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 鈴の音が鳴り響く。

 広場に設けられた舞台では、手首に鈴をつけた女性が見事な舞を披露していた。

 舞に合わせて笛が高く低く鳴り、鈴の音や人々の手拍子と交ざりあって青空へと吸い込まれてゆく。


 お祭りがますます盛り上がる中、私とトオルは色々と見物しながらざっくりクッキーを探して歩いていた。


「なかなか見つからないねー……あれ? あれなんだろ」


 広場の一画でなにやら楽しそうに子供達がはしゃいでいた。目を引いたのは、その子供達が水の玉のような物に包まれていたからだ。

 シャボン玉のような透明な水に包まれた子供達は歓声を上げながらお互いにぶつかりあっている。ぶつかってもぽよん、という感じに跳ね返るので楽しそうだ。

 ただ、中には強くぶつかりすぎたのか水の玉が弾け飛ぶ子もいて、そんな子はすごく残念そうにしていた。


「水の膜か。膜が破れても服が濡れていないのは不思議だな」

「そうだね。あ、向こうに看板があるよ。水玉遊び、だって」


 木の看板の隣に座っているのは初老の男性で、はしゃぐ子供達と同様に村人だった。プレイヤー達は興味をひかれてはいるものの、眺めているだけ、といった感じだ。

 遊んでいるのが子供だけだから手を出しづらいのかもしれない。実際、私はそうだ。


「遊ばなくていいのか?」


 私の視線から何かを感じとったのかトオルが尋ねてくる。


「うーん。さすがにあの中に混ざるのはちょっとためらいが……トオルも一緒にやらない?」

「いや、俺はいい」


 すげなく断られてしまい、私はがっくりと肩を落とす。うう、楽しそうだなー。

 諦め悪くチラチラと見ていると、人垣から三人のプレイヤーが出てきた。

 ドワーフの男性と狐の獣人の男性、それから魔法使いらしき女性の三人組だ。


「おお、なんか楽しそうだな! やってみようぜ、ジョーイ、カレン」


 水玉で遊ぶ子供達を見てドワーフの男性は目を輝かせ、残りの二人にそう誘い掛けたが、反応は芳しくなかった。


「ええ……? なんか子供しかやってないしなー。ちょっとパス」

「そうよ。やるならあんただけやりなさいよ、ユーゴ」

「つれねーな、お前ら……」


 ユーゴというらしいドワーフさんはぶつぶつと文句を言いながら、水玉遊びの看板の隣に座る男性のところへ行き、何かを持って戻ってきた。


「それなんだ? ユーゴ」

「水玉飴だとさ。これを舐めてると……」


 ぱくり、と飴玉をユーゴさんは口にする。すると、一瞬で彼の周囲には水の膜が張られた。


「おお、面白れえ」


 ユーゴさんはまるで子供のようにはしゃいでいる。ぽよんぷよんと跳ねたり、寝転がってみたり。


「おい、ユーゴ。恥ずかしいからちょっと落ち着けよ」

「そ、そうよ。まったくもう!」

「そんな事言っても楽しまねーと損だろ。おりゃ!」

「げっ、止めろって!」

「ちょ、ユーゴ!」


 水の膜を仲間達に押し付けて笑うユーゴさん。その楽しそうな様子にやっぱり私もやりたくなってくる。

 そう思ったのは私だけじゃないみたいで、ちらほらと水玉遊びに興じるプレイヤーが出てきた。そして私もそれに乗じて水玉飴を貰うことが出来た。ありがとう、ユーゴさん。


「うわあ」


 水玉飴はソーダ味だった。一口舐めると水が球体に膜を張る。足元もふわふわしていて不思議な感覚だった。


「見てよトオル。意外と固いよ、これ」

「へえ、弾力があってひんやりしてるな。中から外は見えてるんだよな?」

「うん、しっかりと。でも、穴とかないけど空気は大丈夫なのかな?」

「酸欠になるまで膜が保たないんじゃねえか?」

「ああ、かもね」


 などと話しながら軽くジャンプしてみたり、足踏みしたりしてみる。足元がふわふわしていてちょっと動きづらい。慣れるのに時間がかかりそうだな。

 私達がそうやって遊んでいると、人混みから数人のプレイヤーが出てきて大声で笑った。


「なんだこれ。だせー」

「シャボン玉に入ってるみてえ。なあ、割ってもいい?」


 子供達はいきなり絡まれて怯え顔になってしまっている。保護者らしき人がすぐに子供を連れていこうとしたが、それにも絡んでいる。


「なに、あれ」

「完全に場違いだな。……おい、なんとかしようとか考えるなよ?」

「え、でも子供達怯えてるし……なにか、出来ないかな」

「止めとけ。お前が間に入っても逆効果にしかならないと思う」

「う……」


 確かに、人見知りの私じゃ何も出来ないかもしれない。でも、このまま見過ごすわけにも……と悩んでいると、子供達を庇うようにドワーフの男性、ユーゴさんが前に進み出た。


「おい、お前さんら。子供にちょっかい出すのは止めたらどうだ?」

「ああ? んだよ、てめえ」

「いいから、大人しく言うことを聞いてくれ。せっかくの祭りにケチをつけたくないからな」

「はあ? 何勝手なこと言ってんだよ!」


 う、うわあ。ユーゴさんが態度の悪いプレイヤー達と睨み合っているよ。子供達は大人に連れられて避難している。

 はらはらと見守っていると、金髪のプレイヤーがユーゴさんに殴りかかった。

 水の膜が弾け飛ぶ。

 だけど、ユーゴさんはその腕を取り、逆に締めあげている。

 うわ、すごい。一本背負いを決めたよ!


「あ、危ない!」


 別のプレイヤーがユーゴさんを後ろから狙っていた。しかし、その企みはユーゴさんの仲間の二人によって阻まれる。


「これでもくらいな!」

「うおっあちいっ!!」

「ほーらよ」

「ごほぅっ!」


 カレンという女性は杖の先に火を灯して振り回し、ジョーイという男性は水玉遊びの看板を投げつけている。

 もはやプレイヤーとユーゴさん達で大乱闘になってしまっていた。


「おい、巻き込まれないうちに離れるぞ」

「え? う、うん」

「これ、壊すからな」


 トオルはそう宣言するとナイフを取出し、水の膜にあてた。手首を捻ると呆気なく水玉は弾ける。

 どこも濡れていないのを確認していると、トオルに腕を引かれ、そしてそのままその場から離れた。

 最後に見たユーゴさんは金髪のプレイヤーにプロレスの技を……チョークスリーパーっていうのかな。それをかけながら笑っていて、周りの人達も笑いながら野次を飛ばしてて、なんだか楽しそうだった。




 人垣から抜け出た私達は、そのまま屋台が並ぶ広場の端に足を向けた。いろんな屋台があるけど、ざっくりクッキーは見つからない。


「あれ?」

「よお」


 ふと目が合ったドワーフさんが片手を挙げる。さっき大暴れしていたユーゴさん……ではなく、トオルのギルド《トリック・ビリーヴ》のメンバーの一人、ルーゼフさんだった。


「なんだ、トオルと一緒だったのか。用事が出来たとか言って……デートか?」

「違いますよ。にやつかないで下さい」


 にやにやと笑うルーゼフさんにトオルは憮然とした表情で答える。私はルーゼフさんが店番をしている屋台を眺めた。

 武器やアクセサリーが置いてある。


「《ガーデン》の出張屋台だ。何か買ってくれたらまけとくぞ」


 ルーゼフさんの言葉につられて何か買おうかな、という気になる。


「これとかどうだ?《スラッシュ》のスキルがついた短剣だ」

「うーん。武器はトオルが作ってくれたのがあるので今はいいです」

「そうか。なら、トオル。この指輪とかプレゼントしてやったらどうだ?」

「なんでですか」

「ほ、欲しかったら自分で買いますよ」

「あっはっは。若いなー」


 ルーゼフさんにからかわれたりしながら敏捷値を微上昇のネックレスや幸運が上がる指輪を手に取って眺めてみる。でもいまいち買おうとまでは思わない。

 台の上に並べられた武器やアクセサリーを眺めていると、端の方に置かれたシンプルな形のナイフが目に留まった。投げナイフだ。


「それなら五本セットで二千Cのところ、千二百Cにまでまけてやる。どうだ?」

「下さい!」


 即決でした。うん、欲しかったんだよね、投げナイフ。これでリーチの無さをカバー出来るといいな。もちろん、《投擲》系のスキルは必要だろうし、練習もしなきゃだけどね。

 ほくほくしながら代金を払い、インベントリにしまい込む。


「まいど。そう言えば知ってるか? そろそろパレードが始まるらしいぞ」

「え? そうなんですか?」

「ああ。せっかくだから見に行ったらどうだ? 村の中をぐるりと回って、入り口を抜けてレーヴ像の所まで行くらしいぞ」


 パレードには興味があった。確か、ミシャ役でマリーが参加するんだったよね。


「見に行くか?」


 トオルの問い掛けに頷く。


「うん。村の入り口にいたら見れるよね、行ってみようよ。ルーゼフさん、教えてくれてありがとうございます」

「おう。トオル、しっかりエスコートしろよ」

「……はい」


 そうして、私達はルーゼフさんにお礼を言ってパレードを見るために村の入り口へと向かったのだった。

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