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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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仮面の奥

作者: 雪猫
掲載日:2026/10/25

少女は恐怖で動けなくなった。

無数の人を殺してきた仮面の者は、ゆっくりと近付いて来た。

手には、何度も血を吸った、大きな鎌が握られていた。

仮面の奥から声がした。


「思い出した?」

笑い声が響いた。



5年前、仮面の者に殺された姉は、

怖い話が好きだった。

街や村で人に聞いた話を

夜、少女に聞かせてくれた。


その中でも、1番姉が好きで、

1番少女が怖がった話が、仮面の者の話だった。


犠牲者は、数週間前に、

仮面の者からカードが届く。

自分が殺される日が書かれたカードが。

その人が、どんなに逃げても、どんなに抵抗しても、

全員、カードに書かれた日に確実に殺される。

仮面の者の犠牲者は、数え切れなかった。


姉は、仮面の者の話を嬉々として語った。

少女も怖い話は嫌いではなかった。

すると姉は、さらに怖がらせようと、

話中に、いきなり大きな声を上げて驚かせた。

突然笑い声を上げ、恐怖を煽った。

でも、少女が本気で泣き出すと、

ぎゅっと抱きしめて慰めてくれた。


そんな姉の元に、カードが届いた。

姉は喜んだ。

少女は辛さと恐怖で震えが止まらなかった。

姉は少女を見て、慰め、抱きしめてくれた。

それでも姉は、嬉しさを隠しきれないようだった。


姉は、先生にも友人にも、街や村の皆にも、

カードを見せて、

自分の最後の日を楽しそうに伝えた。

皆、複雑な表情をしていた。

既に皆、仮面の者のカードは、

運命として受け入れていた。

幾つものパーティーが開かれた。

主催は大体、姉自身だった。


少女は姉に、なぜ平気なのか尋ねた。


「知ってるでしょう?」

姉は笑顔で、そう答えた。


自身のパーティーで、

姉は、全員とゆっくり話し、

手作りの贈り物と手紙を、

一人一人に渡した。

皆、涙を見せた。

別れの哀しさに、

姉でさえ、涙を見せた。


少女は納得していなかった。

毎日のように、姉の側から離れなかった。


そして当日、

少女は、一緒に逃げよう、隠れようと、

姉を地下の倉庫に引っ張り込んだ。

姉は、少女の好きにさせた。

その顔は、無駄と分かっている顔だった。


突然、地下の倉庫の片隅に、

仮面が見えた。

仮面の者は2人よりずっと背が高く、

鎌はそれより大きかった。


少女が仮面を認識した時には、

姉は仮面の腕に抱えられていた。

既に姉は息をしていなかった。

床に血が流れていた。

仮面は姉の体と共に、

少女の目の前で、消えた。


それが、少女にカードが届く、

5年前の出来事だった。



姉は生前、少女に何度も尋ねた。


「覚えてる?」

その都度、少女は首を振った。


少女は、

この家に姉と二人きりで居るよりも前のことは

覚えていなかった。

姉は、しっかりと覚えていた。

何度も、少女を初めて見た日のことを語ってくれた。


姉は、仮面の者の話に怯えて本気で泣く少女にも、

同じように尋ねた。


「覚えてる?」


覚えていない少女に、

姉は、何かを繰り返し教えてくれた。

でも、それが何だったか、

姉が死んでから、少女は思い出せなかった。



少女は自分のカードが来てから、

恐怖に取り憑かれた。


外に出ても、まだその日ではないのに、

道行く人の顔が、あの仮面の者に見えた。

物干しの影が、鎌の影に見えた。

雨の雫が全て血の雫に見えて、

街中に血が降り注ぐ光景を見た。


老人は少女を見て

「羨ましい」と言った。

隣の主婦は、

「良かったねぇ」と言った。

友人も涙を流して喜んだ。


少女の世界は、崩壊していた。


部屋で一人、少女は恐怖から逃れようと

眠り、姉の夢を見た。


夢の中の姉は、いつも少女に尋ねた。


「覚えてる?」


「何を?」


少女が聞くと、

姉は答えず、消えた。

そして目が覚める。

毎回、その繰り返しだった。


少女は、姉と居るより前のことを思い出そうとした。

全てに靄がかかり、思い出せなかった。


少女は姉が教えてくれたことを

思い出そうとした。

どんなに考えても、何も思い出せなかった。



そして、

カードに書かれた日がやって来た。


少女は恐怖で逃げ惑い、

昨日まで安全と思っていた場所も不安になり、

避難場所を変えた。


結局辿り着いたのは、

あの地下の倉庫だった。


夜になり、

仮面の者が現れた。


少女は恐怖で動けなくなった。

仮面の者は、ゆっくりと近付いて来た。

手には大きな鎌が握られていた。


仮面の者は、前より背が低かった。

鎌も一回り小さかった。

まるで別人のようだった。


仮面の奥から声がした。

聞き覚えのある声だった。


「思い出した?」

姉の笑い声が響いた。


鎌が光った。

血が床に流れた。

少女は、その場に崩れた。

姉は少女を担いだ。



少女は、全てを思い出した。


























目が覚めた時、

少女は赤ん坊になっていた。



幼い、5歳になった姉が、

少女のベッドを覗く。


「今度は、5歳も離れちゃったね。

前は2歳だったのに」


姉は不満そうに言ったが、嬉しそうだった。




少女は覚えていた。


以前居たのは、生まれる前の世界だった。


その前に居た世界で、2人は姉妹として初めて会った。

年を取り寿命で死ぬ前に、2人で約束した。


「次も姉妹で生まれ変わろう。

またずっと一緒にいよう」


それを姉は覚えていて、

少女は死のショックで全て忘れていた。


そのため、

自分が、生まれ変わる前の世界にいることも、

実感がなかった。

姉に教えられても、ピンと来なかった。

恐怖でそれさえ忘れ、

あの世界しか存在しないと思い込み、

死の恐怖がさらに増した。

悪循環だった。


あの仮面の話は、本来、

『仮面を付けた天使が迎えに来る』、

生まれる為の一時的な死という事実に、

エンターテインメントで

恐怖要素を味付けした話である。


それが、少女の心によって、

絶望的な恐怖として演出された。


その為、

少女が怖がりすぎるから、

姉が天使と交渉して、

代わりに仮面を付けて来てくれた。






少女は思い出した。


「また、ずっと一緒にいようね」


姉は少女に微笑みながら言った。


少女は赤ん坊の姿で、

嬉しそうに笑った。


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