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 評価やブクマ、ありがとうございます。励みになります。


 本来は週一の更新を目指しているオンラインですが、明日まで連続投稿することにしました。その後はまた週一です。(目指しているだけなので、絶対というわけではありません)


 これからもよろしくお願いします。

 夏である。青い空には入道雲、白い砂浜に潮の香り。

 私は与一さんに誘われて、海に来ていた。もちろん、《World》の中での話だけど。


「リンさん、今日は目一杯遊びましょうね」


 と、にこやかに微笑む与一さんは、なんと黒のビキニ姿だ。スレンダーボディは真っ白で、黒のビキニが艶めかしい。長い黒髪は高い位置でポニーテールにしている。


「あっ、かきごーりがあるよ、ヨイチ。後で食べよーね」


 うきうきと周りを見渡してかき氷の屋台に目を奪われているのはマリアロッテくん。彼女……でいいかな。彼女は髪と同じパールピンクのフリル付きビキニ。可愛くて、ちょっと色っぽく、小悪魔チックだ。


「は、はい。今日はよろしくお願いします」


 ぺこり、と与一さんに頭を下げる私も、実は水着姿だ。

 海に誘われ、教えてもらった馬車に乗って来たら、二人とも水着姿で。しかも私の分まで用意してあったのだ。

 これで私もビキニだったら断っていたけど、私の水着は無難な水色のワンピースタイプだった。短いけどパレオも付いていて、可愛い。

 そして水着に着替え、今に至る、というわけである。


「夏と言ったら海だよねーわんこのおねーさんは泳げる?」

「うん、それなりに、かな」

「まあ。でしたら、後で海水浴もしましょうね」


 和やかに会話しながら、私達がやっているのは、狩りである。水着姿で。

 海とはいえ、ここは《World》の中。当然モンスターもいる。

 私達は巨大なヤドカリを相手に戦っているのだった。


「ていっ」


 マリアロッテくんが巨大な斧を振り回し、与一さんが弓を射る。私はちょこまかと砂浜を駆け回り、回避盾の役割を果たしていた。

 ヤドカリの名前は【ブルーシェル】。その名の通り青い貝殻を背負っていて、攻撃しようとすると中に逃げ込んでしまう。私一人じゃ、きっと倒せないだろうな。


「よっし、これでしゅーりょーだよっ」


 マリアロッテくんが戦斧を振るう。どがん、と音をたててブルーシェルは吹っ飛び、光の粒子になって消えた。

 ドロップアイテムは、【青い貝殻の欠片】と【貝の身】……貝の身?


「食べれるんでしょうか……」

「結構いけますよ」

「あ、もう食べたんですか」


 意外とアグレッシブだな、与一さん。マリアロッテくんは「生はやだー」と渋い顔。うん、私も貝は料理した後の方がいいな。今度トオルのギルドに持っていって、調理してもらおう。

 そんな感じで戦っていると、パーティーのお誘いを受けたりもする。


「ねえ君たち、三人だけっすか?」

「俺達も三人なんだけどさ、パーティー組まない?」


 と、こんな感じでナンパ同然のパーティー勧誘が来るのだ。当然、受けない。


「悪いけどー、そーゆーの間に合ってるから。ごめんねー」

「お断りいたします。申し訳ありません」


 マリアロッテくんと与一さんは慣れているらしく、こんな調子で断っている。大抵はこれで諦めてくれるんだけど、中には諦めの悪い人達もいたりする。


「いーじゃん。俺達の仲間、後一人いるんだけど遅れててさ。そいつが来るまででいいからさ」

「そうそう……って、そっちの犬耳の子、なんか見覚えあるなー?」

「え?」


 指を差され、私は目を瞬いた。うーん? 言われてみればどこかで見たような……?


「うわ、古いナンパのやり方ー。わんこのおねーさん、どーせ嘘だから引っ掛からないでよ?」

「いや、本当に見覚えあるんだって。どこでだったかな……」

「私も、どこかで会ったような気が……」


 水着姿の男性プレイヤー達は首をかしげ、私をじろじろと見ている。私もそんな彼らを眺め、引っ掛かりを覚えていると、後方から男性が一人現れた。


「おい、待たせたな。すまん」

「あ」

「ん?」


 私はその金髪のプレイヤーを見たとたん、思わず失礼にも指を差してしまった。同時に金髪プレイヤーの方も私を指差す。


「柄の悪い、金髪男!」

「すげー生意気な犬女!」


 お互い一瞬沈黙し、再び怒鳴りあった。


「生意気で悪かったですね!」

「柄の悪い金髪男って俺のことか、てめー!」


 そう。彼らは祈祷走の時私を散々邪魔した四人のプレイヤーだったのだ。




「ここで会ったが百年め、ってやつだな。おい、この前のリベンジだ。勝負するぞ」

「えっ、やだよ」


 金髪男に勝負を挑まれた私は顔をしかめた。


「なんで海で楽しんでいるのに、勝負しないといけないの。寝言は寝ていいなよ、金髪男」

「相変わらずムカつく女だなあ、犬女! 俺が納得いかねーんだよ、わかったか犬女!」

「わかんないし、私は犬女って名前じゃないよ金髪男!」

「俺も金髪男じゃねーよ。紅蓮ぐれんって名だ。覚えとけよ犬女!」

「私はリンだよ金髪男!」


 むううーと金髪男、紅蓮と睨み合う。そんな私達を見て与一さんが首をかしげた。


「あらお知り合いでしたのね。ならわたしは構いませんけど……勝負って、決闘ですか?」

「んー、ボクもやってもいいけど。あ、ちなみにボクはマリアロッテ。で、こっちはヨイチね」


 マリアロッテくんと与一さんの名前に、紅蓮は少したじろいだ。


「マリアロッテに与一……ランカーじゃねえか。ずりーぞ、犬耳女!」

「そっちが吹っかけてきた喧嘩でしょ、金髪男」


 と、また睨み合う。紅蓮の残りのメンバーが与一さん達に自己紹介するのが横目で見えた。


「ども、俺はヨナルデ。よれしくー」

「俺はユールっす」

「え? ヨナルデとユール? もしかして象人間とかもいたりする?」


 なぜかマリアロッテくんが食い付き、ヨナルデが嬉しそうな笑顔になった。


「おっ、知ってるの? いやー、それが違うんだよ。こいつはライ。果物獣でもコウモリ野郎でもいいのによー」

「……お前達と一緒にするなよな。俺はオタクじゃねーんだよ」

「ノリ悪いんすよ、こいつ。てか、マリアロッテって、そっちもアニメキャラの名前っすよね?」

「あっ、知ってる? えへへ、古いアニメなのにうれしいな」

「俺とユールは古いアニメとか漫画とか大好きなんだよ。な」

「そっすよ。いいっすよねー」


 と、いう感じでマリアロッテくんは、ヨナルデ、ユールとアニメ話で盛り上がっている。与一さんとライは呆れ顔だ。


「とにかく、勝負だ! おい、てめえら準備しろ!」


 紅蓮の言葉に、なにやら悪魔召喚の呪文のような怪しい歌を歌っていたマリアロッテくん達は、仕方ないなあって表情で離れた。それにしても趣味が同じって凄いね。あっという間に仲良くなってる。

 でも、祈祷走の時と態度が違いすぎる……あれかな、与一さんが美人でマリアロッテくんが美少女だからかな。うん、やっぱりムカつくね!

 まあ、そういうわけでなんだかんだと、なし崩しに決闘をすることになった私達。知らない間にギャラリーが集まっていて、人見知りの私は今更緊張してきた。


「だいじょぶ? わんこのおねーさん」

「う、うん、平気……かな。それより、ごめんなさい。私のせいで決闘なんてすることになっちゃって……」

「んー。前のカリを返すってコトでいーよ。ね、ヨイチ」

「ええ。気にしないで下さいな」


 ウインクするマリアロッテくんと微笑む与一さん。二人とも優しいなあ。


「でも、こっちは三人で向こうは四人。数では不利ですよね」

「ボクとヨイチがいるんだもん。だいじょぶだよっ」


 と、マリアロッテくんは親指を立てるけど、私は不安を拭えない。だって、ついこの間、フール君との戦いで負けたばっかりだし。

 うーん、と悩んだ時だった。


「リンお姉ちゃん、さやかが手助けしてあげる!」


 可愛らしい声とともにギャラリーから飛び出してきたのは、淡い緑色の髪の女の子。いつかの雨の日、カエルに攫われかけていた妖精族のプレイヤー、さやかちゃんだった。


「えっ、さやかちゃん? うわ、久し振りだねー」

「うん! リンお姉ちゃん久し振りーっ!」


 さやかちゃんはとてとてと私に近づくと小首をかしげて、えへへ、と笑った。


「ユキトさんは?」


 まさか一人の筈が無い、と尋ねると、さやかちゃんは遠くに見える屋台を目で示した。


「ユキ兄は買い物中。でもそんなことより、リンお姉ちゃんは今から決闘するんでしょ? 前、リンお姉ちゃんに助けてもらったお礼に、今度はさやかが助けてあげる!」

「き、気持ちは嬉しいけど……」


 さやかちゃんはきっとリアル小学生だ。保護者同伴だし。その保護者抜きで決闘に参加させていいものか、どうか。よくないよね、うん。


「でも駄目だよ。ユキトさんにも怒られちゃうよ?」


 私がしゃがみこみ、目線を合わせてそう言うと、さやかちゃんは頬をリスのように膨らませた。


「むー。じゃあ、ユキ兄の許可が貰えたら、いーい?」

「えっと、それは……」


 ちらり、と与一達を見る。与一さんとマリアロッテくんは頷いた。


「ボクはかまわないけど? 一緒にやっつけよー」

「わたしも構いませんわ。よろしくね、さやかさん」

「う、うん……じゃなくて、はい。よろしくお願いします」


 ちょっと緊張気味にさやかちゃんが頭を下げる。そこへタイミングよく、さやかちゃんを探すユキトさんの声が聞こえてきた。




「決闘……ですか」


 さやかちゃんの若い叔父さんらしい鬼族のプレイヤー、ユキトさんは私の話に難色を示した。当然だと思う。


「やっぱり駄目ですよね」

「うーん。代わりに俺が出ちゃ駄目ですか?」

「ダメーっ! さやかがリンお姉ちゃんを助けるの!」


 と、さやかちゃんは自分が出るの一点張りだ。


「おい、犬女。まだか? いつまで待たせるんだよ」

「もうちょっと。……ねえ、金髪男。人数が五人でもいいかな?」

「はあ? ランカーが二人もいるくせに何言ってんだ。ふざけんなよ、犬女」

「……だよねえ」


 確かにその通り。ならやっぱり三人で受けるかな、と考えていると。


「さやかさんは魔法使いですか?」


 与一さんがさやかちゃんに話し掛けた。


「……攻撃魔法も使えるけど、回復が得意。ユキ兄が戦うのを手助けしてます」

「まあ、偉いですね」

「ありがとうございます……えへへ」


 はにかむさやかちゃんの頭を撫でて、与一さんはユキトさんに向き直った。


「ユキトさん、とおっしゃいましたわね」

「え、は、はい」

「さやかさんはヒーラー。なら、わたし達が守って戦います。さやかさんには攻撃させないと約束しますから、さやかさんを参加させてくれませんか?」

「えっ、でも……」

「さやかからもお願い! 攻撃されても泣かないから!」

「……うーん」


 ユキトさんはさやかちゃんを見て困った顔をさらに困り顔にして、やがて溜め息をついた。


「……攻撃されたら、少し痛いし、怖いぞ? いいのか?」

「平気だもん!」

「はあ。言いだしたら聞かないからなあ……すみませんが、よろしく頼みます」

「やったあ!!」


 ユキトさんが折れて、私達のパーティーはさやかちゃんを入れて四人になった。

 「遅い!」と苛々していた紅蓮からさっそく決闘の申し込みが来る。


 ――プレイヤー【紅蓮】から決闘を申し込まれています。受けますか?

 《YES/NO》


 NOを押したい気持ちになったけど、今からかうと紅蓮がキレる気がする。私はYESを選択すると《流水》を手に取った。

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