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第十一話:千里(後)

千里の過去編後編です。

千里は願った。

彼を、一人にさせないように。



「…しかし、何もお前まで付き合うことはないぞ?」

蝶は姉を見て、微笑む。

「何を言う。千里と私はたった二人の姉妹じゃないか」

目的地は霊山だった。頂上に祠があり、その前に巨木が立っている。その木は、狭間の国で一番の長寿と言われている。とは言っても、一番というだけあって、いつからその木がそこにあるのか誰も知らない。だから本当に一番かどうかも誰も知らない。誰も知らないから、一番だと言われるのだ。

とにかく恐ろしく長命な木で、その木の樹精は相当の力を持っているらしい。

『らしい』と言うのも、やはり誰もその力を見たことがないからだが、古老たちの言では、時を止めることもできると言う。

狭間の国にありながら、神となった霊木である、と…。

蝶と千里はそこへ行く。

迷うことも、なく。



『人の身でここまで辿り着いたか…』

しわがれた老人の、案外と普通の声だった。

『素質がある、と言うことかのう』

「お願いがあって参った」

『永遠の命…人の身で大それたことを…』

千里が告げる前に、樹精は言い、嘲笑する。

「恐れ多いこととは分かっている。しかし…」

『妖怪に惚れたか…。そちらの女、黙っているが、お前は?』

「…分かるんじゃないのか?」

樹精は笑う。

『わしを睨むか?強気な女じゃ。女、わしが笑うはバカにしてではない。癇に触ったなら謝るがの?』

蝶は目の力を緩める。

「姉が、妖の世界に墜ちると言うなら、一人で行かせるわけにはいかない。私も共に墜ちる」

『なるほどのう。して、お前は妹を道連れにしても決意が鈍らぬか?』

再び話を振られて、千里は目前と木を睨む。

『…悲しいな。散るも滅ぶも愛ゆえに…。ならば墜ちるも同じ、愛ゆえに、か…。しかしわしにはお前たちがいうような力はない』

「っ!」

風が過ぎた。過ぎ去るのを待って、樹精は言う。

『しかしわしもそろそろ疲れた。お前たちに、わしの力と役目を譲ろう』

「力?」

「…役目?」

『どちらか一つでも受け継げば、永遠にも生きられる。ただし、力と役目は表裏一体。どちらかが欠ければ、もう片方も欠ける』

そして樹精は二人を見る。

『…姉の方には、生まれながらに力が宿っているらしいな。結界が利かなかったのはそのためか。他の力を抑える能力らしい。抑えられては意味がないのでわしの力は妹の方に授ける』

光に、包まれたように目の前が白み、蝶は眩しさに目を閉じた。

『姉には役目を…』

千里の目の前が闇に染まった。極彩色の黒に、意識を奪われそうになって千里は目を閉じる。

二人は意識を失った。

その脳に直接、樹精の声が響く。夢を見ている様な浮遊感の中、二人はその声を聞いた。

『姉は今日から、狭間の国の番人となれ。妹はその力で、姉を助けよ』

樹精はふと、悲しげに枝を揺らした。

『力と役目を譲ったからには、わしの寿命もじきに尽きよう。お前たちの選択の結末を、見届けられないのが心残りじゃが、わしは先に神界へ行くぞ』



「千里?」

白雨は首を傾げる。

長く家を開けた後、戻った千里は様子がおかしい。

妙に神聖な気配を纏っている。

そして今のように、不意に苦しげに蹲る。

「なんでもない。それより、夏にはお前の故郷に連れて行ってくれるのだろう?」

「…ああ」

千里も、そして蝶も分かっていた。人の身には過ぎた力、役目だということ二人いたからなんとか受け止められた。一人なら壊れていた。

千里の背中の右半分と、蝶の背中の左半分は、樹肌のように固く、ゴツゴツとしていた。それは半分、人であることを失った印。



夏、白雨と、その縄張りを奪った妖怪との戦は、千里に残酷だった。

ずっと一緒には、いられない運命だったのか、千里は、悲しみから逃れるために心を壊した。

腹には、一つだけ、救いが宿っていたが、千里には見えなかった。

自身が腹を痛めて生み落としても、見えなかった。

白雨の死に様が、人の姿を取れぬほど弱りながら、千里のもとに戻ってきたボロボロの大蛇の姿が、長い舌でその頬を舐めた感触が、すまないと最後に残した言葉が、千里に目隠しをする。

子どもは蝶に引き取られた。

番人の状態を現すように、狭間の国は不安定になり、現世では神隠しが増発した。

千里は食事を摂らなくなり、寝込んだ。

そして目覚めたとき、自分が狭間の国の番人であること以外、全て忘れていた。

背中は全体が、樹肌のようになっていた。




必死で辻褄あわせました。妙なところがあっても見逃してください。

最後の方にちらっと触れてる子どもが、カイコです。

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