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中ボス戦。そう考えてもいいんじゃないかな。
私達はリザードマン対策をあれこれ話し合い、いざ挑もうとしていた。
「うちとリンちゃんが盾役。で、ユノとルーゼフ、トオルがアタッカー。フールは回復、サポートね」
露草が確認した通り、皆の役割はそうなった。意外だったのが、フール君。
「魔法使いの火力はもったいないが、回復役がいないのは不安だからな。頼む」
「任せておいて。頑張るよ」
ルーゼフさんの言葉に頷き、フール君は皆に攻撃力アップや防御力アップの魔法をかける。いろんな魔法が使えるんだね、便利ですごいなあ。
「よし、いくか」
皆の顔を見回してルーゼフさんが言う。頷いて私はポイズンククリを手に持った。
さて、リザードマンはどのくらい強いのかな。
戦闘はユノの魔法から始まった。
「【エアカッター】!」
鋭い風の刃がリザードマンを襲う。同時に私もナイフを一本、首筋を狙って投げた。
でも、どちらも空振り。リザードマンは軽々と避けて私に迫ってきた。
槍が凄まじい速さで突き出される。
「くっ」
避けたけど完全には避け切れず、腕にかすり傷を負ってしまう。うわ、かすり傷なのにHPがごっそり削られたよ!?
「【ヒール】!」
フール君の声が響き、私のHPが回復する。その間もリザードマンの猛攻は続いていて、私は避けるのに必死だ。でも、私が引き付けている間に陣形は整ったようだった。
「てりゃあ!」
ルーゼフさんがバトルハンマーを振りかぶる。リザードマンがそれに気付いて槍を突き出すけど、その一撃は露草が盾で受け止めた。
ルーゼフさんと、そしてトオルが続けて攻撃を加える。トオルの攻撃は避けられたけど、ルーゼフさんのはクリティカルを決めた。
「エアカッター、いきます。三、二、一、――ゼロ!」
そしてユノの魔法がヒットする。でもまだまだだ。まだリザードマンのHPはほとんど削れていない。
リザードマンの表情はよくわからないけど、多分余裕の顔をしていると思う。
「皆、連携いくぞ!」
ルーゼフさんの言葉に、緊張が走る。まずは、私からだ。
「やっ」
通常攻撃。上手く腕を斬り付けた。続いて露草、トオルが攻撃。よし、うまくいっている。後はルーゼフさんの通常攻撃が決まったら、タイミングよくスキルを――
「グガァアッ!」
突然、リザードマンが吠えた。そして、手に持った槍で縦横無尽になぎ払う。斜めに切り裂かれそうになり、私は慌てて後ろに飛び退いた。
「わっ」
「うおっ」
「くっ」
私以外の三人は攻撃を受けて吹っ飛ばされる。やばい、追撃される!
とっさに私はリザードマンに斬り掛かり、注意を引き付けた。三人が持ち直すまで、なんとか抑えておかなきゃ――って、強い!
攻撃が速過ぎて避けきれない。どんどんHPが減っていく。やばい、これはやばい。
右。突きが来る。左に避けたらなぎ払いが来た。しゃがみこんで躱したら、次は突きの連続だった。
うわー、もう。槍ってリーチがあるからズルい!
「リンちゃん、お待たせ!」
ギリギリの戦いをしていたら、露草が戦線に復帰した。少し遅れてルーゼフさん、トオルもやってくる。良かった――と、ホッとしたのが悪かった。
「うわっ」
どんっ、とお腹に重い衝撃を受けて後ろに吹っ飛ぶ。地面に叩きつけられて、ごろごろ転がり、咳き込む。少ししてじんわりと突きを食らった場所が痛んだ。
……これ、リアルなら絶対、お腹に穴が空いてる場面だよね。まあ、リアルで槍に突かれる事はないと思うけど。
「【ヒール】! リンお姉さん、大丈夫?」
「あー……、うん。痛みもなくなったし、大丈夫。ありがとう、フール君」
「どういたしまして。でも、強いね、あのリザードマン」
「そうだね」
立ち上がり、深呼吸をひとつ。
「――いってくるね」
「うん、頑張って」
フール君の声援を背に受けて、私はリザードマンに向かって走った。さあ、リベンジだ!
「もう一度、連携いくぞ!」
しばらく戦った後、ルーゼフさんが放った言葉に皆は強く頷いた。よし、今度こそ!
「いち!」
自然と掛け声が口をついて出た。
「に!」
「さん!」
露草、トオルも続けてくれる。リザードマンの攻撃を露草が受け止めて、ルーゼフさん。
「よん! ――よし!」
さあ、スキルだ!
「二連撃!」
「スラッシュ!」
「パワーアタック!」
どんどんどんっ、とうまく決まった。後はルーゼフさんとユノ!
「フルスイング!!」
轟音をとどろかせ、ルーゼフさんのハンマーがリザードマンの背中に打ち付けられる。
「ガァアアッ」
流石にこれは効いたのか、リザードマンが悲鳴のような声を上げて動きを止める。そこへ、連携のラスト、ユノの魔法が襲い掛かった。
「【エアカッター】!!」
戦いの時以外は滅多に聞けない、ユノの鋭い声。そして連続ヒットを決めた時の音楽が響く。
よっし、リザードマンのHPバー、あと僅かだっ!
「あとちょっと! 頑張ろう!」
「おう!」
「ああ!」
「まーかせてっ」
ルーゼフさん、トオル、露草がすぐに頷き、ワンテンポ遅れてユノが「もちろんですー」と言った。フール君は返事の代わりに魔法をかけてくれる。
あとちょっと。でも、そんな時こそ油断大敵だ。
「キシャアッ」
リザードマンが吠える。またあの技がくる!
「ええいっ!」
もうおとなしく倒されなよ!
そう思いながら私は突き出される槍を潜り抜け、リザードマンの懐に飛び込んだ。
驚いたのか、黄色の目を見開くリザードマンを見ながら、ククリを逆手に持ち変える。
私は短剣使いで、攻撃力は低い。急所狙いでいかないと、大ダメージは与えられない。
――だから。
「――やっ!」
リザードマンの喉にククリの刃をあてて、一閃。気合いとともに、切り裂いた。
「グガァアァアア……」
クリティカルヒット。僅かに残っていたHPは消え、リザードマンは光の粒子となって消えていった。
……勝った?
「うわああ、やったあ! リンちゃん、えらい!」
露草が歓声をあげて、それで皆も実感したのか笑顔になり、口々に勝利を祝う。私はその場にへたり込んで、はぁあ、と大きく息を吐いた。
「よ、良かった。うまくいって。今さら心臓ばくばくしてきたよ……」
と、情けない声で呟いたら皆に笑われた。むうう。……まあ、いいか。勝てたから。
私は立ち上がると、皆に笑顔を向けた。
「ところで、リンお姉さん。ドロップ品はなに?」
ポーションを飲んだ後、休憩していたらフール君が尋ねてきた。
「ドロップ? 皆同じじゃないの?」
「リン、パーティーを組んでいても、ドロップアイテムはランダムだから、人によって違うんだよ」
私の疑問にトオルが答えてくれた。へえ、そうなんだ。
「ちなみに、うちはリザードマンの鱗と魔石。まあまあかな」
「私は魔石と皮ですねー」
露草、ユノが教えてくれる。ルーゼフさんやトオル、フール君も似た感じだった。魔石とは、装備品を回復できるアイテムらしい。便利だね。
「私も皆と変わらないと思うけど……あれ?」
魔石と、もうひとつ。
「……武器がある」
インベントリから出してみたそれは、蒼い刃を持つ短剣だった。
【流水のショートソード】
ATCK:31 SPEED:12 DEX:10
備考:流れる水の如く形状が変化する。
「うわー、かなりいいんじゃない?」
短剣を鑑定したらしい露草が目を丸くする。
「えっと……確かにすごくいい武器だけど、なんで私だけ?」
「たぶん、リンお姉さんがとどめをさしたから、だろうね」
フール君が短剣を眺めながら答える。
「強いモンスターの場合は、とどめをさしたプレイヤーに合わせた武器をドロップすることがあるんだ」
その言葉にぴん、ときた。
「あ。もしかして、フール君の杖も?」
「うん、まあね」
軽く頷いてフール君は、手に持った杖をひと撫でする。そうかあ。二つも同時に魔法を使えてすごいな、と思っていたら、その杖もドロップアイテムなんだね。
と、なんだか感心していたら、トオルが興味深そうに尋ねてきた。
「リン。備考にある、形状変化を試してみてくれないか?」
「あ、うん。ちょっと待ってね」
形状変化。どうやるんだろ……と、悩むこともなく、簡単に出来た。
伸びろ、と考えたら長剣のように伸びるし、縮め、と思ったら投げナイフより短くなる。
「うわー、面白い」
しかも、ぐねぐねと蛇のように動くことも可能だ。この短剣、本当に凄いかもしれない。
「いろんな使い方が出来そうですねー」
「いいなーリンちゃん」
ユノに感心されて露草に羨ましがられてしまった。うん、ラッキーでした。
でもポイズンククリも使いたい。露草に相談して、両脇に下げられるベルトを作ってもらうことにした。それなら、相手に合わせて使いわけることが出来るよね。
今はククリを外して、流水のショートソードを下げておいた。まさかレーヴと戦うことはないと思うけど、一応ね。
休憩が終わり、私達は先へ進むことにした。
「扉、開くよ。開ける?」
部屋の奥にある扉を調べてみると、簡単に開きそうだったので、私は皆にそう尋ねた。
「そうだな……用心のために戦う準備をしてからにしよう」
ルーゼフさんが慎重にそう答え、皆武器を構えた。フール君に魔法もかけてもらい、準備万端。
私は扉に手を掛けた。
「……開けるよ」
頷く皆。ゆっくりと押しただけで扉は内側へと開いてゆく。
そして、私達は再びレーヴと対面した。
「来たか」
中に入ってすぐに目に入ったのは、薄明かりに照らされた地底湖。どこまで続いているのかわからないくらい広い。
扉から続く道の先には、その地底湖に出っ張るような形で丸く地面があって、そこにレーヴがいた。
レーヴは丸い地面の真ん中にぽつんと佇む長方形の石の前に立っている。たぶん、あの石がミシャのお墓なんだろうな。
「ああ。ここがゴールでいいんだな?」
ルーゼフさんが尋ねると、レーヴは軽く頷いて肯定した。
「そうだ。遅かったな。リザードマンは手強かったか?」
「……リザードマンは強かったが、それよりも他のが大変だった」
何度も失敗したのを思い出したのか、うんざりした顔でルーゼフさんが答える。
「そうか。だが、遅くともここへたどり着いたのは確かだ。最初の挑戦者達よ。お前達には、これを受け取る権利がある」
と、レーヴが差し出したのは翠色の宝玉だった。
「これは?」
「来るべく時、《箱》を開くために必要な鍵のひとつだ。持っていくがいい」
皆、戸惑った顔。うん、せっかくここまで来たのにお宝がよくわからない玉なんだもんね。なんとなく釈然としないな。
でも、貰わないという選択はない。
「なら、遠慮なく」
ルーゼフさんが手を伸ばし、受け取ろうとした。
「――待った」
それを止めたのは、フール君だった。いつもの笑みを浮かべているのに、なぜかいつもと違う。
「フール君?」
「リンお姉さん。それに、皆も。悪いけど、その玉、僕にくれないかな」
「え?」
フール君は穏やかに微笑んだまま皆を見回した。
「僕はその玉を集めているんだ。だから、譲って欲しい。駄目だというなら、力づくでもいいけど」
「力づくって……」
「皆に決闘を申し込むよ。それに勝ったら、玉は貰う。どうかな?」
軽い口調のフール君に眉を潜めたのはトオルだ。
「ふざけてるのか?」
「まさか。僕はその玉が欲しいだけだよ。そのためなら手段は選ばない、という感じかな。さあ、どうする?」
フール君は楽しげに皆を見る。私達は顔を見合せ、戸惑うことしか出来ずにいた。




