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 シルト村は今日も活気で満ちあふれている。


 屋台の準備をする威勢の良いおじさんやおばさん達、そわそわと落ち着かない様子の若い女の子や男の子達、普段よりはしゃいでいる子供達。

 そして……


「ふんぬぉおおおっ!!」

「うおっしゃあああ!!」

「まだまだ若いもんには負けん!!」


 ……やぐらを組み立てているおじいさん達。いや、無理しないでください。

 私くらいの大きさの丸太を一本まるごと右肩に乗せて運ぶ、筋骨隆々のおじいさんもいる。前々から思ってるけど、このゲームのスタッフの趣味って……


「村長、無茶しないでくださいよ」

「何を言う。これくらい軽いものじゃ」


 屋台のおじさんがやんわり止めても笑いながら丸太を運んでいく。と、いうか村長なのか。


「リンちゃん、どうかした?」

「あ、ううん。なんでもない」


 つい足を止めてそんな光景を眺めていると、露草やユノに遅れてしまっていた。小走りで追い付き、足並みを揃えて村の外へと向かう。

 今日もまた、採取の手伝いだ。




 村の外に出てすぐに絡んできたのは、鷹型モンスターだった。

 名前は【バトルホーク】。本物の鷹より二回りは大きい。

 金色に輝く翼を広げ悠々と青空を舞い、琥珀の双眸で地上を睥睨している。

 見る分には格好良くて素敵なんだけど、獲物として狙われると厄介でしかないよ。


「いきます、【エアカッター】」


 ユノが風魔法を使いバトルホークの翼にダメージを与える。バトルホークが下降してからが、私と露草の出番だ。


「リンちゃん、コンボ行くよ! リンちゃん、私、リンちゃんでラストはユノね!」

「うん!」

「了解ですー」


 まず私の通常攻撃、露草のスキル攻撃、そして私のスキル攻撃を経て、止めの【エアカッター】。

 危なげなくコンボはつながり、ユノのエアカッターでバトルホークは消えていった。ドロップアイテムは【金色の羽根】と80C。


「お疲れ、リンちゃん」

「お疲れー。ユノもお疲れ!」

「はい、やりましたー」


 杖を持っていない方の手でガッツポーズを決めてユノは得意げに笑った。実際、ユノの魔法がなかったらすごく困る敵だと思う。

 これから先、ソロだと厳しい敵が増えてくるのかもしれないな……




 土狼やバトルホークを倒して辿り着いた森は、昨夜来た時とイメージが違っていた。

 なんというか、けっこう明るい。

 日本の森と違い鬱蒼としていないこの森は、昨夜は月光が差し込み神秘的だったけど、今は木漏れ日がこぼれ落ちていてとても閑かな雰囲気だ。


「この森、昼間はともかく夜はあまり奥にいかないように気をつけてね。うちも行ったことはないけど、かなり強めの敵がわんさか出てくるらしいから」

「わ、わんさか……」

「ぼっこにされちゃいますねー」


 わんさか、嫌だなあ。考えるだけでぞっとするのに、どうしてユノは楽しそうなのだろう……

 そんなユノは機嫌良く木の根元で採取をしている。

 採取をしているプレイヤーは他にもいて、皆どこかのんびりムードだった。


「ここ、昼間はそんなに強いの出ないからね」


 私が考えていることがわかったのか、露草が笑って教えてくれた。昼間のうちは出てきても小動物程度で危険度は低く、格好の採取場所らしい。


「リンちゃんも採取に回っていいよ。うちが見張っとくからさ」

「え、いいの? 大丈夫?」

「この辺りならね。もうちょい奥からは一緒に警戒してもらうけど」

「そっか……じゃあ、少しだけ」


 露草の優しい言葉に甘えて、私も採取してみることにする。最初に採れたのは、依頼されている材料の一つだった。


 【浮力草】ふわふわと風に揺れる柔らかな草:調合可能


 うーん。この説明じゃ、何のアイテムになるのかわからないなあ。

 ユノに聞いたところ、この草と以前採取した【水練草】は、祭りのイベントアイテムを作る為の材料らしい。他の薬草や果物も採取しつつ、私も【浮力草】を集めることにした。


「そういえば、リンも【調合】を持ってるんですよね? 今はレベル幾つですかー?」

「えっと、まだ二なんだ。ユノはいくつ?」

「私は五ですー。四から上は上げるのが厳しくなってくるんですよねー」

「ああ、わかる」


 溜め息をつくユノに深く頷いて同意する。

 調合に限らず、どのスキルも四まではすいすい上がるのだけど、そこからは一気に上がりにくくなってくる。

 レベルの高い材料と根気、それにいろんなアイテムのレシピが必要になるんだよね。

 採取の傍らそんな話をしていると、ユノがふと顔を上げて私を見た。


「そうだ。もし良かったら、レシピをいくつか教えてあげますよー。スキルポーションとかどうですか?」

「えっ、いいの!?」


 思わぬ申し出に食い付いてしまう。SP回復薬、スキルポーションって買うとけっこうするんだよね。

 ユノはにっこり微笑むと片手をあげ、人差し指と親指をくっつけて丸を作る。


「友達価格でお安くしときますよー」

「お金とるの!?」

「もちろん。世の中、マネーですよー」


 た、確かにタダで貰うのは気がひけるけど。にこやかに金銭的な話を出されると、なんだか複雑な気持ちになるというかゲーム内なのに世の無情を感じるというか。

 ブルータスよ、お前もか!

 あれ? ついこの間もこんな事を考えた気がするぞ?


「まあ、たとえ友達でもそこら辺はキッチリすべきだよね」

「う、うん。そうだよね」


 露草の笑いまじりの言葉に、ちょっと脱線していた私が慌てて頷くと、彼女はさらに続けて言った。


「で、さ。うちも幾つか防具があるんだけど、どうかな? あ、材料持ち込みもオッケーだよ」

「えーと……お値段の方は?」

「もちろん、友達価格で勉強しとくよ?」


 ……結局、二人と値段交渉をして、材料を渡す代わりに安くしてもらい、交渉成立となった。うーん、お得ではあるけど、またお財布が軽くなっちゃうなあ、もっと稼がなきゃ。


「この採取手伝いのイベントが終わったら製作に入るから、楽しみにしてて!」

「わたしの方は、マーズさんの店に帰ってから教えますねー。うふふ、びしばしいきますよー」

「お、お手柔らかにお願いします……」


 そんな会話をしながら森の入り口で採取をして、いよいよ奥に向かうことになった。いくら閑かに見えても、これからは用心しないといけない。

 勘が良い事や気配に鋭い事などの利点がある私が先頭に立ち、ゆっくりと森の中を進む。鬱蒼とはしていないけど、木や茂みなど隠れる場所は多く、普段以上に注意が必要だと感じる。

 そのまま暫く歩いたけど、小動物系のモンスターはノンアクティブなものが多いのか、特に戦闘もなかった。このまま油断しないように行こう……と、考えた矢先。


「痛っ!」


 頭に何かが当たり、私は急いで周囲を確認してみた。地面にピンポン玉程度の大きさの胡桃が落ちている。

 上から? と、頭上を振り仰ごうとしたとたん。


「わあっ!」

「うわ痛っ! なんなのこれっ!?」

「ひゃー胡桃の雨ですー」


 雨のように胡桃が降り注いできた。これって、堅くて結構痛いよ!


「あ、あいつだ!」


 痛そうに片手で頭を抱えながら、露草が枝の一つを指差す。

 【くるみリス】……明らかに先ほどの犯人であろうリスのモンスターが、枝にちょこんと乗っていた。

 両手で掴んだ胡桃を齧る姿は愛らしいけど、なんとなく嫌な予感がする。

 身構える私を見て、露草とユノも表情を改めて武器を構える。

 くるみリスはまだ胡桃を齧っているけど……


「あれ? あの頬袋……」


 露草の言葉に私は、はっと目を見張った。

 確かに、くるみリスの頬がどんどん大きくなっている。え、これって、まさか。


「【エアカッター】!」


 ユノが杖を掲げて風の刃を放つのと、くるみリスが胡桃を齧るのを止めるのはほぼ同時だった。

 くるみリスの口から大量の胡桃の殻が凄まじい速さで発射される。殻といっても、大量にぶつけられたらダメージは大きいだろう。

 そのままだったら私達に雨のように降り注いだであろう殻は、しかしユノの放った風に蹴散らされる。

 しかも、くるみリスが乗っている枝にもダメージを与えて、くるみリスを落とすことにも成功した。

 このチャンスを逃すわけにはいかない、よね。

 落ちたくるみリスに急いで駆け寄り、ククリを一閃。木の上に戻ろうとしていたのを妨害する。

 そして私に続いてやってきた露草の一撃で、くるみリスを倒すことができ、私達は大きく息を吐いた。


「あー、いきなりで驚かされた。ユノ、ナイスだったよ!」

「えへへー」


 露草の褒め言葉にユノは得意気に胸を張る。うん、助かった。ありがとう、と感謝して、私はドロップアイテムを見てみた。


 【栗鼠の上質な毛皮】と【胡桃】、そして80Cだ。


「ねえ、露草。この毛皮も使える?」

「ん? んー……量があればね。これだけだと、装飾としてくっつけるくらいしかできないなあ」

「そっかー……あれ?」


 ふと、ユノの様子がおかしい事に気がついて私は首を傾げた。

 なにやらキョロキョロと、何かを探すように辺りを見回している。


「ユノ、どうかしたの?」

「うーん。あのですねー、さっき、そこの茂みに青い蜘蛛っぽいのが居た気がするんですー」

「うそ! それって【水蜘蛛】!?」


 ユノの言葉に露草が目を輝かせる。


「水蜘蛛?」

「えっとー、まだ目撃情報の少ないモンスターなんですー。ただ、ドロップアイテムが注目を集めててー」

「良い糸を落とすらしいの! あー、欲しいな、水蜘蛛の糸! それで織った布で何かを作りたい!!」

「滅多に出てこないらしいですけどねー」

「……そうなんだ」


 滅多に出ない敵、つまりレアモンスター。私の頭の中に、とある鍛冶手伝い中の少年が浮かんだけど、本人の許可なしに話すわけにはいかない。

 ただ、手伝いが一段落したら一緒に狩りに来てくれないかなあ、と考えるのだった。

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