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フール君が立ち去った後、私達は顔を見合せ苦笑を交わした。
「強かったですねー」
「さすがトップランカーだな」
「あれは卑怯だよー」
皆、口々にフール君の強さを語る。うん、あれだけ力の差を見せつけられたら、もう笑うしかないって気分だ。
そんな中、トオルだけは仏頂面をしている。
「……次は絶対に殴ってやる」
なんて忌々しげに呟いていたりして、正直こわい。なんだろ。私が知らないところで何かあったのかな。あまり話もしていなかった気がするんだけどな。
「リンちゃん、そろそろ行くよ?」
「あ、うん」
うーん、と考えていたら露草に声をかけられた。皆はゆっくりと階段に向かって歩き始めている。
私はレーヴに一声かけようとして、言葉につまった。
静かな地底湖に囲まれて佇むミシャのお墓と、その隣に立つレーヴ。その光景がとても綺麗なのになんだかすごく淋しく感じられて、言葉を失ってしまったからだ。
「……なんだ? 行かないのか?」
「あ、えっと……ミシャのお墓に手を合わせてもいいかな?」
とっさにそう答えると、レーヴは翠の眼をまたたき、ややして頷いた。
「……かまわんが」
「ありがとう」
なんとなくその場から離れがたかった私は、お礼を言ってミシャのお墓の前に立った。
インベントリから花を取り出す。それは、白い大輪の花。
「それは……ミシャが好きだった、ソワレの花」
「ソワレの花っていうの? これ、前に上で摘んだんだ」
地上の石碑と違ってここには花がない。だから余計に淋しく感じられ、ふとこの花を持っていたことを思い出したのだ。
花を置き、手を合わせてる。
ゲームの中だけど、なんとなく、祈っておいた。
ミシャのことを今でも守っている、レーヴのために。
「……じゃあ、私も行くね」
階段の手前で皆が待ってくれている。立ち上がり、踵を返そうとしたところで、レーヴに「待て」と止められた。
「え? なに?」
「……礼は大事だと、ミシャは言っていたからな」
いつか聞いた言葉を口にして、レーヴが差し出したのは、灰色がかった白の……
「……卵?」
「我が眷属の卵だ。持っていくといい」
小さな卵を差し出され、私が戸惑っていると、レーヴは続けていった。
「しばらくしたら孵り、微力ながら役にたつだろう。花と、墓参りの礼だ。……お前はシルト村の友人のようだしな」
「あ、ありがとう」
さらに差し出され、私はようやく卵を受け取った。ほんのりと暖かいそれに、【鑑定】をかけてみる。
【レーヴの眷属の卵】
まだ卵の状態。譲渡不可。
うーん……インベントリに入れても大丈夫かな。
でも持ったままだと何かの拍子に割れちゃいそうだし、とインベントリにしまう。
「次元鞄にしまっていてもいいが、たまには暖めてやってくれ」
と、レーヴに注意された。気を付けておこう。
さて、と気を取り直して私はレーヴに笑顔を向けた。
「じゃあ……またね」
さよならの代わりにそう言うと、レーヴもふわり、と柔らかい笑みを浮かべた。
「ああ、またな」
そして私はレーヴと別れ、皆のところに向かった。
「卵? ええーっ、リンばっかりズルいですよー」
「うんうん、うちも欲しいっ」
「え、えーっと……ごめん」
「おいおい、リンさんが困ってるぞ」
「リン、こいつら半分はお前をからかってるだけだから、気にするな」
私がレーヴから卵を貰ったことを話したら、こんな感じの反応が返ってきた。うーん。からかわれてる、のかな?
トオルの言葉に露草が両手を腰にあてて、片眉を上げる。
「いや、確かに半分はからかってるけど、羨ましいのも本当だよ? リンちゃん、卵が孵ったら見せてね」
「ですねー。すぐ教えてくださいねー」
「うん、わかったよ」
「俺も気になるな」
「リン、俺にも見せてくれ」
と、いうことで卵が孵ったらまた皆で集まることを約束した。もうシルト村のイベントも終わったからね、皆ぼちぼち《白の都》に帰るのだ。
……淋しくなるなあ。
「リンは、都に帰ったらどうするんですー?」
階段を上りながらユノが話を振ってきた。
「うーん。特に予定はないよ。またイベントとか探そうかな」
「そっか。うちも面白いのあったら誘うからリンちゃんも何かあったら誘ってね」
「あ、露草ズルいですよーもちろん私も誘ってくださいね、リン」
「うん、もちろん!」
露草、ユノと約束したことで淋しい気持ちが少し紛れる。うん、また誘えばいいんだよね。
「それにしても長い階段だな……」
トオルがうんざりしたように呟いた。
「そうだね。どこまで続いてるんだろ」
「あ、そろそろみたいですよー」
ユノが指差す先には、ちょっと開けた場所があり、私達が近づくと天井にあたる部分が音をたてて開いた。
「ここは……レーヴ像?」
外に出てすぐ目に入ったのは湖だった。少し離れてシルト村の明かり。そして出てきた場所を見ると、なんとレーヴ像の足元だった。
皆が出ると、足元に空いた穴がゆっくりと閉じる。
「もう夜なんだねー」
露草が月明かりに照らされた周囲を見回す。森に向かった時はまだ昼前だったのに、もう夜更けだった。
「誰かに見られて質問されると面倒だ。移動しよう」
トオルの言葉にその通りだね、と頷き、シルト村に向かって歩きだす。私は少しだけ振り返って、湖を眺めた。
丸い月がなだらかな湖面に写って、ゆらゆらと揺れている。
……なんだか、いろんなことがあったなあ。
「リン? 行くぞ」
「あっ、うん。待って」
足を止めて振り返ったトオルが私を呼ぶ。私は湖を見るのをやめて小走りに皆を追い掛けた。
こうして、シルト村での日々は終わりを告げ、私は翌日また馬車に乗って《白の都》に帰ったのだった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
長かったシルト村編もようやく終了です。(携帯投稿なので章分けはできませんが)
よろしかったら感想など頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。




