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異界の魔女  作者: humie
ゼフィーニア王国編
9/16

2.吸血

R15につき、苦手な方は回避してください。

 ハルトには大切なものが3つある。ひとつ、ふわふわでまんまるな塊に二つの目がちょこんと縫い付けられたヌイグルミ。ひとつ、ハルトがまだ幼い頃に嫁いでしまった姉が最後にくれた水晶のペンダント。ひとつ、大人でも難解とされている魔術書「近代術式構成論における限界および古典術式相補型への応用可能性に係る考察」のカバーがかけられた分厚い絵本。寝起きには必ず部屋をひっくり返してこれらを探し、胸元に抱いてまた眠る。それを何度か繰り返して3回目ぐらいでようやく完全に覚醒するのだ。今もまたハルトは巨大なベッドに山ほど敷き詰められた枕やクッションの間からヌイグルミを救出し、机のキャビネットの中身を混ぜ返して絵本を見つけ出す。ペンダントはと寝惚け眼で自分の胸元を確認すると、いつも通りそこにあった。"これで安心してもう一度眠ることが出来る"とベッドに潜り込み目を閉じるが、何かが気にかかり再びむくりと起き上がる。


―そうだ、もうひとつ・・・。


左手にぬいぐるみ、右手に絵本を持ったままベッドからするりと抜け出し、素足のままペタペタと扉へ向かう。

「あの子、どこ・・・。」

「あの子ってアイリ?」

呟いた言葉を拾われて、声がした方向を気だるげに確認する。定まらない視界にシャルルのぼやけた顔が微かに映る。

「シャルル・・・?」

「今はルル!アイリの侍女なんだよぅ。羨ましいでしょう。あ、アイリにバラさないでよ。殿下のあることないことアイリに喋るよ。小さい頃の話とかね。」

シャルルはハルトの乳母子で幼馴染とも言える。寝惚けているハルトに自分の言葉など聞こえないと百も承知ではあるが、文句を言わずにはいられない。

「殿下が舐めまくるからアイリ熱出して倒れちゃったんだよ、全く。お薬飲ませて寝かせてるんだから、殿下は行っちゃ駄目だよ。アイリ怖がってたでしょ。」

「・・・向こう?」

重い瞼が光を通すことはなく、あっちこっちに身体をぶつけながら室外へと赴く。

「ちょっと!聞きなよ!!」

憤りながらハルトの肩を掴めば、無言のまま開放された覇力に捻じ伏せられる。

「ちょっ・・・ぐっ・・・。誰か・・・!止めて・・・!」

夜会の時程ではないとはいえ、立っているのがやっとという状態ではハルトを止めることは出来ない。普通であれば部屋の前に立哨している近衛騎士がいるものだが、ハルトは身近に見知らぬ人がいる状態を極度に嫌がる為、現在も不在だった。変わりにシャルルが見張りとして置かれていたのだが、その役目は果たせそうにない。

「ちょっとーーーーー待ってってばぁ!!!」

叫ぶ声は無駄に広いハルトの部屋で空しく反響するだけだった。



シャルルを振り切ったハルトはほとんど意識のないままに廊下をさ迷い歩く。


―こっちだ・・・。


甘い香りがハルトの鼻腔をくすぐる。途中ですれ違う者達が何やら口をぱくぱくと開閉している。だが声は聴こえない。


「ハルト殿下、どちらへ?!」

「待て、お持ちの物を見てみろ、寝惚けていらっしゃる。」

「この状態の時は相当ご機嫌悪しくいらっしゃると聞く・・・。我々では・・・。」

「今朝お召しになられたという、例の王女様を探しておられるのでは?」

「確かフィオールの王女だったか。とにかく、どなたかにお知らせしなければ。」


―あとひとつ。僕のモノ・・・。


今にも完全に閉じそうな目を時々こすりながら、ぺたりぺたりと突き進む。


―ここ・・・?


扉の向こうから蜜のような甘く優しい気配が洩れ出ている。扉に近づくと何かが行く手を遮った。それをハルトは再び覇力で押さえ込む。何かがぐちゃりとハルトの足元に倒れ伏し、喚いているようだった。

「僕の・・・。」

今朝までほとんどなかったはずの覇力が、僅かに回復している。それを魔力に変換して力任せに放出し、塞がった両手に変わって扉を乱暴に開く。


―ここだ。


長いローブを纏った重たい身体をずるずると引きずり、透き通る天蓋の向こうに真っ黒な髪の少女の上下する背中を見止める。天蓋をくぐりサイドテーブルに絵本を置く。

「この子・・・?」

ベッドに登り、少女の顔を覗き込む。身体が汗ばんで息苦しそうに荒い呼吸を繰り返している。軽く腕を引っ張れば簡単に仰向いた少女の額に口付ける。彼の乾いた唇に少女の汗が染み込んだ。ハルトはそれをペロリと舐め取り、ようやく満足する。睡眠欲に支配されている今、吸血欲は息を潜めているようだった。


―全部そろった。


少女の横に潜り込むと、彼女とぬいぐるみを一緒に自分の腕の中にしっかりと閉じ込めた。そうしてようやく訪れた安寧に身を委ね、再び眠りについたのだった。


愛はそろりと目を開いて絡まる腕から抜け出すように上体を起こした。身体中を這いまわる熱は静まることを知らず、身体の奥底で今も燻り続けている。最初から目は覚めていたため、ハルトが部屋に入ってきた事にも気付いていたが、何度も口付けされた記憶が彼女の身体を強張らせ、動くことができなかった。起き上がろうとするも、腰にしっかりと腕を廻されて上体を起こすのが精一杯だった。愛に抱きついている少年は彼女が身体を起こしたことが不服なのか、唸りながらさらにきつく抱きつき、その頭を柔らかな太ももに擦り付ける。起こしてしまったかとひやりとしたが、すぐに規則正しい寝息が聞こえてきて愛を安堵させた。そっと顔を覗き込むと、少年らしいあどけなさが際立ち、夜会の折の、吸血族独特の色気や男性らしさは感じられない。愛と同じ真っ黒な髪は横髪だけ顎のラインで切りそろえられ、後ろ髪は他の王族と同じように長く伸ばされている。前髪をそっと掻き分けると、つんとすました表情は少女とも見紛うほどの愛らしさを秘めていたが、ただ眉だけは力強く男性的な直線を描いている。こうして寝顔を見ていても、恐怖は感じなかった。恐る恐る頭を撫でてみると気持ち良さそうに表情を緩め、ハルトの腕から力が抜けていくようだった。愛の寝巻きを無意識に食みつつ、甘えてくる。


―大型のわんちゃんみたい。


何度となく頭や額を撫でて過ごしていると、部屋の扉が叩かれた。返事に迷っている内にメディシスが遠慮がちに姿を現した。薄く透けた天蓋ごしに目がひたりと合う。

「お身体はもう大丈夫なのですか。」

身体を起こしている愛に声をかけながら少しだけ近づくが、女性の寝室に深く入り込むことが躊躇われたのか距離を保ったまま立ち止まった。

「・・・あの、えぇ・・・。はい・・・、大分、良くなりました。」

「それは良かった。着いて早々の無礼、愚弟に代わりお詫び申し上げる。・・・ところで、その弟がこちらに来ていると思うのですが。」

愛はすやすやと熟睡するハルトを見下ろす。

「・・・はい、先ほどいらして、眠っていらっしゃいます。」

メディシスは愛に聴こえるほど大きく息を吐き出した。

「そちらに行っても良いでしょうか。」

愛は慌てて少しはだけてしまっている寝巻きを掻き合わせて準備を整えるが、ふと随分と汗ばんでいることに気付く。

「・・・あの、でも、私・・・汗を・・・。」

魔族の体液は吸血族を狂わせるのではなかったか。狼狽する愛をよそに、メディシスはゆっくりと足を運ぶ。汗の事など今更だった。部屋に入る前から漂う甘い香りが誘うかのようにメディシスに絡みつき、彼の身体中を撫でて、理性を試してくるのだ。

「貴女が怖がるようなことは、決してしません。」

天蓋をくぐれば不安そうに潤んだ瞳と視線が絡む。吸血族の唾液に含まれる媚薬成分が身体中に流れ込み、抑えることの出来ない熱で上気した頬と、ぽてりと腫れた唇が怯えで微かに震えているようだった。意識的に視線をそらし愛の膝枕で気持ち良さそうに眠っているハルトを軽く揺する。

「ハルト、起きなさい。」

無意識の内に兄の手を乱暴に叩いて布団を深く被るハルトを呆れるように見やりながら、メディシスはベッドに腰掛けた。そうして胸元で不安げに寝巻きを握りしめている愛に視線を走らせ、どうしようもない庇護欲に駆られて思わず頬に手を伸ばし、熟した唇を親指でなぞる。緩やかに波打つ黒髪が汗ばんだ白い肌に張り付き、伏目がちな大きな眼を縁取る艶やかな睫は僅かに濡れ、きらきらと輝いている。怯懦な性格を隠しもしない震える細い肩先と柔らかな肢体。愛の頬は熱く、メディシスの掌を焦がした。守らなければ、という焦燥感が波のように押し寄せ、けれども自分の存在が彼女を不安にさせているのだという事実の壁にぶつかり飛沫を上げながら粉々に砕けて大海へと戻っていく。それでも溢れる庇護欲はとどまることを知らず、寄せては返し寄せては返しメディシスを急き立てる。頬をすべり、項を撫で、伝うように肩を腕を滑り下り、やがてベッドのシーツを握り締める細い指先にたどり着き、己の指を絡ませた。愛の身体が強張り逃げるように後ずさるのを許さず、指先に力を入れ、ただ気まずげに視線を逸らした。

「ハルトが、飢えていることは?」

「・・・侍女の方からお伺いしております・・・。」

「貴女には恐ろしく感じられるかもしれないが、我々は魔族から血を貰わないことには生きてはいけぬ種族です。ハルトの命は尽きかけていて、けれどもハルトに合う血がこれまで見つからなかった。」

すっと視線を上げ、ひたと見つめると、まだ幼さを残した少女は戸惑い身じろいだ。

「でも貴女のことは気に入ったようだ。意地の悪いところもありますが、心根は優しい子だ。どうか、弟を受け入れる努力をしてみて貰えないだろうか。」

真摯に頼み込まれて否やと言える愛ではない。しかも愛が血を差し出さなければ、愛の太ももに顔を押し付けて眠りこけている少年は死ぬと言わんばかりで、拒否など出来ようもない。

「・・・血だけで、よろしいのでしたら・・・。」

「血だけ?」

首を傾げられてしまい、頬を染める。言葉で説明するのは憚られる内容を合えて伏せたのだが、言葉にせずに伝えるのは難しい。何も言わなくても理解してくれるのは姉の怜だけなのだ。

「・・・あの、血を飲むと、・・・その、吸血族の方は、したくなるって聞いたので・・・。でも、私・・・。」


―したくなる?


しばらく悩んだ後に、顔を真っ赤に染めながらしどろもどろと説明する愛の言葉の意味に気付く。同時に、メディシスは戸惑いを覚えた。彼らにとって血と身体は同等のもので、かつ一体のものだ。血を差し出すのは構わないが、身体は嫌だ、という彼女の思考が理解できない。そもそも、吸血欲と肉欲を切り離して考えたことなど一度もない。

「何故ですか?」

素直に疑問を口にすれば、今度は愛が酷く驚いた様子だった。

「・・・何故って・・・だって・・・。」

「身体を求めれば血も欲しくなる。血を求めれば身体も欲しくなる。相手の全てを支配せずには居られない。吸血族とはそういう性だ。いくら吸血族のいない国で生まれ育ったとは言え、それは貴女も承知のはずだ。」

単純に価値観の、文化の違いなのだと説明しても納得してもらえそうにない雰囲気だ。元いた世界では献血もあったし、検査のために血を抜かれることもあった。噛み付かれることは想像すると少し恐ろしいが、血を差し出すこと自体には抵抗がない。けれども身体はそうやすやすと開くものではない。それを、こちらの世界で産まれた人にどう説明すればいいのだろうか。

「魔族も、欲を満たすことで魔力の質を高めていく種族だ。何故それを嫌がるのです。」

そんな話は聞いたこともない。愛は目を見開き愕然とした。"私は人族だ"と主張したかった。今でも気持ちの上では何の力もないただの人間なのだ。魔力など知らない、と叫びたかった。


「そーゆー教育を受けたんじゃないのー。」


だるそうなくぐもった声が膝元から聞こえて視線を降ろすと、ハルトがころりと仰向けになり愛にぴたりと視線を定める。次に愛とメディシスの指が絡まっているのを見とめるや、急速に不機嫌になり、愛の手を取ると無理やり引き剥がし、代わって自分の指を絡ませる。

「起きたのか。」

「耳元で何だか煩いんだもん。目も覚めるよ。」

「いきなり姫君の部屋に押しかけるなど、」

「はいはい、僕が悪かったよ、だって寝惚けてたんだもん。仕方がないでしょ!」

ぷんと頬を膨らませてお説教を始めようとするメディシスを睨む。

「あの・・・。」

途惑う愛に視線を戻し仰向けに転がったまま腕を伸ばす。

「ねー君、名前なに?」

「あ、えっと、アイリフィアと申します。」


「・・・それ本当の名前?」


真顔で聞かれ、愛は狼狽を隠せなかった。

「どういうことだ?」

ハルトの言葉にメディシスが訝しげに眉を潜める。

「君でしょ、異世界から無理やり引き落とされてきた内の一人。もう一人はゴルディアに行った君のおねーさん?」

「な?!」

メディシスは愛とハルトを交互に見ながら目を見張る。愛は視線をさ迷わせ、今にも泣き出しそうな表情になる。

「ハルト、それは間違いないのか。」

「うん。あの時、時空の狭間で放たれた膨大の魔力と全く同じ気配だもん。ねぇ、本当の名前教えてよ。」

「わた、わたし・・・。」

溢れ出す涙に、"おっと"と身体を起こしてハルトは唇を寄せる。

「ハルト!」

「だって、勿体無いでしょ。魔力の味がする。」

唇に落ちた涙をぺろりと舐める。

「ねぇ何で泣くの。泣かないでよ。名前言いたくないなら別にもういいから。」

困ったように愛の顔を覗き込み、服の裾を引っ張ってみるが、愛の表情は曇ったまま変わらない。ハルトは泣き止まそうとあたふたと辺りを見回す。


―こんなに早くばれちゃうなんて。どうしよう。私、本当は王女でもなんでもないし、牢の中に入れられる?殺される?


不安で胸が締め付けられている愛を余所に、ハルトはいつの間にかベッドから転げ落ちていたまん丸でフワフワのヌイグルミを拾い上げると愛にぎゅっと押し付ける。

「もう!僕のムームー貸してあげるか泣かないでよ。」

「・・・むーむー?」

「うん、この子の名前。かわいいでしょ。妖精でね、僕の好きな絵本に出てくるんだよ。絵本も貸してあげる。」

ベッドサイドの絵本を手に取って愛の太ももへと戻っていく。仰向けになり、愛にも見えるように挿絵の部分を広げる。

「ほら、ここにムームーいるでしょ。」

広げられた絵本を覗き込むと、確かにヌイグルミと同じまん丸な形をして、くりくりのつぶらな目がふたつ、ちょこんと付いただけの生き物が三匹並んで愛らしくこちらを見つめている絵が描かれている。愛の目から涙が引っ込んだのを確認してハルトは安堵する。何か言い出しそうなメディシスを目で制して、扉に向かって声を上げる。

「ルルいるんでしょ、来てよ。」

扉から訝しげに顔を出したシャルルににやりと笑うとハルトは手招きする。

「なんでしょう、殿下。」

「僕が倒れた時、メディ兄さんにお呼び出し喰らってなかったっけ?」

にこにこと嬉しそうに微笑みながら、シャルル自身すっかりと忘れていたことを口走るハルトにシャルルは青褪めた。

「げっ。」

「僕まだあの時辛うじて意識あったんだよねぇ。ちゃんと行った?」

「なっ・・・!うっ・・・。」

「うん、まだだよね、僕が目を覚ますまで僕を見張ってたもんね。じゃぁにーさん、ルルをよろしく。僕もあとで行くから。」

しっしっと手を払うハルトと視線を絡ませ、"後で説明に来るんだな"、"必ず行くから"、とアイコンタクトで会話をし、静かに頷いてメディシスは立ち上がる。

「さぁ、ルルとやら、行くぞ。」

嫌がるシャルルの首根っこを掴んでずるずると部屋の外に引きずり出す。閉まった扉の向こう側から"覚えてろよ!"という乱暴なシャルルの声が響き渡り、愛は目を丸くする。

「ルル・・・?あの、ルルは大丈夫なのですか?」

「うん、ちょっと粗相があったから怒られるだけ。いつものことだよ。」

心配そうに扉を見つめる愛に、にじり寄りその胸に頬を寄せる。

「きゃっ。」

「うーん、柔らかい。」

何度か頬擦りをして堪能し、悪戯っ子のように目を細めて顔を近付ける。

「ねぇ、僕、喉渇いたよ?」

「え・・・?!あの・・・でも・・・。」

「ダメ?このために邪魔者二匹を追いやったんだけど。」

「え、あ、ルル・・・?」

「うん、あいつ邪魔しに来るだろうから、遠く離しておかないと。ねぇねぇ、僕が死んでも平気?」

「それは・・・でも・・・。」

「平気じゃないよね?君が血をくれないと僕生きられないんだよ。ねぇ、一生涯大切にするって約束するから、血をちょーだい。ガルドからも、他の吸血族からも守ってあげる。僕はとても強いから、君を守ってあげられるよ。」

愛の足を引っぱり、ベッドに沈めこむ。上から迫ってくるハルトからは先ほどまでの少年らしさが消え失せ、妖艶な吸血族へと変貌を見せる。

「ねぇ、ダメ?」

寝巻きの間から差し入れられた手に足をなで上げられ、愛は思わず身を縮める。その姿を狂おしそうに眺めてから、項に顔を埋めてたっぷりと唾液で濡らす。

「吸血族の唾液は痛みさえ快楽へ変える。痛くないよ、約束する。」

"だから、ねぇ"と耳元で囁く。

「許可をちょーだい?」

弱々しく首を振って抵抗を見せる愛に、ハルトは何度も何度も重ねて許可を求めてくる。ようやく引き始めていた熱が再び燃え上がったかのように愛の身体中で暴れ狂う。

「だめ・・・だめ・・・。」

「いいって言ってよ。」

「でも、だって・・・。」

「このままじゃ僕、飢えて死んじゃうよ?いいの?僕を殺すの?」

命を楯にとられて拒否出来るタイプではないと分かった上での問いだった。愛は自分の指を噛み締め、ハルトの金色の目から逃げるように顔を逸らす。


「ねぇ、いい?」


頷くしかなかった。見殺しになど出来ない。


首に牙が刺さる感触に息を呑む。ただし、全く痛くはなかった。むしろしびれる様な快感が電流のように流れる。

「・・・!」

両腕で抱き上げられて弓のようにしなった背中と、突き出した豊かな胸が触れて欲しいと震え出す。


少しだけ血を啜り牙を抜いたハルトは情欲に濡れた目で優しく愛を見下ろした。赤い血が白い牙を伝い落ち、それをハルトはゆっくりと舌で舐め取る。


「身体も心もくれるよね?僕、我慢できない。」


朦朧と霞んだ頭では何を言われているのかも理解できず、ただ呆然とハルトを見上げることしか出来ない。それを許可ととったのかハルトは手際よく愛の寝巻きを剥ぎ取ると、自分も脱ぎ捨てて愛に覆いかぶさった。



後のことを、愛は何も覚えていられなかった。痛みは皆無であったこと、恐怖も途中から何処かへ消え失せたこと、そうしてただ押し寄せる快楽に溺れ続けたこと、それらが思い出されたのは愛が新しい生活に慣れ心に余裕ができてからの事で、しばらくはただ恥ずかしかったという感情だけが何度も思い出され愛を赤面させたのだった。

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