表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/80

23

 私達が森に来てからだいぶ時間がたっていた。

 もうそろそろリアルタイムで四時間近いことを確認して、私は露草に声をかけた。


「そろそろシルト村に帰って、一度ログアウトしようか?」

「あ、もうそんな時間? うん、そーしよっか」

「そーしましょう。疲れましたー」

「……えっと。VRの中なのに?」


 ユノの言葉に不思議に思って尋ねると、「気持ち的な部分ですー」と返ってきた。うーん、まあわからないでもないかな?

 それにしても。


「結局、水蜘蛛は見つからなくて残念だったね」

「うん……あー、糸欲しかった!」

「また今度探しにこようよ。お祭りが終わった後とか……どうかな?」


 私は心臓をばくばく鳴らしながら二人を誘ってみた。露草とユノは驚いた顔で私を見て、示し合わせたように同時に飛び付いてくる。


「もっちろん! リンちゃんが誘ってくれるならいつでもオッケーだよ!」

「ですよー。うわー、なんだか、人一倍臆病なハムスターがやっと手に乗ってくれたような感動を感じますねー」

「は、ハムスターって……いや、いいや。うん、ありがとう二人とも」


 き、緊張したけど良かった、すんなりオッケーしてもらえたよ。ほっとしながらお礼を言うと、露草は笑いながら片手を振った。


「えー? お礼を言うのはうちらのほうだって! いつもはユノと二人だけだからパーティー人数足りてないし。だよね、ユノ」

「はいー。わたしも露草も生産メインなのでパーティー組みにくくて。良かったら、これからもちょくちょく誘って下さいー」

「え、えっと、私のほうこそ」


 よろしく、と私も二人に笑い返した。




 一度ログアウトして食事にはまだ早い時間だったので、おやつを食べながら奈緒にゲームの話をした。


「また二人、友達が出来たよ! 今回のクエストを一緒にやってる女の子達!」

「わあ、やったねお姉ちゃん!」


 奈緒に露草とユノの話をすると、まるで自分の事のように喜んでくれた。いい妹だよね!

 そうやって再ログインまでの規定時間をのんびりすごし、再び《World》の世界にダイブすると、ユノが先に起きていた。


「あ、お帰りなさいー」

「うん、ただいま。露草は? ……まだなんだね」


 言いながら横を見ると、ベッドに横たわっている露草が目に入った。まだログアウト中らしい。

 私はベッドから起きて身支度を済ませると、ぐい、と伸びをして周囲を見回した。

 ここは、マーズおばあちゃんの店の三人用の客室だ。

 カントリー風っていうのかな。ソファーにはお手製らしきパッチワークのクッションが置かれているし、壁には良い匂いのするポプリが飾られている。

 マーズおばあちゃんらしい可愛くて暖かな部屋だ。


「露草を待ってる間、暇ですしー。丁度いいから、スキルポーション作ってみましょうかー」

「え、いきなり? 材料とか……」

「今回は、わたしが用意しますよー。リンは器具だけ用意して下さいね」


 ユノはすでにインベントリから材料を出して準備を始めている。唐突な話に驚いたけど、確かに暇な時間がもったいないし、丁度いいかもしれない。


「……うん。じゃあ、お願いするね」

「はい、バシバシいきますよー」

「う。が、がんばる」


 私は引きつった笑みを浮かべて調合の支度を始めた。




 結論から言おう。ユノはスパルタだった。そしてダメでした。


「むー、手順はばっちりなんですけどねえ」

「うちが思うに、スキルレベルが低すぎるんじゃない?」

「わたしは同じレベルで作れてましたよー?」

「種族とかステータスの違いとか?」

「ああ、それはありそうですねー」


 ……椅子に座ったまま真っ白に燃え尽きている私を余所に、ログインしてきた露草とユノがあれこれ駄目な原因を話している。うう、頑張ったんだけどなあ。


「まあ、手順は覚えたんですしー……後はスキルレベルがもう少し高くなってから、改めて試してみて下さいね」

「……うん。ありがと……」


 頭の上の犬耳までぐってりしてるのが自分でもわかる。でも、これからまた採取だ。気持ちを切り替えていかなきゃ。


「おや、良かった。まだいたんだね」


 そこへやってきたのはエプロン姿のマーズおばあちゃんだった。いつものように丸い顔を笑顔にして、手にはザルを持っている。


「採取の前にお使いを頼みたいんだけどいいかい?」「お使い、ですか?」


 マーズおばあちゃんは椅子から立ち上がった私にザルを渡して頷く。ザルの中には干した果物やクッキーなどのお菓子が入っていた。


「レーヴ様の像にね、お供えしてきて欲しくてね」

「レーヴ様?」

「湖の名前ですよね?」


 横に来た露草が尋ねると、マーズおばあちゃんはそうそう、とさらに笑みを深めた。


「レーヴ様はね、あの湖……レーヴ湖に住んでおられる精霊様なんだよ。昔、まだこの村が作られてすぐの頃にね、怪我をしていたレーヴ様を村娘が助けて。それからずっと湖に住んでこの村を見守って下さっているのさ」


 おとぎ話だ。精霊と村娘の優しいおとぎ話。

 私達はお使いを受けて早速出ることにした。その間際、マーズおばあちゃんがふと思い出したように呼び止める。


「そういえば、あんた達も祭りに参加するのかい? もしそうなら、レーヴ様に祈っておいた方がいいよ」

「参加?」


 色々と見て回るつもりだけど、参加とは言わない気がする。私の表情を読んだのだろう、マーズおばあちゃんは説明してくれた。


「ああ、ごめんよ。知らないんだね。祭りはね、二日続くんだけど、大事なのは二日目の“祈祷走”なんだよ」


 祈祷走? 首を傾げる私とユノの傍らで、露草だけが何かに思いあたったような顔をする。


「あ、ちょっと聞いたかも……確か、村長さんが出場者を集めてましたよね」

「そうだよ。良かったらあんた達も参加しておくれ」


 結局、お祭りの詳しい内容までは教えてもらえず、私達は送り出された。


「露草やユノは参加するの?」

「二日目なら出てもいいかな」

「わたしもですー。リンはどうします?」

「私も、出てもいいかな……。でも、どうして二日目ならなの?」

「あー、ごめん。そう言えばまだ言ってなかったっけ。うちもユノも、それぞれ生産で手伝いがあるんだよね」

「えっ」


 まさかのお祭りぼっち!?

 なんとなく一緒に回るつもりでいたから軽くショックだけど、約束していたわけじゃない。それなのに、露草もユノも申し訳なさそうに眉を下げている。

 ここは大丈夫だとアピールしておかないと……。


「う、ううん。大丈夫。私も何か手伝っておくから。探せば何かあるだろうし」

「でも……うーん。ここに知り合いのプレイヤーはいないの?」

「いるけど……忙しいだろうし」

「どんな人ですかー?」


 なんだか執拗に露草とユノが交互に尋ねてくる。


「えーと。トオルって名前で……」

「え。まさか地龍族で鍛冶やってる?」

「知ってるの?」

「はい。同じギルドのプレイヤーですよー」

「そ、そうなんだ……」


 まさかの知り合いだとは……意外と世間(World)は狭いなぁ。

 私が驚いている間に、露草とユノはこそこそと何かを話していた。……なんか妙な予感。


「まさかとは思うけど、トオルに連絡しようとか……」

「もうしたよ」

「えっ」

「お祭りの朝、迎えに来るそうですよー」

「ええっ!?」


 ちょっ、早い! 行動力有りすぎだよ!!

 慌てて断るためにメッセージを送ろうとしたけど、それは露草とユノに止められた。

 一度誘っておいて断るのは失礼って……いや、誘ったのは私じゃないけどね?

 でも、確かにそれはその通りだからメッセージは送らなかった。うう、明後日会ったら、ちゃんと謝罪しよう……




 そんな話をしながら歩いていたら村の入り口に着いていた。

 それほど広くない村の門は、入ってくるプレイヤーやNPCの村人達、その逆に出ていくプレイヤーや村人達でごった返している。


「なんか、プレイヤー多くなってるね」

「ですねー」


 露草とユノはそこで私を見て同時に尋ねてきた。


「リンちゃん、平気?」

「大丈夫ですかー?」

「……う、や、平気、だよ?」


 ひ、人が……プレイヤーがいっぱいいる……

 久し振りの人見知り発動で、なんだか手が震えてしまう。すると、露草とユノがそれぞれ左右の手を握りしめてくれた。

 ……ありがとう。

 血の気が引いていた頬が暖かくなる。震えが止まっても、露草とユノはそのままでいてくれた。


「それにしても多いね。ちょっと邪魔なくらい」

「燃やしたくなりますよねーふははは、蟻のようだ! とか言いながら」

「それはならないよ……」「えー」


 露草とユノの軽口に交ざりながら人の波が空くのを待っていると、同じように待っているらしい村人がいることに気がついた。

 私達と同じ年頃の、腰までの金髪を三つ編みにした女の子で、腕に布巾をかけた籠を持っている。もっと小さくて赤い頭巾を被っていたら、悪い狼に注意するよう呼び掛けるところだ。

 ――などと、考えながら見ていたら目が合った。彼女は私が持つザルを見て、親しげな笑みを浮かべ話し掛けてきた。


「こんにちは。もしかしたら、だけど。あなた達もレーヴ様のところへ?」

「こ、こんにちは。うん、そうだけど……あなたも?」

「ええ、奇遇ね」


 ころころと笑った彼女はマリーと名乗り、ついでだからと一緒に行くことになった。私の人見知りも、相手がNPCなら発動しないしね。




「――レーヴ様は甘い物が好きなの。特に、この“ざっくりクッキー”がね」


 マリーが籠から出したのは、私の持つザルにも入っているクッキーだった。

 平べったくはなくてでこぼこしてるけど、きつね色で美味しそう。ざっくりクッキーって名前なのか。


「食べてみる?」

「え、いいの? うち、食べてみたかったんだよねー」

「ええ、はいどうぞ」

「わあ、ありがとうございますー」


 真っ先に声を上げたのは露草で、ユノも嬉しそうに受け取る。私も一枚貰った。

 かなり大きいサイズのクッキーなので、二つに割って半分を食べてみる。さくっとした食感でほのかに甘い。素朴だけど飽きのこない優しい味だった。


「美味しい」

「うん。いけるよ、これ」

「食感がさくっとしていて甘味と風味がふわっときますねー。いくらでも食べられそうです」

「ふふ、ありがと」


 私の感想に露草とユノも同意する。マリーは私達の言葉に嬉しそうに笑った。 その後もレーヴの事や村の事、村長の武勇伝などを聞きながら歩き、レーヴの像にたどり着いた。



 レーヴの像は村を出てすぐの、湖のほとりに建てられていた。にょろりとした体躯で、白い肌は鱗が刻まれていて翠色の目はつるりとしている。


「……蛇?」


 レーヴは蛇のようだった。ひとつ違うのは、背中にコウモリみたいな羽が生えてるところである。


 マリーは像に籠の中身を供えると、目を瞑り何かを祈っている。私もザルの中身を底に敷かれていた厚紙ごと取り出して、レーヴの像に供えた。

 露草やユノと一緒に、目を閉じてマーズおばあちゃんからの物です、と心の中で思う。ついでに、祈祷走に参加するのでよろしくお願いします、とも祈っておいた。

 どんな内容かはわからないけど、祈っておいた方がいいなら、そうした方がいいよね。


「それじゃあ、私は村に戻るわ。私、明後日の祭りでミシャ様の役をすることになってるの。良かったら見に来てね」


 そう言って、マリーはレーヴへ祈りを捧げると村へと帰っていった。ミシャというのはレーヴを助けた村娘の名前で、祭りの初日にパレードをする際、ミシャ役が選ばれるらしい。


「……うーん。祈りを捧げてもなにも変わってないなあ。リンちゃんは? あ、ついでにユノも」

「とうとうついで扱いに! 露草の非道さにはレーヴもびっくりですよ。多分。えーと……わたしも何も変わってないみたいですー」


 露草とユノのいつものやりとりを聞きながら、私もステータスを調べてみた。……私も特に変わってないような。いや、うん?


「水耐性が増えてる……?」


 配達の報酬で貰った装備品【若草の腕輪】の水耐性が、10%から12%へと変化していた。


「あー、なるほど。この村で作られた物にプラス効果かな?」

「水耐性だったからかも知れないですよー? 後で試してみましょー」


 微妙な上がり具合だけど、ラッキーだった。

 露草とユノはレーヴの像は何を持っていたら効果を上げてくれるのか、に始まり、レーヴはきっと水属性、戦うなら雷魔法が有効? 剥ぎ取ったらきっと逆鱗が……と、いうような事を話している。いや、逆鱗は龍だよ露草。あと、戦うの前提で話すの止めようよ、ユノ! 村の守り神だよ!?

 村の人に聞かれたら怒られちゃうんじゃないかな。

 そう考えたとたん人の気配がして、私はびくっと振り返った。そして、目を瞬く。

 そこにいたのは白い髪の少年だった。

 エルフ君じゃない。もっと幼いし、髪も新雪の白じゃなくて灰色がかっている。目も翠色だ。

 それでもエルフ君を思い浮かべてしまうのは、その子供も綺麗な顔立ちをしているからだ。女の子っぽくはないけど、すごく整っている。

 その綺麗な顔に何の表情も表さず、少年は無言でレーヴの像に近づくと供えてあるクッキーを掴もうとした。


「ちょっと待って!」

「……なに」


 慌てて止めると、少年は手を伸ばした格好のままこちらを向いた。改めて見ても作り物みたいに綺麗な子だなあ……って、違う違う。


「これはね、レーヴ……様、にお供えした物なの。だから……って、食べちゃダメ!」

「だから、なんで」

「なんで、って……」


 ど、どうしよう、話が通じない……

 少年は無表情のままだけど、どこか不機嫌そうで、納得していないのがわかる。うーん。あ、そうだ。

 私はインベントリに入れていたクッキーの残りを取り出した。後でゆっくり食べようと思って、とっておいたんだよね。


「ね、クッキー食べたいならこれあげる。半分で悪いんだけど……」

「……これ、あんたの?」「あんた、じゃなくてお姉さん、ね? うん、私のだけど。これで我慢してくれないかな?」

「…………」


 少年は何かを考えていたようだけど、お供え物に伸ばしていた手を私が差し出したクッキーにと変えた。

 そして、クッキーを受け取った手とは違う方の手を私に差し出した。

「やる」

「え?」

「クッキーの、礼。ミシャが礼は大事だって言ってたからな」

「え、あ、ちょっと……」


 私に何かを押しつけると、少年は身を翻して駆け去ってしまった。残された私が受け取った物を見てみると……


「なにこれ……鱗?」

「……ん? どうかした、リンちゃん」

「あれー? 綺麗な鱗ですねー。灰色がかった白ですけど、キラキラしてますー」

「ホントだ。これ、どうしたの?」

「え……?」


 ……聞いてみたところ、私があの少年と話しているのを露草もユノも気づいていなかったらしい。それどころか、少年が居た事にすら気づいていないようだった。

 なんだか怪談じみてるけど……灰色がかった白の髪に翠色の瞳……いやいや、まさかね。

 いやでも、ミシャって言ってたし……何かのイベント? うーん……



 私は《用途不明》と表示される白い鱗とレーヴ像を交互に眺めながら、頭を悩ませたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ