表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

第七話:刀

ここでは女装で過ごすのをやめたらしい焔と、心太は並んで朝食を摂っていた。

鍵屋のきょうだいたちは二人よりずっと早く目覚めて、食事を済ませ、仕事にかかっているらしい。

心太は仕事の内容を知らない。焔の依頼であることは分かるが、それ以外は聞いていない。部外者であるので当然のことだ。

「心太は何のためにここ来てんはるの??」

焔が漬け物に箸を伸ばしながら問うて来た。

「え?えっと……」

「あ、訳あり?」

「いや、うちの師匠が、ここのきょうだいにお世話になってて…」

「師匠?何の??」

「……生き方?」

「は??」

他愛のない会話が途切れたのを見計らったように障子が開いた。

「お食事中に失礼致します。焔さん、ご要望の鍵が仕上がりました。お食事が済みましたら確認をお願い致します」

畏まった繭が言う。後ろに蛹も控えている。

焔の顔付きが変わった。

「すぐ見せてくれ。食事はもう済んだ!ごちそーさん」

焦れた様に立ち上がり、繭と蛹の脇をすり抜けようとした焔の手を、心太は思わず取った。

食事がまだ残っているからとか、そういう理由ではなく、何か、焔の手が目に入った途端にそうしたくなって、掴んだのだ。

途端に焔は立ち眩んだようによろける。心太はハッとして手を放そうとしたが、動揺のためか、それとも繋いだ手から流れ込む巨大な力のためか、思考と体がうまく連動しない。

「心…太…?」

「あ、つい……」

蛹が立ち上がり、二人に近付いた。

「心太さん、手を放してください!これ以上は…。繭、姉さまを呼んできて!!」

「う…」

心太が気を失って、後ろに倒れる。蛹が慌てて支えた。

意識のない心太の前には、一振りの刀が浮かんでいた。

「心太の求めていた力は焔のものだったか」

繭に連れられて現れた蝶が、刀を手に取る。

「ちょうちょ姉さま、ほむらは?」

「人の姿を保つ力を失っただけだ。魂は宿っているから、力を溜めればまた人の姿もとれるだろう」

「姉さま、しかし心太さんが……」

蛹が頽れた心太を支えたまま、堅い声で姉を見上げる。

「どうした!?」

「焔の力は、今の心太さんには少し大きすぎたのかも知れません。熱が上がってきています」

「なんだと?」

蝶は心太の額に触れた。

「繭、客間に布団を敷け!蛹、心太を運んでくれ。私は水を汲んで来る。カイコは手拭いを出しといてくれ」

蝶の指示に従い、それぞれが行動を始める。

刀は、抜き身のまま居間に放置された。




風が吹いた。湿り気を帯びた、冷たい風だ。

「ここにいるのか……」

精悍な造りに無表情を張り付けた、冷たい印象の男が佇んでいた。

「…兄貴…」

男は切なく呟いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ