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 お久しぶりです。遅くなりましたが今年もよろしくお願いします。

 マリーを助けた報酬は、【2000C】と各種回復薬セットだった。どちらも最近は減ることが多かっただけにちょっと嬉しい。

 特に臨時収入。なんといっても、お祭りがあるしね。

 そう。村に来て四日目。ついにこの日がやってみました。

 屋台に出し物にパレード。なんだかごっちゃになってる気もするけど、とにかく。

 お祭りだよ!




 花吹雪が青空に舞う。籠に入れた花びらを振りまいているのは精一杯に着飾った村人の女の子だ。

 その女の子をダンスに誘いたそうにしている若い青年も、通りの端で豪快に笑ってお酒を飲んでいるおじさんも、はしゃぐ子供もそれを叱る母親も、村人は皆小綺麗な格好をしていて、すごく楽しそうだ。


 もちろん、私達プレイヤーも楽しんでいた。

 通りのあちこちには花輪が飾られていていつもより華やかだし、同じように屋台に飾られた色とりどりの布は、風にはためいて道行く人の視線をさらう。

 人々の活気はとどまるところを知らず、お祭りが始まったばかりなのに熱気にあてられそうなほどだ。


「それじゃあ、どこからまわろうか? まず屋台からだよね?」

「俺は別にどこからでもいい。それよりプレイヤーも多いけど大丈夫なのか?」

「う、うん。緊張はするけどまだ大丈夫かな。お祭りで浮かれてるからかな」

「……はぐれて迷子になりそうだな。迷子になったらその場でじっとしていろよ。すぐに探してやるから」

「子供扱い!? え、私見たまんまの年齢だよ? 特別外装じゃないよ?」

「わかってる。冗談だ……半分は」

「半分!?」


 そんなお祭りの賑わいの中、私は地龍族の少年――トオルと歩いている。トオルに会うのは久し振りだけど、なんだか疲れているようだ。聞くと、鍛冶の仕事以外にも細かい雑用を頼まれたりして、ろくに外にもいけない生活でストレスが溜まっていたらしい。


「それより、お前のほうはちゃんとやってたのか?」

「頑張ってたよ? あ、そうだ! フール君にも会ったんだよー」

「フール君?」

「エルフ君だよ。前話したよね?」


 マリーの事も含めて先日の一件を話すと、トオルは眉をひそめた。


「お前、確かこの前の騒ぎそいつに逃げられて巻き込まれた、とか言ってなかったか? ちゃんと文句言ってやったのかよ?」

「……あ」

「……忘れてたんだな」


 トオルの冷たい眼差しが心に突き刺さる。い、いや、だってさ。あの時はピンチのところを助けてもらったばかりで、その、感謝の気持ちだけしかなかったというかなんというか。

 ……うう。はい、忘れてましたよ。今度会ったら一言くらいは、と思っていたんだけどな。

 まあ、助けてもらったし、もうあの事はいいんだけど、私って忘れっぽいな……。


「……まあ、過ぎたことを言っても仕方ないよな。ほら、屋台があるぞ」


 落ち込んだ私を気遣ってくれたのか、トオルが声をかけてくれる。でも、私は……って、屋台だ!


「わあ! 何から食べよう! クレープにりんご飴にたこ焼きに……あ、金魚すくい、じゃなくて。えっとククルートすくい? も射的もあるね。トオル、どれから回る?」

「……単純なやつ」


 トオルがぼそりと呟いたのには気付いたけど、嫌味な調子じゃなく、どこか安心した様子だったから聞き流すことにした。うん、今はお祭りを楽しもう!

 まず目に留まったクレープの屋台は、綺麗なエルフの女の人が売り込みをしていた。


「トオル、あそこに行こう」

「……あそこか」

「え? クレープ嫌い?」

「いや、嫌いじゃないが俺はいい」

「そう? えっと、じゃあ他のにする?」

「食べたいんだろ、クレープ。ほら行くぞ」

「あ、待ってよ」


 先に歩きだしたトオルを追って、私もクレープの屋台に向かう。

 トオルが近づいていくと女の人は最初笑顔になり、続いて後ろにいる私を見てエメラルドグリーンの瞳を見開いた。


「いらっしゃいませ――って、トオルじゃない。あら! 女の子と一緒なんて……デート? デートなのね!」

「えっデート? トオルの彼女?」

「おお、やるなトオル! 爆発しやがれ!」


 うわわっ、な、なんかいきなりわっと出てきた人達に囲まれてしまった。そ、それに……なんか誤解されてる!

 わたわたしてる私を背にかばい、トオルは鬱陶しそうに顔を歪めている。


「そんなんじゃねえよ。ったく……リカさん、こいつにクレープ一つお願いします」

「はいはーい。トオルの彼女だもんね! おまけしちゃうよ!」

「だから違いますって」

「いいからいいから!」


 リカと呼ばれた女の人は猫の獣人だった。黒と灰色の毛並みはふさふさで、瞳孔が縦に細い猫の目は明るい水色だ。私は犬派だけど、猫もいいなあ。

 すらりとした身体に可愛いエプロンを着けているリカさんは、トオルの否定を照れ隠しだと思っているのか、満面の笑顔で「彼女さん、はいどうぞ!」とクレープを渡してきた。


「あ、ありがとうございます……」


 でも彼女じゃないですよ。

 と、口の中でもごもごつぶやきながら受け取って、代金を支払おうとしたら金髪のお兄さんに止められた。


「いいって。ここはおごり! なんならトオルからとるからさ」

「え、わ、悪いです……」

「いいのよ。気にしないで。じゃあ、トオル頑張ってね」

「頑張れー!」

「リカさん……さつきさんもマグロっちも……違うって言ってんのに……はあ」

「え、えーと」


 なんだかわからないけど、応援されつつ送り出されてしまったよ。トオルを見ると、肩をすくめて溜め息をついた。


「わりぃな。あの人達、いい人なんだけどたまにこっちの話聞かねーんだよ」

「あ、はは……皆、トオルの知り合いなの?」

「ああ、うちのギルドの人達で、エルフの女性がさつきさん。獣人の人がリカさん。で、あの軽そうな男がマグロっち。あ、っち、まで名前だから」

「マグロっちさん……変わった名前だね」

「だよな。でも、あれであの人もけっこう頼りになるし、話せる人なんだけどさ」

「へえー」


 それからクレープを食べながらトオルのギルドの話を聞いた。なんだか楽しそうで、ギルドもいいかも、なんて少し思ったりする。まあ、人見知りが治らないと無理だけどね……。


「次は? なに食うんだ?」

「あ、えーっとね」


 私はクレープの最後のひとかけらを口に放り込んで辺りを見回す。りんご飴もいいし、オムそばも食べたいし、あ、村人が売ってる変わった形のお菓子も食べてみたいな。

 どれもこれも美味しそうで、漂ってくる香ばしい匂いでお腹が鳴りそうな気がするくらいだ。


「……取り敢えず、片っ端からで!」

「お前……胃袋と金は大丈夫なのかよ」


 呆れたようにトオルが私を見る。VRの中だから胃袋も体重も大丈夫。あと、お金も大丈夫だと思う。

 マリーを助けた謝礼金に加えて、マーズおばあちゃんからお手伝いの報酬として【3000C】を貰ったのだ。それに今まで貯めたお金も合わせて、今の私は6000C以上は持っている。屋台の食べ歩きくらいなら……平気だよね?

 ちょっと心配になりながらも私は早速りんご飴の屋台に向かった。


 ファンタジーな世界で和風の屋台が並んでいるのも見ていて楽しいけど、いかにもファンタジーな物にも心ひかれる。

 小腹を満たす傍ら、射的やククルートすくいもやってみた。

 代金を支払い、ポイとお椀を手にしゃがみこむ。基本は金魚すくいと一緒だけど、水に泳いでいるのはククルートという魚だ。ククルートは金魚に似ているけどかなり丸々としていて、うまくすくえてもコロコロと転がり落ちてしまう。


「うーん。難しいね、これ……うわ、すごい」


 また一匹とり逃して横を見ると、トオルがあっさりククルートをすくい取っていた。思わず感嘆の声をもらすと、トオルは「そうか?」と首を傾げた。


「コツを掴めば簡単だぞ。ほら、こうやって……」

「こ、こう?」

「いや、それだと……あ」

「あ」

「……一匹分けてやるよ」

「あ、ありがとう……」


 結局私はククルートを一匹もすくえず、トオルに分けてもらった。

 ビニール袋に似た透明の袋の中で泳ぐククルートはどこかひょうきんで可愛らしい。

 観賞用らしいけど、こういうのも楽しいな。

 にこにこしながらインベントリにククルートをしまう。そんな私の後ろを、二人組のプレイヤーが通り過ぎた。


「――なあ、知っているか? “塔”が攻略されたらしいぜ」

「へえ。ずいぶんと早いな。やっぱトップギルドのどれかか?」

「いや、そこまでは知らねーけどよ」


 塔? なんだろ、それ。

 気になって振り返ると、二人組のプレイヤーはすでに人混みにまぎれていた。私はふと耳に入ったその会話について、トオルに尋ねてみる。


「トオル、“塔”って知ってる?」

「ああ。知ってる」


 トオルは軽く頷くと橙色の瞳で私を見た。


「俺達が初めて会った鉱山跡の洞窟があるだろ? あそこよりさらに西に行った場所にあるダンジョンだ。けっこう厳しいらしいけど、攻略されたんだな」

「ふーん、そっか……」


 塔のダンジョンかー。難しそうだけど、いつか行ってみたいな。ソロじゃきつそうだけど。


「で? 次はどうする?」

「あ、えーとね」


 まあ、今は関係ないよね。

 私はそう気持ちを切り替えると次の屋台に向かった。




 そうやってしばらくあちこち回った後、キラキラと輝くわたあめに似たお菓子を食べながら私達はベンチで休んでいた。

 話題は、この間から起こっているレーヴ関連のイベントについてである。

 わたあめに似ているのに味はシャーベット、のお菓子をむしゃむしゃ食べつつ話終わると、興味深そうに聞いていたトオルが躊躇いがちに口を開いた。


「よかったら、だけどさ。その鱗ってやつ見せてくれないか?」

「うん、いいよー」


 インベントリから取り出して鱗を渡すと、トオルはまじまじと観察している。時折、小さく「溶かして使うか……いや、それともそのまま張りつけて……」とつぶやいているけど、それ、私のだからね?

 いや、もちろん本気でトオルがそんな事をするとは思っていないけれど。

 しばらくしてトオルは私に鱗を返しながら尋ねてきた。


「これを手に入れたイベント、俺も出来るか試したいな。そのざっくりクッキー、どこかで手に入らないか?」

「うーん。マリーとマーズおばあちゃんなら作れると思うけど……あ、もしかしたらお祭りだし、どこかで売ってるかも知れないよ」

「ああ、そういえばそうだな」

「でもその鱗はイベント用みたいだから、加工は出来ないと思うよ?」

「わかってる。もしこんな鱗を材料にするならどう扱うか考えていただけだ」


 トオルはそう苦笑したけど、本当かなー?

 ともあれ。ざっくりクッキーはこの村の名物みたいだし、きっとどこかで売ってるはず、という結論になり、私とトオルはまた歩き回るついでにクッキーも探してみることにした。


 まだまだお祭りは始まったばかりで、見たい物もたくさんある。

 わたあめもどきを食べ終わった私は、わくわくしながら立ち上がったのだった。

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