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三人で土狼を倒しながら森に近づいていく。ここまでで、STRやDEXなどいくつかのステータスが上がっている。うん、いい感じに成長してます。
「……あ」
ふいにユノが足を止めた。しゃがみこみ、何かを採っている。
私もそこにしゃがんで、何を採っているのか鑑定してみた。
【水練草】綺麗な水辺によく生える草:10分間水耐性1.2%上昇
「水辺って書いてあるけど……」
「はい。本当はもっと湖の側に生えている草なんです。お祭りに使うアイテムの材料の一つなんですよー」
「へえ……」
思わず辺りを見回してみると、葉っぱがギザギザの水練草が何本か目に留まった。
「あ、似た草もありますから、【鑑定】は必要ですよー」
「うん、わかった」
確かに、鑑定してみると水練草は一本しかない。ついユノと二人、採取に気を取られたその時だ。
「危ない!」
露草の叫び声が響く直前、何かが私にぶつかってきた。不安定な体勢だった私は呆気なく地面におしたおされ、ダメージを受ける。
何事かと上向いた視線が獣の目と合い、僅かに遅れて土狼だと気付いた。
ギラギラと輝く黄色の目が私を睨み付けたまま、近付いて来る。鋭い牙が私の喉ぶえを狙って剥き出しになった。
「リンちゃん!」
露草の悲鳴を聞きながら、私は自分の置かれている現状を把握しようと試みていた。
身体。地面に押し付けられている。武器。まだ腰に下がったまま。足。蹴りとばすには力がいる。
牙が迫る。私はとっさに左腕を出して喉を守った。
――みしり、と。
腕に牙が食い込むのを見ながら、なんとか冷静さを保つ。落ち着け。これはVRなんだから大丈夫。痛みだってほとんどない。
「……まずはこの状況をどうにかしなくちゃ」
小さく呟き、冷静に対処することを自分に言い聞かせる。これが現実なら痛みと驚きで振り払おうとしただろう。
ぐっと全力で咬まれたままの腕を前に押し出すと、僅かに狼の身体が浮き上がり、地面に押し付けられている力が弱まる。
――今だ。
右手でククリを抜き放ち、逆手に持ちかえて振りかざすと、土狼の首を目がけて振り下ろす。土狼が一声鳴き、腕に噛み付いていた牙が離れた。
「――せいっ!」
好機とみたのか、露草が右足を振り抜いて私の上から土狼を蹴りとばした。
そして、ユノの凛とした声が響く。
「土狼! 【エアカッター】」
カウントなかったよ!?
慌てて身を捩って土狼から離れたけど、それは杞憂だった。エアカッターは土狼の背中に当たり、光の粒子に変える。ちょ、ちょっとビビった……
「リンちゃん、大丈夫!?」
「大丈夫ですかー?」
露草とユノが心配そうに見ていることに気付き、私はぎごちない笑みを浮かべた。
「う、うん。ちょっと驚いただけ……」
「そうですねー。いきなりで、驚きましたよねー」
ユノがほっとしたように微笑みながら頷く。私はそんなユノを、まだ頬を引きつらせながら見つめた。
うん、土狼にいきなり襲われたのも驚いたけど、さっきの攻撃にもかなりビビったよ!
助けてもらったから、言わないけど!
起き上がり、ポーションを飲んで回復する。一番安いポーションでなんとか全快した。ちなみに、ポーションの色は水色で、味は炭酸の抜けたソーダに似ている。甘ったるい。
「あー……油断してた。ごめん」
私が回復したのを待っていたらしく、苦い顔をしていた露草が短い髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜながら謝ってきた。なんで露草が謝るのかわからなくて私は首を横に振る。
「え? 今のは私が油断してたからだよ。最近、勘が良く当たるからってそれに頼りきりになっちゃってたから」
「うーん。でも、わたしも悪かったです。周囲の確認をしないで採取に熱中しちゃいましたからー」
「ユノまで……」
「いや、ユノは確かに悪いけど。うちもさ、ちゃんと周囲を警戒してたつもりなんだけど、やっぱり人数多いからかな、どっか気が緩んでたみたいで。ホントにごめんね、リンちゃん」
「わたしにだけ厳しい露草のえこひいきっぷりが鬼畜ですー。でもわたしもごめんなさい、リン」
「え、いや、その……え?」
お互いにやり合いながらも私に対してはしっかり謝ってきた露草とユノに、私は戸惑って目を泳がせた。いやいや、今のはどう考えても周囲を警戒してなかった私が悪いよね?
「だ、だから。警戒してなかった私が悪いし、謝らなくてもいいから」
「いや、でも。こういう事はきちんとさ」
私と露草が言い争っていると、ユノがのほほんとした声音で言った。
「リンって、露草に似てますねー」
「え?」
「なにいきなり違うこと言ってんの、ユノ」
露草の言う通り、突然違うことを話されるとついていけない。戸惑っている私と露草をにこにこと眺めてユノは続けた。
「責任感が強いのも真面目なのも別にいいんですけどー、過ぎるとうざったいです。ここはお互いに悪かったと手打ちにしたらどうですかー?」
う、うざったい……
心にかなりのダメージを負った私の前で、露草が怒鳴りながらユノの頭に手刀をいれる。
「うざったい言うな! つか、元凶のあんたが言うな!」
「あう。痛いですー。暴力、はんたーい」
「そもそも、採取する時はその前にちゃんと言えって毎回言ってるでしょーが!」
「見つけたら採る。それがわたしのジャスティス」
「ふ・ざ・け・る・な!!」
「痛い痛い痛い。洒落にならない痛さですー」
「洒落じゃないしね!」
露草がユノの頭を片手でつかみ、力をいれている。露草の手に血管が浮かび上がり、ユノが本気で暴れだしたのを見て慌てて止めに入った。
……過ぎるとうざったい、かあ。
取り敢えず、また歩き出しながら露草と話した。
「ユノ、見た目と違って口が悪くてさ。驚いたでしょ、ごめんね」
「あー……ちょっとね」
一人だけちょっと離れて歩いているユノを横目で見ながら、苦笑する私と露草。ユノは頭を擦りながらなにやらぶつぶつと露草への文句をこぼしている。
「でも、その通りかなーと思ったりもするし。……ねえ、聞いていいかな? さっきはなんであんなに自分が悪かったって、こだわってたの?」
「あー」
露草はなんとも言い難い顔をして、明後日の方を向いた。
「いや、あのさ。リンちゃんはこのフィールド初めてじゃない? それに無理やり連れてきちゃったし、事前にルールとかも決めてなかったし。すぐ帰るつもりだったから、それでもいいと思ってたんだけど、なんかいい感じに連携できたしさ」
いい連携と言われて場違いにも嬉しくなってしまった。
私もそう思ってたよ!
とは言えずに、にまつく頬を抑え真面目な表情を取り繕う。
「だからさ、欲が出ちゃったというか。ついついそのまま続けちゃったし。今もまだ森に向かってるし」
露草は苦笑したまま肩をすくめた。
「だから、その分しっかりしとかないと、って思った矢先でさ。内心がーん、ってきたわけ」
露草の言い分は、なんとなくわかる気がした。それでも、私は首を横に振る。
「いや、それはわかったけど。でもやっぱり、私も良くなかったよね。嫌な感じがしないからって警戒を怠るとか……」
「それはそうだけどさ。でも、やっぱうちがちゃんと注意とかしとけば……」
何度目かの言い合いになりかけて、はたとお互いに口を閉ざす。目を見交わせて、二人同時に吹き出した。
「またこのパターン! ほんと、うち達って似てるかもね」
「そうだねー」
露草の言葉に同意して、また二人して笑っていると、ユノが膨れっ面で近寄ってきた。
「あー、二人して楽しそうでズルいですー。何の話ですか?」
「え? えっとね」
私がちらりと露草を見ると、露草はその名前の花と同じ青紫色の瞳をにんまり細めて言った。
「秘密ー。知りたかったら、今度からはちゃんと採取することを言うこと! あ、あとリンちゃんはうちと一緒に周囲の警戒ね」
私は勿論、と頷いたけど、ユノはうぐぐ、と唸っていた。
「ひ、卑怯です。わたしを仲間外れにするなんて、なんという鬼畜の所業……っ! さすが露草、またの名を鬼の露草というだけあります」
「こら、勝手に変な二つ名つけんな!」
またぽんぽんとやり合う二人に笑いながら、私は今回の事を反省していた。
ソロと違って、好きに行動したら周りに迷惑だよね。今度から気をつけよう。
その後、私達は森の入り口近りでしばらくの間採取をしてから村へと戻った。
お祭りまでの三日間は、こんな感じで過ごす事になりそうだった。




