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魔法についての説明を少し修正しました。
いきなりプレイヤーに出会ってしまい固まる私に気付かず、マーズおばあちゃんは呼ばれて出てきた二人のプレイヤーに私の事を話した。
「なるほどー、はい、わかりました! 祭りまで一緒に採取したらいいんですね」
「了解ですー」
女の子達はそれぞれマーズおばあちゃんに頷いて……私のところに来た。
「こんばんはー! リンちゃん、でいいかな? うちは露草。一応、裁縫メインでやってるけど、剣もそこそこいけるかな。よろしくね!」
「はじめましてー。ユノといいます。メインはポーション作りなどで、薬師を目指してます。よろしくお願いしますねー」
おおう、なんてフレンドリー!
剣士風の女の子が露草さんで、黒髪をばっさりショーカットにしている。種族は……なんだろ、人間かな?
そしてローブ姿の方がユノさん。白っぽい金髪をボブにしていて、VRでは珍しい事に眼鏡をかけている。種族は耳が長いから、エルフかな。
そんな二人は私の言葉を待っていて……
「ああ、あの、その」
うわあああ! なんか緊張し過ぎて上手く話せない!
どもりまくって顔が熱を持つ。に、逃げたい! この場から逃げ出したい!!
頭の中がぐるぐるし始めて泣きそうになった時、剣士の人――露草さんがいきなり私に近づいてきた。
「えいっ!」
「はうっ!?」
なんと、私の尻尾を掴まれました。えええ。感覚はほとんど無いけど、身体の一部をわしづかみにされるのって……や、やめてほしい。
「うわー、パタパタしてるから気になったんだけど……すっごいふわふわ!」
「あー、わたしも触りたいですー」
ユノさんまで近づいてきて一緒になって尻尾をもふもふしているし。
「あ、あのー……」
「あ、ごめんごめん。つい」
てへ、と笑って露草さんは私に右手を差し出し、私は意味がわからずに首を傾げた。
「お祭りまでだけど、一緒に採取することになったから、よろしく! 露草って、呼び捨てでいいからね」
「あ、えっと」
「うちもリンちゃんって呼ばせてもらうし。いいよね?」
露草……の、勢いに押されて私は目を白黒させながらなんとか頷いた。右手を取られ、何度かシェイクハンドされる。
ユノさんも露草の言葉に合わせ、にこにこと笑っいる。
「あー、わたしもユノでいいですよー」
「えっと、じゃあ、私もリンで……」
「はい、よろしくお願いしますね、リン」
ふんわり笑うユノ。こちらこそ、と言葉を返した後で、私はとうとうそれを言うことにした。
「えっと……尻尾、離してもらえる、かな?」
私の焦げ茶色の尻尾は、まだユノにもふもふされていたのだった。
なんだか妙なやりとりのおかげですっかり緊張がほぐれて、その後は比較的落ち着いて二人と話すことが出来た。
「まず、そうだなー。リンちゃんは時間は大丈夫?」
「あ、はい。えっと、まだ大丈夫です」
「敬語はいいよー。同じくらいの年だよね?」
「あ、はい……じゃなくて、うん。たぶんそうだと思う」
「うんうん。と、いうことで! 早速採取に出掛けよー!」
「出掛けましょー」
「え、えええ?」
いや、落ち着けてないな、うん。露草の発言を聞き返す暇もなく、左右から腕を掴まれ、私はマーズおばあちゃんの家から連れ出されていく。
「気をつけるんだよー」
「はーい、行ってきまーす」
「はい、頑張ってきますー」
ええと。……マーズおばあちゃんも引き止めないようです。
「いきなりごめんね、リンちゃん。まだログアウトまでの時間があるならさ、ちょっとお互いに連携とか試したいなーと思ってさ」
「露草の言葉と気遣いが足りなくてごめんなさいー。後で屋台のクレープでも奢ってもらいましょうね」
「いやいや、リンちゃんだけならともかく、なんであんたも入ってんの。奢らないよ?」
「えこひいき、反対ー」
……二人とも仲がいいなー。口を挟む隙もない。
ぽんぽんとやり取りされる言葉の応酬と二人に挟まれたまま、私は村の外へと移動する。太陽はすでに地面の向こう側へと姿を隠していて、村の外は闇におおわれていた。
「リンちゃん、夜目は持ってる?」
「う、うん。でもまだレベルが低くてぼんやりとしか見えない、かな」
「なら、わたしがライト使いますねー」
ユノが自分の腰までの高さのある長い杖を両手で持ち、空へと掲げた。
「【ライト】」
杖の先端に白い魔方陣が浮かび上がって、テニスボール程度の大きさの白い塊が生み出される。一瞬後、塊は小さな太陽のように光を放ち、辺りを照らした。
「もしかして、魔法、初めて見た?」
私が口を開けて見ていたことに気付いたのか、露草がにまにまと笑う。頷くと、ユノが手に持っている杖を見せてくれた。
木で作られた杖は緩く捻れていて、先端にビー玉くらいの大きさの、赤い玉が埋め込まれていた。
「魔法はアイテムでも使えますけど、杖や魔導書などの魔法媒体があると効果が強くなるんですよー。それにスキルが上がると覚えられる魔法も増えるし、熟練度が上がると派生魔法も覚えられます。あと、杖や魔導書にはランクがあって、この杖だと一度に一つしか短縮登録しておけないんですけど、いい物だと何個もセット出来るらしいですー」
「ええと、杖に何個も魔法を登録しておけると便利なんだね?」
「はい。戦闘の時、一度に何個も魔法が使えたらすごく便利だと思います」
それは確かに。私は自分に向かって魔法が幾つも飛んでくる光景を想像して、鳥肌がたってしまった。うん、もしそんな機会があったら魔法使いは即潰そう。恐ろし過ぎる。
「で、うちが片手剣にショートシールドで、今までは盾役もこなしてたんだけど……」
露草は私の腰に下がっているククリを見て、一つ頷いた。
「とりあえず、うちとリンちゃんでモンスターを引き付けて、ユノがトドメ。で、いいかな?」
「うん、わかった」
「了解。リン、魔法を射つときはターゲットの名前とカウントを三、唱えます。一になったら離れてくださいね」
ユノの言葉に頷いて、モンスターを探し始める。私達が移動すると、頭上に浮いてる光もふよふよと着いてきた。
湖に近い森に向かって歩き始めてすぐ、なんとなく嫌な予感がして私は歩く速度を緩めた。
「二人とも気をつけて。何かいるかもしれない」
「え? 察知系のスキル持ちなの?」
「ううん、ただ、私は獣人だから……」
「ああ、【直感】ですねー。スキルとしては持っているんですか?」
「ううん、それはまだ」
それぞれ武器を構え、油断なく視線を周囲に向けていると、草影から狼型のモンスターが出てきた。
来る時の馬車で見た奴だ。
HPバーの色は紫色で私より少し強め。【鑑定】すると【土狼】と出た。
「行くよ、リンちゃん」
「あ、うんっ!」
私と露草は剣を手に飛び出し、ユノはその場で杖を掲げる。
牙を剥いて襲い掛かってくる土狼を、右に一歩ずれて躱し、左足に力を込めて半身を捻る。右手に持つククリで一撃入れたと同時に即座に離脱した。
「リンちゃん、やるね! うおりゃあっ!」
土狼の体勢が崩れた隙を狙い、露草が剣を振るう。それは躱されてしまったけど、土狼は警戒して動きを鈍らせた。その絶好のタイミングでユノが声を張り上げる。
「土狼、いきます! ――三、二、一」
私は警戒はしたまま事前に教わっていた通り、土狼から距離をとる。
「ゼロ! 【ファイアボール】」
ユノの杖から生み出された火の塊が、唸りをあげて土狼に襲い掛かった。
炎は土狼の胴体に着弾すると一気に燃え上がり、土狼の体を包み込む。土狼は一声吠えると淡い光となって消滅していった。
って、え?
「一撃? ま、魔法強い」
「いえー、その前にリンが一撃入れていたからですよー」
ユノはにこにこ笑いながら否定するけど、私が入れたダメージはたいしたものじゃなかった。うーん、本当に魔法使いは相手にしたくないな。
「いやー、それにしても思ったより上手くいったね! リンちゃん、お疲れ!」
「やったー、です」
露草とユノが武器をしまい、両手を出してくる。
えっと。
私もククリを鞘にしまって、露草とユノ、ふたりとハイタッチして勝利を喜んだ。
……なんか、こういう風に皆でわいわい戦うのも、楽しい、かな。うん、楽に倒せるしね。
「よっし、もう一回いってみようか」
「おー」
「お、おー」
露草の言葉に片手を振り上げるユノを、ちょっと真似して私も片手を上げながら、そんなことを考えていた。




