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異世界の女神と少年とその幼馴染  作者: 紗九
第2章 王国編
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 案内されたのは予想通りの場所だった。

 さすが王子だというだけあり、通されたのは城の一室。

「なんかとんでもない場所に来たな・・・」

「やだなぁ。バレなきゃいいけど」

 中身と容姿が一致しないというのは裏表が激しいと同義だろうか。

 どのみち正常だとは思われないだろう。

 アキラの女のフリはそんな心配を必要としないクオリティに達しているのだが、問題はやはり自分のことだ。

「お前、オレと話してる時も素になるの止めろ」

「そんな露骨に女言葉使ってないと思うけどなぁ」

「せめて一人称は“オレ”にしろ。決定な」

 そう言われただけで実行可能なわけではない。

 今までだって努力してきたのだから。

 そこにきて突然のノックに、素で話していたアキラが飛び上がる程驚いていた。

「はい」

「失礼致します」

 ドアを開けて丁寧にお辞儀をしたのは、先ほど川まで王子様を出迎えに来た青年だった。

 王子の騎士だという割に鎧を着ているわけでもない彼はライナーさんというそうだ。

 彼の夕焼け空のような朱色の髪は、この世界でも今まで目にしたことが無い程美しい。

 その髪色に目を奪われていた私を、顔を上げたライナーさんの翠の瞳が鋭く射抜く。

「シュリ殿、でしたね」

「あ、はい」

 彼は明らかに私だけに敵意を向けている。

 訳が分からずアキラの方を見るが、女の子らしく首をかしげるだけだった。

「何が目的ですか?」

 二度も王子に近づいたのは確かに不自然だろう。

 それが分かっていながら、何故彼らは私たちを城へ招いたのか。

 というか、どうしてアキラにはその敵意を向けないのだ。

 はっきりと、窓辺に立つアキラからは視線を外し、ソファから立ち上がった私を睨みつけているのはそういうことだろう。

「別に王子とお近づきになろうとしたわけでは・・・」

「二度も王子に接触しておいて、そんなはずがないでしょう」

「では、ライナー様はわたくし達があのまま見て見ぬフリをしていた方が良かったというのですか?」

 若干うすら寒い言い回しだが、さすがアキラだ。

 私にはできない。

「アキラ殿は知らずとも、あなたには目的があったのでしょう?」

「なんでオレだけ・・・」

 そこまで疑われる理由が分からず、力なく呟いた言葉にライナーさんの目が点になる。

「・・・オレ?」

「?」

 ライナーさんが驚いているのは分かった。

 今まで威圧感たっぷりに睨まれていた目が逸らされ、何故かすがるようにアキラを見ている。

「・・・シュリはわたくしの双子の兄ですが」

 そう言われてからやっと理解できた。

 ライナーさんは私のことを女だと思っていたのだ。

 そして、先ほどまでの話の流れから推測するに――

「もしかして、オレが王子様を誘惑しようとしてると思ったとか・・・?」

「っ!?ですが、実際に王子はあなたのことばかり・・・」

 しかし、王子様は私が男だということを知っているはずなのだが。

「殿下は同性がお好きとか・・・」

「そ、そんなはずは・・・」

 アキラの言葉にライナーさんも否定しきれずに項垂れてしまった。

「本当に、男性なのですか?」

「女っぽいと言われることはありますが、そんなに間違えられたことはないんですけど・・・」

 ここまで旅する間にも、からかわれて御嬢さん扱いされたことはあるが、真剣に女扱いしてきたのは王子様とライナーさんの二人だけだ。

「普通に男です」

「よね・・・」

 豪奢な内装の客室に通され、立派な身なりをした青年に深く謝罪されるような、どうしてこんなことになったのか。

 ライナーはひたすら謝罪の言葉を口にし、王子の異常な性癖疑惑について何故かアキラと二人で慰めの言葉をかけた。

「きっと兄に命を救われ、憧れていらっしゃるだけなのではございませんか?」

 こうして会話を聞いていると、彼女は本当にアキラなのかと思わずにいられない。

 どこでそんな言葉遣いを覚えて来たのやら。

「そうだといいのですが・・・」

「そうですよ。だって・・・」

 私だって慰めている場合ではないのだ。

 確かにあんな美形に好意を持たれるのは喜ばしいことだ。

 それが例えこの容姿のためだとしても。

 しかし、私、いや今はオレなのだ。

 オレが男に好かれて喜ぶのは、王子がオレを好きだというのと同じ位おかしいだろう。

 そう考えると、オレはライナーさんに何も言えなかった。

「そうと決まったわけでもないのですから」

 オレとライナーさんの落ち込みぶりを見て、アキラは呆れたようにため息をついた。

 その姿さえ美しく愛らしい。

 ライナーさんもそう思っているに違いない。

 だからアキラは誰からも疑われないのかも知れなかった。

「はぁ・・・申し訳ないのですが、この後陛下が直々に礼を述べたいとのことでして、謁見の間までご案内させていただけますか?」

 哀れなライナーさんのためというわけではない。

 国王直々にそう言うのであれば、行くしかないではないか。

 この国のこともろくに知らない身ではあるが、王の意味は分かっている。

「失礼がないといいんですが・・・」

「ファルキオ王子もいらっしゃいますので大丈夫ですよ。たぶん」

 オレたちに感情を曝け出してくれるようになった代わりに、王子を信頼できなくなったライナーさんがそこに居た。


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