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 ――見上げる視線の先には、現実以上に澄み切った青空が広がっていた。


 いい天気だなー、リアルじゃ無いから当然だけど。

 ……なんて考えてる自分が、単に現実逃避してるだけだなんて分かってますよ。

 嫌々ながら視線を下げると、決して狭いわけではない広場にぎっしりと集められたプレイヤー達。

 見渡す限りの人、人、獣人、エルフ、ドワーフ、ホビット、あ。コボルトもいるや。可愛いー……じゃなくて。

 ……なにこの芋洗い状態。

 朝の通勤ラッシュにも劣らぬ人ごみに、βテスト初日にして絶賛後悔中の私でした、まる。……はぁぁ。


 あの日、ホームページを開いた私の目に入ってきたのは、

  ――あなただけの冒険を。

 の、一文。あまりにベタな謳い文句に、失笑してしまった。うわあ、ベタすぎて逆に新鮮にさえ感じるな、これ。

 狙ってるのかな、と思いながら読み進む。そのゲームの名は、《 World 》。 シンプルでいいな。覚えやすいし。私的には好印象だ。興味をひかれ更に詳しい内容に目を移す。


 ――暫くの後。詳しい内容を読み終えた私は、まだ迷う指先でテスター申し込みのボタンを押した。

 苦手なオンラインである《 World 》を、プレイしてみたくなったからだった。


 半月後のβテスト初日。


 ログインした場所は、白い時計台が置かれた広場だった。周囲には、私と同じテスター達。

 見渡すばかりの人ゴミに即座に後悔したが、まだプレイ開始の挨拶さえ無い。 流石に、ここで引き返すのはどうだろう。そう自分に言い聞かせて我慢する。


 そこでしばらく待っていると、ゲーム製作者(運営)の挨拶があり、軽い説明と、基本的な操作を学べるチュートリアルが行われた。製品版だと神殿が実装されて、そこでクエストを受けて学ぶらしい。

 ウィンドウの出し方、ログアウトの仕方、等々。本当に基本だけを教わって、解散となった。

 ヘルプ機能もあるので、なんとかなりそうだ。


「もっと詳しく学びたい方は此方へどうぞー」


 運営のキャラクターが呼び掛けるのを横目に、私はそこから離れた。もうね、色々と限界。ああ、早く一人になって落ち着きたい!


 私達、テストプレイヤー達が降り立ったここは、《ロゼルト皇国》、その首都である《白の都》らしい。 白亜の王宮が遠目にも美しく、中世の欧州を彷彿とさせる街並みも見ごたえがある。乳白色を基調とした建物を抜けると、井戸のある小さな広場があった。

 ようやく人気の無いところまで来れて、ほっとする。

 人見知りは伊達じゃないんだよー。知らない人がいっぱいいたら緊張するんだよー。 リアルでは、仕方ないから我慢できるけど、慣れないとこ(ゲーム)な上に、慣れないプレイヤーがいっぱい、という状況は結構きつかった。


 密集する建物の隙間を縫ってつくられたような、小さな広場。プレイヤーも、NPCノンプレイヤーキャラクターも居ないそこでやっと落ち着けた私は、自身のキャラを観察する余裕が持てた。

 着ているものは、初心者用の装備、布の服。服には何種類かのデザインがあって、私が選んだのはスタンダードタイプ。

 上は木綿っぽいシャツと茶色のベスト、下は茶色のズボンと編み上げブーツの、どちらかというと男性的な組み合わせだ。

 いや、性別は変更してないんだけどね。スカートで冒険って、なんか違う気がするんだよ。たとえ中が見えないようにシステム管理されてても。

 そして、特筆すべきは!


「うふふふふー、わーい、ふわふわー」


 頭の横に垂れ下がる、私の耳。抜群の手触りを提供してくれるそれは、そう、何を隠そう犬耳なのだ!

 うわああ、ふわふわ気持ち良い!


 《 World 》はキャラクターの種族が選択できるゲームだった。それはβテストの段階でかなりの豊富さを見せつけ、どの種族になろうかと悩める贅沢さを与えるものであった。

 そして私が悩み抜いた末に選んだのが、これ。

 茶色の垂れ耳とふさふさ尻尾の犬系獣人……垂れ耳わんこなのだ。わーい。

 本当は、自分以外のわんこ獣人を愛でたいところだけど、ソロプレイの予定だし、知り合いいないし、無理だろうな。

 狼系とどっちにしようか悩んだけど、私のキャラクターはリアルを反映させて地味めなので似合わなかったのだよ。派手になんてして目立つの嫌だし。

 ショートの髪はリアルより少し明るい茶色、目は深い緑。全体的に細身で、元の体に近くしてある。

 ……胸とウエストに修正はかけたけど。いいじゃないか、それぐらい!


「いや、気にしないでおこう。ここにはリアルの知り合いはいないんだし。うん」


 友人達も、このゲームのテスターに選ばれていなかったし、問題は無い。……筈だ。うん。

 何かのフラグを立ててしまった気がしたが、あえて無視する。それよりも、さっき習ったマップ機能とかを出しておきたい。ここ、広いしね。


 教わった通りに「ウィンドウ、オープン」と考えると、目の前にステータス画面が展開された。私のキャラクターの名前、ステータス、その他様々な情報が記載されている。薄いブルーの半透明な物だけど、開く時は周囲を気にした方がいいかな。ウィンドウが邪魔で、うっかりモンスターにやられちゃいました、なんてことになったら困るしね。

 ウィンドウの一番下にある【オプション】の部分をチェックして開き、マップ機能をオンにした時。


「じゃあ、これから一緒に狩りに行こーぜ」

「うん、いいねー」

「あ、お店寄りたいー」


 静かな小道に響いた声を聞いて、私は慌ててウィンドウを消した。誰か、おそらくプレイヤーが、ここに近づいている。

 別に、悪い事なんてしてないのだから、堂々としてればいいんだってわかっている。でも。

 βテスト初日、こんな人気の無い場所に一人で居るプレイヤーなんて、ちょっと怪しくないだろうか?

  たとえ怪しまれなくても、声をかけられる可能性はある。そう思った私は咄嗟に隠れることにした。まだ人ごみで受けた精神的ダメージが回復してないしね。

 建物の隙間に入り込み、じっと身を潜める私に気付く事無く、通り過ぎるプレイヤー達。NPCは頭の上に名前が表示されているので、区別がつきやすい。


 自分でもちょっと自意識過剰だなーと思いながら彼らを見送り、姿が見えなくなってからほっと息をついた。その瞬間に鳴り響く何かの音楽。


 ――スキル【かくれんぼ】、取得しました。


 ……あれえ?


 私、街から一歩も出ないまま、何かのスキルをゲットしちゃったみたいですよ?

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