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翌日もよく晴れたいい天気だった。
お祭り二日目の今日は祈祷走の日だ。マーズおばあちゃんはにこにこと私達をお店の入り口まで見送ってくれた。
「頑張るんだよ。私も後から見に行くからね」
「はい」
「任せといてください!」「頑張りますー」
私達はマーズおばあちゃんにそれぞれ頷き、つれだって湖畔に出かけてそこでトオルと合流した。
「おはよう、トオル」
「ああ。意外と人が多いけど大丈夫か?」
「う、うん、多分」
辺りを見回しながらトオルが気遣ってくれる。祈祷走がレーヴ関連のイベントに関係があるかも知れない、と話した後でトオルも参加を決めたのだ。
意外だったのは、その隣の人物だ。
「よう、リンさん」
「おはようございます、ルーゼフさん」
トオルのギルド仲間のドワーフ、ルーゼフさんもそこにいたのだった。
「あれ? ルーゼフさんも参加するんですかー?」
「走るの苦手じゃないの? ドワーフだし」
ユノと露草が不思議そうに問いかける。彼女達もトオルと同じギルドメンバーなので、ルーゼフさんとは面識があるのだろう。
「いや、不参加のつもりだったんだがな。トオルに聞いたが、この祈祷走、レーヴイベントに関係してるかも知れないのだろう?」
「え? あの、もしかしてルーゼフさんも鱗を?」
「ああ。持ってる。たまたまざっくりクッキーを持ってレーヴ像の所にいてな」
それはなんともすごい偶然だ。ううん、それをいうなら私もかな? まあ、それはともかく。
「ならライバルだね! 負けないからね!」
「踏み台にさせてもらいますー」
宣戦布告する露草とさらりと毒を吐くユノにルーゼフさんは「おう。よろしくな」と笑う。私も笑いながらよろしくお願いしますね、と言ったのだった。
人、人、人。どこを向いても村人とプレイヤーだ。昨日も来た湖のほとりに、私達は集まっている。正直、少し気分が悪くなってきたけど、我慢我慢。
「始まるみたいだな」
トオルの言葉に櫓を見上げると、村長と若い男性が櫓に立っていた。
「やほー。皆、よく集まってくれたねー。司会のレニスだよー」
「儂は村長だ」
若い男性、レニスさんが笑顔で手を振り、その後ろで村長が胸を張る。司会なんているんだね。
「さーて、やってきました祈祷走! 皆には今からルールを説明するよー」
「……なんだか妙なノリだな」
「そうですねー」
ルーゼフさんが苦笑してユノが同意する。露草やトオルも微妙な表情だ。
そんなプレイヤーの雰囲気には一切構わずにレニスさんは祈祷走のルールを説明しだした。
「祈祷走は、この湖に棲む精霊レーヴ様に捧げるものなので、一番大切なことはレーヴ様に感謝の気持ちを持つことだよー。村の皆はわかってるよね。冒険者の皆さんもよろしくね」
「うむ。感謝は大切だ」
「それで祈祷走の内容だけど、これはとっても簡単。あの湖の中心にある小島に行って、レーヴ様のお社に参拝するだけ! 後で渡す小石を捧げるのも忘れないようにね!」
「レーヴ様の目と同じ翠色の石じゃ」
小島? 湖を見ると、確かに中央付近に小島があるけど……
「小島ってあれ? どやって渡るの?」
露草が言う通り、小島までは結構距離があった。
「……えーと。ボートとか、かな」
「それしかなさそうだが、小舟は数隻しかないぞ」
「まさか泳いで行け、なんていいませんよねー」
「まさか、だな」
私の言葉にトオル、ユノ、ルーゼフさんがそれぞれ顔をしかめる。他のプレイヤーもざわめく中、レニスさんが両手を叩いて注目を集めた。
「はいはーい。ちゃんと説明するから聞いてねー。まず、小島までは走ってもらうよ。あー、わかってるからおとなしく聞いて。実は水に浮くことができるアイテムがあるんだよ」
「水玉飴じゃな」
水玉飴? 私はトオルと顔を見合わせた。昨日のお祭りで遊んだやつだ。
「そう、水玉飴。このアイテムを舐めると水の膜に包まれて、水に浮くことができるんだ。今から捧げるための小石と一緒に渡すから、順番に受け取ってねー」
レニスさんの言葉と同時に籠を持った村人達が出てきて、皆に水玉飴と小石を渡しはじめた。皆自然と列をつくり、順番に貰っている。
私達も水玉飴と小石を貰った。小石はレーヴ像の目と同じ綺麗な翠色をしている。
「あ。これ、マーズおばあちゃんが作っていた飴ですー」
水玉飴を見てユノが言った。
「そうなの? なら、私達が集めていた素材って」
「はい。このアイテムを作るためだったみたいですねー」
「そうだったのかー。そりゃ、大量に必要なわけだわ」
「うん、そうだね」
露草と顔を見合せ納得する。そんな私達をトオルが嗜めた。
「おい。話を聞き逃すぞ。お喋りは後にしろ」
「あ、そうだね」
慌てて櫓を見上げると、ちょうど話し始めるところだった。
「皆、水玉飴と小石は受け取ったかな? あ、水玉飴はスタート直前に口に入れるといいよ。走りながら舐めるのはちょっと危険だから、十分注意してねー」
「喉につまった場合は儂が背を叩いてやるぞ」
「村長に叩かれたくないならホント気をつけてねー」
確かに飴を舐めながら走るのは危険だと思う。気を付けよう。
皆に何度も注意を促したレニスさんは、さて、と笑みを浮かべた。
「ルールはさっきも言ったように走ってあの小島に行き、お社に参拝するだけ! あ、お社で参拝すると小石の代わりの物が貰えるから忘れずに受け取ってね。そしてここに再び戻ってくると、ゴール! 一着の人には豪華賞品が用意してあるから、皆頑張ってね!」
「おおー」
レニスさんの言葉にプレイヤー達が気合いの籠もった声を上げる。
「あ、もう一つ言い忘れてたよ。基本的に道はまっすぐだけど、いくつかの妨害はあるからね」
「うむ。気をつけるのじゃ」
「それと、他の参加者への妨害行為は一切禁止! 正々堂々と走ってね!」
「卑怯な真似は儂が許さん!」
「村長に折檻されたくないなら妨害は止めようね! ――さあ、そろそろスタートだよ。皆、位置について」
ぞろぞろと皆が岸辺に移動する。私達も岸辺に立ち、水玉飴を口に入れた。ふわん、とシャボン玉のような水が膜を張る。私達以外の村人やプレイヤー達も次々と水の膜に包まれた。
「皆、水玉飴は舐めた? 準備はいいかな? さあて、いよいよ祈祷走の始まりだよ。村長、合図をどうぞ!」
「うむ」
村長は皆が見守る中、胸いっぱいに空気を吸い込み、カッと目を見開いた。
「祈祷走、開始じゃ!!」
さあ、いよいよ祈祷走のスタートだ!




