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オレとアキラは別々の部屋を与えられている。
と、言っても隣の部屋なので用があればすぐに会いに行くことができる。
ライナーさんとアキラを見送り、やたらと豪奢な部屋に改めて居心地の悪さを感じた。
そういえば、一人きりになれたのは久しぶりだ。
今までは片時も離れずアキラが傍に居た。
しかし、この部屋で一人きりにされるのは心細い。
家具に傷をつけても困るので必要最低限、風呂に入って寝てしまおうかと考えたが、後でライナーさんと食事をとる約束をしてしまったことも思い出した。
今まで暇だと思うこともなかったので、暇つぶしになるようなものは持ち歩いていない。
出歩いて不審者扱いされても嫌だし、でもダメだとは言われなかったなぁ、なんて考えていたらドアにノックがかかった。
「ファルキオだ」
その言葉に驚きより先に気まずさを覚えたが、王子様を締め出すわけにもいかないと思いドアを開けた。
どうぞ、というよりは安全だろうと思ったのだ。
「どうかされましたか?」
ドアの外には本当に王子様が居た。
「よければ城内を案内させてもらえないだろうか?」
美形だが、その優しさがにじみ出ているかのような雰囲気の持ち主である。
というか、王子様という割には威厳に欠ける。
その王子様の向こうにはライナーさんとアキラが居た。
断れる雰囲気ではない。
「怒ってますか?」
庭の池を覗き込むアキラに王子様が何やら薀蓄を披露している。
それをぼーっと眺めていたら、ライナーさんに恐る恐るというカンジで声をかけられた。
「いえ、特に疲れているわけでもないのでいいんですけれど・・・」
「すみません。殿下がどうしてもシュリ殿にお会いしたいと言われて」
だから何でオレなのか。
同じ顔何だからアキラでいいだろうに。
顔じゃなくてもせめて性別を気にして欲しい。
「オレ、城で働く気はありませんよ?」
「分かりますか?陛下もアキラ殿のことをかなり気に入られたようで、ぜひ自分付の侍女にと申されているんですが・・・」
「アキラには断られたでしょ?」
「はい」
こんな堅苦しい生活、やっていられるわけがない。
「ギルドに所属して、魔導師として普通に暮らしていけたらと思ってます」
人より優れているところなんて、魔導師としての力とこの顔だけだ。
「ですよね。私も殿下の騎士という仕事が最近本当に・・・」
「こんなところで言ったら、王子様に聞こえちゃいますよ」
というか、王子様がこちらを見ているのだ。
アキラと話している間もずっとこちらの様子をうかがっていた。
「二人は何処の出身なんだ?」
「えっと・・・」
「分からないのです。生まれた時から両親ではない方々と旅をしておりました」
出身を問われることは想定していなかった。
尋ねられたのも初めてのことで、考えてもいなかったのだ。
それをアキラは口から出まかせでよくしゃべってくれた。
「シュリの魔法の師にあたる方々なのですが、三年前事故で・・・」
三年前に事故で亡くなったのはアキラの家のポチだ。
黒いダックスフンドに似た雑種だった。
ポチのことを思い出したのか、アキラは綺麗な涙を流した。
もちろんそうしようと思ってそうしているのだろうが。
愛犬のことで涙を流すアキラはとても綺麗で、さすがの王子様もこのときばかりはアキラの姿に胸をうたれているようようだった。
それにしても嘘泣きなんていつの間に身に着けたのか。
「すまない。そうとは知らず・・・」
「いえ。気にしておりません。命ある者はいずれ死にゆくのが定めです」
それは七年前におじいちゃんが亡くなった時にウチのおばあちゃんが言っていた言葉だ。
なんかそれを聞いたらこっちまで泣けてきた。
おばあちゃんは元気だろうか。
「・・・そろそろ戻りますね。アキラ、行こう」
さめざめとした空気だったが、部屋に戻ってからアキラと笑ってしまった。
別に真剣に聞いてくれた王子様とライナーさんを笑ったわけではないのだ。
泣いてしまった自分たちを笑ったのだ。
この世界に来て何日目かはもう分からないが、今になってあの世界が恋しくなったようだった。