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 笑顔のフール君。戸惑う私達。

 突然レーヴのお宝だという翠の宝玉を欲しがり、決闘も辞さない覚悟を示したフール君に、私達は困惑しきりだ。

 私は、そんなに欲しいなら譲ってもいいけど。


「……いきなりそんな事を言われてもな」

「ですよねー」

「うーん」


 ルーゼフさんや皆は渋い顔だ。確かに、最初から話してくれていたら、と思う。なんだか、みずくさいと言うか……全く信用されていない感じ。ゲームだし、そんなに深刻な事じゃないんだけど、なんとなくちょっとショックだ。

 それに、皆にとってはここまで頑張った証でもある。一人だけそれを欲しがっても、簡単に受け入れるわけにはいかない。

 でも、フール君も退くつもりはないようだ。


「やっぱり、駄目みたいだね。――なら」


 と、フール君が空中をタップする。同時に、私の目の前に半透明のウインドウが現れた。システムからのメッセージだ。


 ――プレイヤー【真白】から決闘を申し込まれています。受けますか?

 《YES/NO》


 ……決闘はわかる。でも、真白?


真白ましろ? お前はフールだろ?」


 戸惑いながらトオルが尋ねる。そう、フール君だ。パーティーメンバーの名前を見ても、フールとなっている。


「ごめんね。実は、スキルで隠してたんだ。本当の名前は真白だよ」


 フール君が言ったとたん、パーティーメンバーの名前が変化した。私にトオル、露草、ユノ、ルーゼフさんに……真白、君。


「なんだって隠したりなんか……」


 言い掛けたルーゼフさんがハッとしたように息を呑む。


「真白? まさか、あの真白か? 現トップランカーの?」

「トップランカー……フール君が?」


 驚きに目を丸くして見つめると、フール君……ううん、真白君は苦笑する。


「うん、まあね。だから本名は隠してフールと名乗っているんだ。皆も、僕の事はフールと呼んで欲しい」

「……フール君、でいいの?」

「うん。目立つのは好きじゃないんだ」


 真白君……フール君、でいいのかな。フール君は肩をすくめる。なんだか、トップランカーと言われても、正直実感が湧かない。知らない人の話みたいだ。

 ぼんやりそう考える私の隣で、トオルが腕を組む。


「……気に入らないな」


 鋭い目線でフール君を睨み付けながらトオルは言った。


「なんで、今まで隠してた。玉の事もそうだ。パーティー組んでここまで来たのに、自分の事は最後まで隠してて、で、自分の要求は通したい。……ふざけんなよ」

「トオル……」

「うちもそう思う」


 トオルに続いてそう言ったのは露草だった。


「言いたくないことがあってもいいし、ネットだから自分の事隠すのは当然だけど、自分の言い分だけ通したいっていうのはダメでしょ。皆で頑張って手に入れた物を自分一人の物にしたいんなら、ちゃんと話しておくべきだったよ。名前が偽名だったとかは別にどうでもいいけどさ。玉はあげたくないな」

「露草……」

「私も露草と同じ意見ですー」

「ユノ……」


 私は最後の一人であるルーゼフさんに目を向けた。


「……交渉は決裂だな。決闘も受ける意味がない」


 ルーゼフさんは苦々しい口調できっぱりと告げた。

 フール君が笑みを消す。皆と睨み合うフール君の姿に胸が苦しくなった。


「や、やめようよ、こんなの」

「リン?」

「リンお姉さん?」


 私はフール君と皆、両方を交互に見ながら訴える。


「せっかくこうして最後までたどり着いたのに、ギスギスして終わるなんてもったいないよ。もっと、お互いが納得出来るように話し合えないかな」

「とは言ってもさ、リンちゃん。はいどうぞー、なんてあげちゃうのはさすがに嫌だよ?」

「ですよねー」

「うん、それはそうだよね。私もそう思うよ。でも、何かお互い納得できる方法はないかな」


 渋い顔の露草とユノの言葉に、私も頷く。なにか、他に方法があればいいんだけどな。

 私が悩んでいると、フール君が少し考えて言った。


「話し合い、ね。そうだね……なら、商談といこうか? 僕がその玉を買い取る。それならどうかな」

「……金で解決するのはなんかすっきりしないな」


 顔をしかめるトオルに、そうだね、とフール君はインベントリから何かを取り出す。


「確かにお金だけでっていうのは味気ないかな。なら、決闘を受けてくれたら僕はこれを賭けるよ」


 フール君がインベントリから取り出したのは、レーヴの宝とそっくりの宝玉だった。違うのは、それが白だという点くらいだ。


「宝玉を賭けて決闘する。勝った方が両方手に入れる。それプラス、僕が勝ったら宝玉の代金も払うよ。それでどう?」

「……勝っても代金を払うのか?」

「払うよ。皆がここまで頑張ったのは僕も知ってるしね。一万Cでどうかな」

「ふむ……」


 ルーゼフさんの問いかけにフール君はあっさり頷き、金額を提示する。それを聞いたルーゼフさんは私達へと目を向けた。


「俺はこれなら受けてもいいと思うが。皆はどうだ?」

「わ、私も受けてもいいです」


 はい! と手を上げて答えると、周囲から溜め息がもれた。え?


「……リンちゃんってば、もう。まあいいわ。リンちゃんに免じて受けてもいいことにする」

「リンに感謝してくださいねー」

「うん。ありがとうリンお姉さん」

「う、うん」


 諦めたような露草とユノの視線と、にっこり笑顔のフール君。まあ、丸く収まってくれるなら良かった。


「……決闘で殴ってやる」

「やれるものなら、どうぞ」


 トオルがなぜか物騒なことを口走り、フール君が余裕の笑みで受けてたっているのは謎だけど。なんでこの二人は火花を散らしているんだろ。


「……面白い展開だな」


 すっかり空気となっていたレーヴがのんびりと呟いた。




 決闘を受けると、フール君がパーティーから外れた。そして以前市場で見た《審判》が現れて、私達を透明なドームで囲む。あの時は外から眺めていたけど、今は内側だ。


「結界の中って、こうなってるんだね」


 まず、外が見えない。外からは中が見えていたのに。これはあれかな、外のギャラリーとかを気にしないですむようにかな。うん、助かるね。

 そして、広い。前も思ったけど、結界の中だけ広いって、不思議な感覚だ。でも、便利なのは確か。

 風もないのにローブをはためかせる《審判》を挟んで私達は向き合った。


「でもいいのか? 五対一だぞ? 今更だが」

「かまわないよ」


 ルーゼフさんの懸念に笑って答え、フール君は杖を構える。


「一人ってわけじゃないからね。――召喚。《ロボ》《アラクネ》《浮舟》《ミズチ》《ピット》」


 杖の先に魔方陣が描かれ、フール君の周囲に光が集まり、その光が大小の形をとり、色を纏う。


「ええっ!?」


 私は――私だけじゃなく、皆は、目を見開いた。フール君の周囲に現れたのは、五体のモンスターだったのだ。


「お前、サモナーだったのか」

「うん、まあね。皆を紹介するよ」


 トオルの問いかけにフール君は微笑んだままモンスターを一体づつ指差した。


「まず、ロボ。こっちの子がアラクネ。で、浮舟でミズチ。最後にピット」


 ロボと呼ばれたのは全身が真っ白の狼だった。かなり大きくて、蒼い目をしている。

 アラクネは黒地に赤の模様がある蜘蛛。水蜘蛛よりもずっと大きくて毒々しい。

 浮舟はなんとグリフォンだった。体は牛くらいはありそうで、鷲の頭と翼を持っている。

 ミズチは蛇。このモンスターも大きく、そして頭が二つあった。青白い双頭の蛇だ。

 そしてフール君が片手に載せたのは、小さなハリネズミだった。この子がピットだろう。

 サモナー、召喚士。まさかフール君がサモナーだったなんて、という驚きと、なんだか納得している部分もある。魔法使いじゃ、ソロは厳しいもんね。


「……自信があるはずだな」

「うーん。形勢逆転、ですねー」


 ルーゼフさん、ユノが難しい顔で召喚モンスターを見る。確かに、数の上でも負けてしまっている。


「悪いけど、本気でいかせてもらうよ」

「……上等だ」


 フール君の宣言にバトルハンマーを構えたトオルが答え、私達の決闘は始まった。




「グルガァッ!」


 始まったとたんに吠えたのはグリフォンの浮舟だった。とたん、風が渦を巻き私と露草、盾役二人に襲いかかる。思わず足を止めたところを、白狼のロボに体当たりされて後ろに吹っ飛んだ。うう、今日二度目だよ。

 あの時とは違ってヒールをかけてくれる人はいない。痛みを堪えて立ち上がり、戦線に復帰する。だけど、それは少し遅く。


「ひゃあっ」


 グリフォンの鋭い爪の一撃を受け、ユノが戦闘不能になってしまった。決闘でHPがゼロになっても死に戻りはない。でも、バトルフィールドからは出されてしまい、私達は四人になった。


「くそっ!」


 舌打ちするトオルは、ルーゼフさんと共に蜘蛛のアラクネと戦っている。アラクネが吐き出す糸に苦戦しているようで、そこに浮舟も加わり、さらに劣勢となっていた。


「リンちゃん、フールを狙って! サモナーを倒したら召喚モンスターは消えるから!」

「わ、わかった!」


 露草の言葉に頷き、私はフール君を目指して駆けた。ロボが行く手を防ぐけど、構うことはしない。軽くフェイントをかけてうまく横を擦り抜ける。


「あんたは、うちと遊んでな!」


 露草が私を追いかけようとしていたロボを引き付ける。これで、後はミズチを抜けばフール君のところに行ける。

 手に持った《水流》を軽く振り、刃を少し伸ばす。ミズチが私に襲い掛かると同時に、《水流》を大きく振るってミズチの尻尾を斬り付けた。


「キシャアッ」


 痛かったのか身をよじるミズチの横を駆け抜ける。よし、これでフール君を……!


「フール君!」

「来たね、リンお姉さん」


 フール君は余裕の笑みを浮かべて立っていた。その片手には、ハリネズミのピットが載ったままだ。


「でも、残念だけどおしまいだよ」

「えっ? ――っ!」


 ピットが丸まり、全身の毛を逆立てた。獣人の勘が強い警告を訴える。

 でも、逃げ場はなかった。

 ピットから放たれた無数の針が私の全身に突き刺さる。ガリガリと削れていくHP。とどめとばかりにフール君の声が聞こえた。


「ごめんね。【サンダーランス】」


 光と衝撃が私を包み込む。

 気が付いた時には、私は結界の外にいた。のんびりとしたユノの声がかかる。


「あー、リンもやられちゃいましたねー。大丈夫ですかー?」

「あ……うん」


 大丈夫。大丈夫だけど、はぁあ……。


「あっさりやられちゃったなあ……」


 まだ戦ってる皆を見ながら、私は溜め息をついたのだった。




 結果は、負けました。惨敗です。


「あー、強すぎるよ、モンスターめ!」

「そうだな、強かった」

「…………」


 ぷんすか怒っている露草はロボに負け、苦笑しているルーゼフさんはアラクネの糸に体を拘束されたところを浮舟にやられ。むすっとした顔で腕を組んでいるトオルは、最後まで粘ったけれどフール君に近づいた時、ミズチに攻撃され、そのまま倒された。

 結局、フール君は無傷のままだった。


「じゃあ、はい。一万C」

「……ああ」


 一人だけ笑顔のフール君がルーゼフさんに一万Cを渡す。なんだかなあ、という顔でルーゼフさんは受け取った。納得いかなくても受け取るのは、多分、皆のためなんだろうな。皆に分配しなきゃいけないから、もやもやとする気持ちを抑えて受け取ったんだと思う。そうじゃなきゃ、負けたから受け取らない、とか言いだしそうだし。確実にトオルはそう思っていそうだな。


「じゃあ、お宝は僕が貰うね」


 フール君がレーヴに近寄る。今まで黙って待っていてくれたレーヴはフール君に宝玉を差し出した。


「勝利をおさめた者に、我が宝を」

「うん、ありがとう」


 本当に嬉しそうにフール君は微笑み、宝玉をひと撫でしてからインベントリにしまった。


「帰りはどうしたらいいのかな?」

「道を開けよう」


 レーヴが言うと同時に後ろから音がした。振り返ってみると、リザートマンと戦った部屋に上に行くための階段が出来ていた。


「ありがとう。――じゃあ、皆、お先に」


 フール君が背を向けて歩きだし、ふと立ち止まって私を見た。


「リンお姉さん」

「う、うん。なに?」

「今回はごめんね。でも、また遊んでくれると嬉しいな。またね」


 にこり、と微笑まれ、私は苦笑を浮かべた。なんだか、憎めないなあ。


「うん……またね」


 そうしてフール君は一足先に地上へと帰っていった。

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