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青空の下、ルーゼフさんが手に持ったジョッキを高々と上げる。
「それでは、リンさんの優勝と我々の健闘を祝って! 乾杯!!」
「かんぱーい!!」
打ち付け合うグラスやジョッキ。今、私達は村の広場で祝勝会を開いていた。
私はまだ未成年だからグラスには果物のジュースが入っている。たとえVRでも飲酒はご法度だ。そこら辺は全年齢のゲームなので厳しい。まあ、まだビールの良さはわからないので特に不満はないけどね。
それより、と私は正面の席に座る人物に話し掛けた。
「えっと。ごめんね、いきなり連れてきちゃって」
「大丈夫だよ、リンお姉さん。ちょうど暇だったし」
と、にこやかに答える白髪のエルフ少年、フール君。彼がなぜこの場にいるのかというと、祈祷走の後でばったり出会ったからだ。
フール君も祈祷走に参加していたということでいろいろと話していたら、露草やユノに半ば無理やり誘われてここに、というわけだ。
でも嫌がっている様子じゃないからホッとした。
フール君は隣に座るユノや、私の隣に座っている露草から質問を受けて穏やかに答えている。
「リンちゃんとはどういう知り合い?」
「ちょっとした縁で知り合った仲だよ」
「そのローブ、かなりいい物ですねー。それに、その杖も。どこで手に入れたんですかー?」
「ローブは知り合いに注文して作ってもらったんだ。杖の入手経路は秘密かな」
と、いう感じである。時々ユノが踏み込み過ぎてる気がするけど、フール君はさらりと笑顔で躱している。見習いたいコミュニケーション能力だ。
「……胡散臭いヤツだな」
私の左に座っているトオルがフール君を見てぼそりと呟いた。
「……そう?」
「ああ。なに考えてるかよくわからん」
「確かに、ちょっとそういうところはあるかも」
でも、胡散臭いとまではいかないと思うけどなあ。
ユノとルーゼフさんに挟まれてにこにこ笑っているフール君を見ながらそう考えていると、ルーゼフさんがぐびりとジョッキを傾けた後で言った。
「そうだ。リンさん、例の石碑にはいつ行くんだ?」
「あー、そうだね。リンちゃん、いついく?」
「石碑? リンお姉さん、なんのこと?」
ルーゼフさんと露草の言葉に首を傾げるフール君に、森の中にあったお花畑と白い石碑について話すと、彼もついていきたい、と申し出た。
話を聞くと、フール君もレーヴイベントを調べていたらしい。
「うん、ちょうど六人でパーティーも組めるし。皆で行こうか」
「おー!」
私が皆を見回すと、のり良く露草とユノが拳を振り上げてくれた。若干トオルが渋い顔をしていたけど、口に出しては止めなかったから大丈夫。……だよね?
まあ、そんなわけで、私達は一旦ログアウトしてから森に向かうことにした。
ちなみに、祈祷走の優勝賞品は一万Cと水蜘蛛のジャケットだった。
上装備:【水蜘蛛のジャケット】 DEF+21 水耐性15%
と、なかなかいい装備だった。色は黒に近い紺で、デザインは男女どちらでも着れそうなシンプルなものである。着心地もいいし、本当にいい装備を貰ったと思う。うん、祈祷走頑張って良かった。
「それにしても、参加賞はしょぼいですよねー」
「あー、この石ね」
森へ向かいながらユノがぼやいた言葉に、露草がインベントリから翠の小石を取出し、苦笑する。
それは、私達が最初に貰った物ではなく、字が彫られているほうの小石だ。
祈祷走に参加した人なら誰でも貰えていて、私やトオルはお社で貰った物をそのまま頂いた。私は賞品を受け取る時に確認の為見せたけど、他の人は確認もされなかったらしい。ただ、一人一個しか持てないし、祈祷走に参加しなかった人は貰っても手に握れず、インベントリにも入れられないようなので、なにかの意味はあるようだった。
「多分、これがもう一つの鍵だと思うけどな」
トオルも小石を手のひらにのせ、眺めている。
「もしそうなら、なにが起こるのかな。楽しみだね、リンお姉さん」
「うん、まあ、そうだね」
フール君の言葉に私は頷いた。楽しみじゃないとはいわない。むしろ、さっきからドキドキわくわくしまくりだ。本当、いったい何が起こるのだろう。それとも何も起こらなかったり?
期待と不安が入り混じる気持ちで、私は森へと足を踏み入れた。
石碑にたどり着くまでに、数回戦闘があった。特筆すべきは、水蜘蛛にエンカウントしたことだ。
思わずトオルを凝視してしまったけど、トオルはひたすら目を逸らしていた。
水蜘蛛は座布団を何枚か重ねたくらいの大きさで、青緑色をしていた。ただ、残念なことにあっという間に逃げてしまったので、戦いにすらならなかった。
「次こそは倒して糸を取る!」
「おー」
気勢をあげる露草にユノが付き合って拳を振り上げている。うん、頑張れ。トオルが協力してくれたら、なんとかなる気はする。
そんなこんながありつつ、私達は件のお花畑へ。
「へえ。綺麗な場所ですね」
「そうだな」
「あれが石碑か」
お花畑に初めてきたフール君、ルーゼフさん、トオルは物珍しそうに辺りを見回している。
「さあ、リンちゃん!」
「えっ、私?」
「祈祷走優勝者がやるべきですよー」
露草とユノに背を押されて石碑の前に立つ。祈祷走は関係ない気が……まあいいか。
鱗をインベントリから出すと、以前のようにメッセージが出る。ここはYESを選択、と。
「……これだけじゃ、やっぱり何も起きないよね」
それを確認して、私は皆をちらりと見る。無言で小石をアピールしてくる露草とユノ。なんで無言。
ちょっと笑ってしまいながら、私はインベントリから小石を取り出した。すると、再びメッセージが現れた。
――【約束の石】を石碑に捧げますか?
《YES/NO》
やっぱり、と息を飲む。
「YES」
深呼吸をしてはっきり答えると、鱗も小石も消えてなくなった。一瞬の静寂。そして、なんと石碑が後ろへスライドした。
「……う、うわー。なんか映画かゲームみたい!」
「これ、ゲームですよー、露草」
「なにがあるんだ?」
「穴が開いたみたいだが……」
「僕が見てみるよ」
なんだか予想外というかある意味予想通りというか、ちょっとそんな感じで呆然としていると、フール君が石碑のあった場所を覗き込んだ。ごくり、と固唾を飲んで見守っていると、フール君はこちらを見て紫の瞳を細めた。
「階段が続いてる。地下は結構広いようだね。多分だけど――ここは、レーヴの隠しダンジョン、じゃないかな。どうする?」
私達は皆で顔を見合せ、お互いに何を思っているかを確認した。どうする? なんて、決まってる。
「――行こう!」
レーヴの隠しダンジョンへ、突撃だ!




