚を切り裂いた。
甲高い声を上げて怒るタンポポから、すぐに距離をとる。……どこから声がでてるのか謎。いや、それを言ったら全てが謎だけど。
バックステップで距離をとり、残る片葉で仕掛けてきた攻撃を避けて、再び剣を振るう。リーチの無さで上手く当たらない。
それをわかっていた私は、頭を下げて葉っぱを潜り抜け、返す刃で葉の根本に一閃。葉っぱを切り飛ばした。
「これで攻撃手段は封じーって、うわっ!?」
なんと、タンポポはふわふわの頭を回転させて私に叩きつけてきた。驚いた私は、ろくにガードも出来ずに攻撃を受け、地面に叩きつけられる。
ゲームだから、痛覚は鈍い。
しかし、バトル時のみ頭上に表示される私のHP(生命力)バーは、ガクッと減った。
「油断したー。もっと注意しなきゃ」
ソロプレイなんだから、攻撃は全部避けるくらいのつもりじゃないと駄目だよね。
横に転がって距離をとり、起き上がった私は、気合いを入れ直して短剣を構えた。
間合いを取ったままタンポポの動きをしばらく観察すると、パターンがあることに気付いた。
動く前には、必ずうねうねと頭を動かし、そして、頭を回転させた後は数秒停止するのだ。
タンポポのHPバーはすでにレッドゾーン。
パターンを把握した私の敵では無かった。
淡い光の粒子となって消えたタンポポに、私はようやく息を吐いて肩の力をぬいた。
いや、端から見てたら、なんかほのぼのというかシュールというか何植物相手に必死こいてんだよwって感じなのはわかってる。
でも、レベル1の私にとっては真剣な勝負だったんだよ。因みに、ドロップアイテムは、三つ手に入った。
【ダンデリードの綿毛】と、【根っこ】と、50C。
あのタンポポ、ダンデリードっていうんだね。
50Cは、お金。なんだか少ない気がするけど、こんなものなのかな? ドロップアイテムを売ってお金にするとか?
今の所持金は、ダンデリードからの50Cを含めて、1050C。……次は、一旦街に戻って、お店でも覗いてこようかな。
ひとまず、油断しなければ一人ででも戦えることを確認して、私は来た道を戻ったのだった。
補足説明。
C=coin。……すみません、わかってます。どこかでネーミングセンスを売っているお店ってありませんかね……orz