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 折り返し地点のお社も過ぎて、祈祷走も残り半分だ。

 私とトオルは先行している四人のプレイヤーを追い抜かすべく走っている。

 トラップだらけの森の一本道を抜けて岸辺に戻ると、法螺貝の横にいた男性が水玉飴をくれた。またあの波やボール地帯を越えなくちゃいけないと思うとげんなりするけど、ここまできたら一番になりたい。

 私は気合いを入れ直して水玉飴を口にいれた。


 戻りは来る時と逆になるわけで、私達はまず波を越えないといけない。

 先行しているプレイヤーもそこで立ち止まっていて、ようやく追い付いた。


「ちっ」


 なんと金髪のプレイヤーに舌打ちされて睨まれた。が、がら悪いなあ。


「気にするなよ」

「う、うん」


 頷いたけど、正直気分は良くない。よし、こうなったらダッシュ訓練で培った瞬発力で一気に引き離そう。

 そう決めて、波が途切れる瞬間を待つ。いち、に、よし、今だ!


「行こう、トオル」

「ああ」


 私はこれまでで最高のスタートダッシュを切った。一番で波間を駆け抜け、クリアする。よし!

 笑顔で振り返って、私は顔を強張らせた。


「トオル!」


 トオルが遅れていた。後少しで波が打ち寄せるのに、まだ半分ほどしか通過していない。え? え? なんで!? さっきまですぐ後ろにいたよね!?


「くそっ、リン先に行け!」


 トオルが叫ぶ。彼の前には四人のプレイヤーが並んでいて、横を通ろうとするたび前をふさいでいた。


「と、トオル……」


 どうしよう、と迷っている間にも波が迫っている。四人のプレイヤー達はなんとか間に合ったけど、トオルは……


「早く行け! こいつらに負けるなよ!」


 悔しげに眉根を寄せながら、トオルは波にのまれた。トオルの言葉に金髪のプレイヤーはニヤニヤと笑っている。この人達……わざとやったんだ!

 私は怒りで拳を握り締めると、前に向き直って走りだした。トオルの言う通りだ。こんな人達に負けてなんかやらない!



 私は犬の獣人だから足の速さには自信がある。ぐんぐんと四人のプレイヤーを引き離し、ボール地帯に辿り着いた。

 ここを抜ければ、ゴールは目の前だ。

 うっかりミスで転んだら笑えないので、慎重に、だけど出来る限りの速さで進む。そうしているうちに、四人のプレイヤーも追い付いてきた。


「え?」


 その時、なんともいえない嫌な感じがして、私は右に動いた。すると、今まで私がいたところをボールが飛んでいったのだ。

 振り返ると、金髪のプレイヤーがニヤニヤと笑っている。


「おーっと。転びそうになって、足が滑っちまったぜ」

「悪いなー」


 まったく悪びれずにそう言うと、彼らはげらげらと笑った。……頭にきた。


「妨害は駄目だって司会のレニスさんが言ってたじゃないですか!」


 怒りのあまり人見知りが発動しない。私がくってかかると、金髪の……ああ、もういいや、金髪男で。金髪男が肩をすくめた。


「妨害ー? 俺達がいつそんな真似したっていうんだ?」

「いいがかりは止めろよなー」

「まったくだぜ」

「なー」


 ……は、腹立つーっ!!

 なんなのこの人達!? もう、こんな人達なんて無視だ、無視!!

 私は怒りにわなわなと震えながら再び前を向くと、また慎重に進み出した。

 時々後ろから飛んでくるボールを【直感】のスキルの助けでなんとか回避する。


「ちょっとー! 先頭集団の四人組! 妨害行為はルール違反で失格となるよ!」


 風にのってレニスさんの声が聞こえてきた。今気付いたけど、多分スピーカー的なアイテムを使っているんだろうな。まだかなり離れているのに、はっきり聞こえてくる。だけど。


「はー? 何言ってるか聞こえませーん」


 金髪男はわざとらしく耳に手をあててそんな事を言っている。もう祈祷走の賞品なんてどうでもよくて、好き勝手したいだけみたいだ。そんなのに巻き込まないで欲しいけど、彼らは私が目障りなのかいつまでも絡んでくる。

 ようやくボール地帯を抜けた時には、もうほとんど同じ距離だった。


「おっと、よろけちまったぜー」


 四人組の一人が私によろけたふりをして肘打ちをしてくる。それを避けても別の一人が、というように邪魔をしてくるので、思うように走れない。でも、負けたくないから必死で避けて走る。


「ちっ。可愛くねーな。いい加減潰れろっつーの」

「あなた達なんかに負けてなんかやらない」


 睨み付けてくる金髪男を逆に睨んでやった。可愛くない? 上等だ。私だってこいつらに可愛いなんて思われたくない。


「あっ」


 金髪男と睨み合っていた私は、他の三人が示し合わせてタックルしてくるのに気付くのが遅れた。そんな事したら自分達も膜が割れて沈むのに、いいの? それとも何も考えてないの?

 ああ、もう無理だ――と、諦めた時だった。


「さすがにやりすぎじゃのう」


 すぐ側でそんな声が聞こえたかと思うと、いつの間にか隣に村長が立っていた。え。村長、いつの間に。と、いうか水の膜無しで湖の上に立ってる!?


「ぬうぅぅん!!」


 村長は唖然とする私達の前で気合いを入れると、私にタックルしようとしていた三人に襲い掛かった。つ、強い!


「なんだこのNPC、強えーぞ!」

「あっやべ、沈む!」

「がぼごぼべぼ」


 三人は瞬殺され、小舟に回収された。


「あ、ありがとうございます」

「なに、これも村長の務めじゃ。それより、急いだほうがいいぞ」

「え? あーっ!!」


 見ると、一人残った金髪男が岸辺に向かって走っている。ひ、卑怯だ!!


「ま、負けるかーっ!!」

「がんばるのじゃぞ」


 私は全力疾走をして金髪男を追い掛けた。


「さあ、冒険者が帰ってきたよー! 一人はルール違反ギリギリだけどね!」

「けっ。俺は単によろけたりしただけだ」

「惜しいよねーあとちょっとで村長の鉄槌が下ったのに! もう一人の冒険者が勝つように皆で応援しようか!」

「リン、がんばってくださいー!」

「リンちゃん、ファイトーっ!」

「リンさん、後少しだ!」


 放送と、私を応援する声が聞こえてくる。あ、ユノと露草だ。ルーゼフさんと……トオルもいる!


「リン! 勝て!」

「……っ! うん!」


 あとちょっとだ。私は思い切り足に力を入れて湖面を蹴った。

 湖を走って勝負なんて、ゲームの中でしか味わえないな。こんなに必死に走ったこともないけど、ゲームなのに皆の応援が一生懸命で、すごく力が沸いてくる。

 私は走って走って、――金髪男を抜かした。岸辺へと、ダイブするように飛び込む。水の膜が弾け飛んだ。


「ゴ――――ル!! 一着は獣人の女の子! おっめでとー!!」

「くそっ」


 レニスさんの声が聞こえた。それに、金髪男の悔しがる声も。


「きゃー! やりましたね、リン!」

「リンちゃん、すっごいー!」

「リンさん、やったな!」


 ユノが、露草が、ルーゼフさんが私に駆け寄ってくる。そして。


「――よし! よくやったぞ!!」


 珍しいトオルの満面の笑顔。


「……疲れたー」


 私は笑いながらへたりこんだ。ユノがつっこみを入れてくる。


「VRの中なのに、ですかー?」

「あはは。うん、気持ち的な部分が、だよー」

「今度は逆だね」


 いつかのやりとりを逆にした会話に、露草が笑いながらそう言う。なんだか不思議と笑えてきて、私達は顔を見合わせて笑った。

 やりとりを知らないルーゼフさんやトオルも笑って、祈祷走を見学していた人達から拍手をもらって、なんだかんだで、祈祷走は終わった。

 終わり良ければ全て良し。

 むかついたり驚いたりいろいろあったけど、祈祷走も楽しかった。


「リン」


 トオルが私を呼ぶ。顔を向けると手を上げた。私も手を上げて、トオルと打ち合わせる。

 ――祈祷走、終了だ。

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