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太陽は中天にさしかかり、いよいよお祭り初日の目玉であるパレードが行われた。
白い花冠で金髪を飾った少女を先頭に、レーヴの模型を神輿に載せた物を担ぐ人達、その後を花びらを振りまく少女や笛や打楽器を鳴らす男性が続く。
歓声をあげて迎える村人やプレイヤーに混じって、私とトオルもパレードを見学していた。
「へえ。けっこうちゃんとしてるんだな」
「レーヴの模型、よく出来てるねー」
鱗の一つ一つがきちんと作られているレーヴの模型(羽のついた蛇型)を眺めていると、片手に籠を持った女の子が笑顔で声をかけてきた。
「こんにちは。レーヴ様がお好きなざっくりクッキーはいかがですか?」
籠の中にどっさり入っているのは、確かにあのクッキーだ。
「一つくれ。いくらだ?」
「ありがとうございます。一つ百Cになります」
早速トオルが購入している。ざっくりクッキー、どこにも売っていないと思っていたら、こういうわけだったんだね。
私は少し考えて、お金を取り出した。
「あの、私も買います。二つ下さい」
「はい、ありがとうございます」
女の子がざっくりクッキーを二つ、布に包んで手渡してくれる。
「二つ? 何に使うんだ? ……食べるのか?」
「違うよー。露草とユノもトオルと同じ理由で欲しがるかも知れないでしょ? だから念の為に買っておこうと思って」
「ああ、あいつらの分か。いきなりコールが来てお前と祭りに行くように言われた時は驚いたが、仲良くやってるのか?」
「あ、そういえばあの二人もトオルと同じギルドなんだよね。うん、友達になったよ」
「へえ、良かったな」
インベントリにざっくりクッキーをしまいながらそんな話をしていると、金髪の少女がこちらに歩いてくるのが見えた。
「リン!」
「マリー」
花の様な笑顔で私の名を呼んだのは、ミシャが好きだったという白い花の花冠を頭にのせたマリーだった。手を差し出され、思わず両手を前に出すと強く握りしめられる。
「見に来てくれたのね! 嬉しいわ、ありがとう!」
「うん、どういたしまして。マリー、その格好可愛いね」
今日のマリーは金髪を三つ編みにせず、そのまま背中に流している。服もいつもと違って白いドレスっぽいワンピースだ。ふんわりしたシルエットがマリーの雰囲気に合っていてすごく可愛い。
「ミシャ様役の衣装なのよ。似合う?」
「うん、すごい似合ってる。可愛い」
「ふふ、ありがとう」
マリーは照れたように微笑み、頭にのせた花冠に指先で触れた。
「もうひとつお礼を言わなくちゃね。昨日は本当にありがとう。この花じゃなきゃ花冠に出来なかったから、とても助かったわ。ちゃんとしたミシャ様の役になれないところだったもの。リンは今回のパレードの影の功労者ね」
「お、おおげさだよ」
私はただ単に、マリーを探しただけだし。そう思って否定しても、マリーはにこにこと笑って「おおげさじゃないわ」と首を振る。
「ミシャ様が好きだったこの花がたくさん咲いている場所も見つけてくれたし。皆も感謝しているわ」
「いや、そんな……」
そんな、感謝されるような事じゃないよ。そう言おうとした私の耳に、機械的なシステムボイスが淡々と告げる声が聞こえた。
――新しい称号を取得しました、と。
え? と驚いていると、パレードの列がゆっくりと動き出した。
「マリー、そろそろ行くぞ」
打楽器を手にした男性がマリーに声をかける。
「あ、はーい。ねえ、リンも良かったらレーヴ様の像の所までこない?」
「あ、え? なんで?」
「レーヴ様に詳しい人がいるのよ。レーヴ様の事、気にしていたでしょ?」
「レーヴ……様、に詳しい人」
「ええ。気難しい人だけど……もし良かったらレーヴ様に感謝の言葉を捧げるまで待っていてね。その後で紹介するわ」
マリーは早口でそう言うと、手を振ってパレードの先頭に戻っていった。
「行くか?」
「うん、行こう」
トオルの問い掛けに頷きを返しながら、称号の件は後でゆっくり見ればいいか、と考えた。
レーヴ像の前に集った人々は、それぞれ目を瞑り祈りを捧げていた。
その人々の先頭に立つのはミシャ役のマリーと、青と白の民族衣装を纏った老人である。
「いつまでも我らをお守り下さい、レーヴ様」
マリーは花冠とざっくりクッキーをレーヴ像に捧げ、感謝と祈りの言葉を口にする。隣に立つ老人が手にした鈴を鳴らすと、皆一斉に手を組み合わせ、頭を垂れた。
荘厳な儀式に、私とトオルも頭を下げる。見れば他のプレイヤー達も神妙な顔をしていた。
しばらくして、ようやくマリーがやってきた。
後ろには、民族衣装を着た老人を連れている。
「お待たせ、リン。こちらが神官のガルク老よ」
「ふん」
ガルク老はしわくちゃのおじいさんで、確かに気難しそうだった。
「レーヴ様の事が知りたいと言うのはあんたか?」
「は、はい。よろしくお願いします」
「……ふん。まあいいじゃろ」
ガルク老は私を睨み付けるように見た後、軽く頷いた。それを見て、マリーがそっと私に耳打ちする。
「良かった。ガルク老に気に入られたみたいね」
「え? ……そうかなあ?」
「そうよ」
ガルク老に聞かれないように小言で話し、マリーは申し訳なさそうに眉を下げた。
「ごめんなさい。私はまだやる事があるから、後はガルク老に聞いてね」
「あ、うん。ありがとう、マリー」
「どういたしまして」
マリーはにっこり笑うと村人達の所に戻っていった。
「……さて、レーヴ様について、じゃな」
マリーがいなくなった後、ガルク老は近くの木陰に移動するとそこに腰を落ち着け、レーヴについて話しだした。
「レーヴ様は何百年も昔からこの村を守って下さっている。それは、古い言い伝えにある村娘、ミシャとの出会いからじゃ」
――むかしむかし、とガルク老は語りだした。
まだこのシルト村が出来たばかりの頃。湖にはモンスターが住み、人々は湖を前に漁に出る事が出来ずにいた。その頃は森にも狂暴なモンスターがたくさんいて、狩りもままならず、人々は困り果てた。
また別の土地を探すか、とまで悩んでいた。
そんな時、村娘のミシャは湖のほとりで倒れていた幼い少年を見つけて介抱する。少年は名をレーヴと名乗り、しばらくの間ミシャの家で世話になった。
食べ物は少なかったが、ミシャはパンの代わりに得意のざっくりクッキーを焼き、少年はそれを喜んで食べた。
そしてある晩の事。
湖からモンスターが大量に出てきて村を襲ったのだ。
恐怖に逃げ惑う村人達。彼らを救ったのは、精霊の姿を現した少年だった。
羽持つ蛇となった少年、レーヴは何十、何百といたモンスターを撃退し、湖を支配した。
レーヴのすみかとなった湖はモンスターがいなくなり、村人は漁に出る事が出来るようになった。
それ以来、村人達はレーヴに感謝して、彼が好きだったざっくりクッキーを捧げるようになり、そして毎年感謝祭を行うようになったのである。
「……と、まあ、これがレーヴ様の伝承じゃな」
ゆっくりゆっくりと語り、ガルク老はそう締めくくった。
以前マーズおばあちゃんから聞いた話より詳しく聞けた。何百ものモンスターを撃退したなんてレーヴってすごいんだな、と思う。 一息ついたガルク老は閉じていた目を開くと、さて、と私を見た。
「何か質問はあるかの?」
「あ、えっと。あの、森の中に石碑があったんですけど、ミシャ、様の名前が刻まれていて……」
私が花畑の中央にあった石碑について尋ねると、ガルク老はああ、と頷いた。
「マリーから聞いた。儂もそんな物があったとは知らなんだが、ひょっとするとミシャの墓石かも知れんの」
「ミシャ様の墓石?」
「うむ。何故かミシャの墓はこの村にない。長年不思議に思っていたのじゃが、森にあったのかも知れん」
「はあ、なるほど」
「他に聞きたい事はあるか?」
もう一度尋ねられ、考えてみたけど思いつかず首をふる。
「そうか。感謝祭は今日と明日の二日間じゃ。レーヴ様の事が気になるのなら、明日の祈祷走に参加すると良いかもしれんの」
ガルク老は最後にそう言うと、「ではな」と立ち上がり、マリーのように村人達の所に戻っていった。
マーズおばあちゃんだけじゃなく、ガルク老も祈祷走に出るのを勧めるのか。もしかしたら、何かイベントのきっかけになるのかも知れない。
もともと出るつもりだったけど、さらに出る気になった。
「……終わったか?」
「あ、トオル。うん、あまりめぼしい話は無かったけど――って、それ」
「ああ、貰った。いや、交換した、だな」
トオルの手には、灰色がかった白の鱗が握られていた。どうやら、私が話を聞いている間にレーヴに会っていたみたいだ。
「やっぱりざっくりクッキーが鍵なんだね」
「みたいだな。でも、これだけじゃイベントは続かないんだろ?」
「うん。いったい何が必要なのかな。もしかしたら明日の祈祷走が何か関係してるのかも知れないけど……」
「祈祷走が?」
「マーズおばあちゃんもガルク老も出る事を勧めたの。だから、レーヴ関連の何かがあるのかな、って」
「なるほど……」
「もしかしたら、だけどね」
トオルと二人、鱗を見つめながら考え込んでいると、人々の歓声が聞こえてきた。
湖のほとりに建てられた櫓に、マリーが村長と立っている。
村長が手を上げると、マリーは持っていた籠の中身を湖に振りまいた。
それは、色とりどりの花びらだった。
人々が感謝を綴った歌を口ずさむ。風に吹かれ、湖に落ちた花びらが揺らめきながら沈んでゆく。
「綺麗だね」
「ああ」
私とトオルは花びらで飾られた湖を見て、囁くように言った。
その後、私達は再び村に戻り祭りを楽しんだ。夕方からはダンスや飲み比べも行われ、昼とはまた違った活気があった。
裏方をしていたらしい露草やユノとも合流して、ダンスにも参加してみたりした。トオルは最後まで嫌がっていたけど、さつきさんやリカさん達に引っ張り出されて、私とも少し踊った。
すごく楽しい一日だった。
それと、気になっていた称号だけど、【シルト村の友人】という名称で、シルト村の村人、及び関係者から信頼を受けやすい、となっていた。
もしかして、気難しいらしいガルク老が話をしてくれたのは、この称号のおかげもあったのかも知れないな。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
次回は閑話を予定しています。




