なんでも奪う妹に奪われる側になってもらった
じんわり嫌な感じを目指しました。
ナディア・オルベルは男爵家の娘だ。
彼女には二つ下の妹がいた。
名をマリアという。
幼い頃はナディアも妹の事を可愛がっていたけれど、その可愛いという感情はいつしか消えていった。
マリアは甘え上手な子どもだった。
ねーさまのリボンかわいい、すき。ほしい、ちょーだい。
まだ舌足らずな言い方で、こてんと首を傾げておねだりをされて、最初の頃はまだ、可愛いと思っていたのだ。これでも。
だがそのちょーだい、が段々とエスカレートしてきて、これは駄目、とナディアが断ると、マリアは瞳いっぱいに涙をためてこれから泣くぞ、とこちらに匂わせた後で、大きな声で泣く。
その声に他の大人たちがやってきて、どうしたのかとマリアに聞くとマリアはナディアを指さして、ねーさまがいじわるするの! と訴えた。
意地悪などではない。
あげられる物はあげるけれど、あげられない物に関して断っただけ。
ナディアからすればそれだけの話でしかなかったのだが、周囲の大人たちはナディアがまだ幼いマリアを虐めたのだと思ったようで、ナディアが叱られる結果となってしまった。
ナディアからすれば理不尽である。
ナディアは別に気が弱いわけでもなかったので、それについて反論もしたし抗議だってした。
しかし大人たちはそんなナディアを見て、自分の非を認めない・可愛げがないと見てしまった。
そんな年から自己保身に長けてどうするのです、とも。
自己保身も何も……という話なのだが、その後の大人たちのナディアに対する反応はあまり良いとは言えなくなってしまった。
思えばこの時点で、ナディアは周囲の大人たちから妹を虐めて楽しむ性格の悪い子、という風に思われたのだろう。違うのに。
マリアは幼い頃から賢かった。
その賢い、はどちらかというと狡賢い、が正しいとナディアは思っている。
少なくともあの時からマリアが味を占めたとナディアは思っている。
年下の妹にもっと優しくしてあげなさい、なんて言われた事もあったが、ナディアはナディアなりに妹に接している。良い事は良い。駄目な事は駄目。ただそれだけだというのに。
駄目な事も何もかも許容しろって事? と聞けば、大人たちは鼻を鳴らしてそういうところが駄目なのです、と言うだけだった。
欲しがっているのならそれくらい譲ってあげればいいでしょう。
貴方は新しいのを買えばよろしい。
そんな風に言われても、ナディアは家の財政状況を何となく把握している。
この家はそこまで裕福ではない。
知っている。
だから、マリアにあげたあとで、自分の物を新しく両親が買ってくれる事はなかったし、それを言えば母はそんなに欲しいなら自分のお小遣いから買えばいいでしょう、とあまりにも他人事だった。
そうして自分の懐から出して新たに入手しても、それすらマリアは欲しがるのだ。
だが両親の反応は変わらない。譲ってあげなさい、だ。
こんな事が続けば、いくら最初の頃は可愛い妹だと思っていたって憎たらしくもなってくる。
嫌いなものに愛情を向けたり注ぐような人はいない。
だからナディアがマリアに対してそっけなくなっていくのだって、言ってしまえば当然なのに周囲は妹に優しくできない意地悪な姉、という風に見る。
ナディアが妹のマリア含め、周囲の人たちを嫌いになるまで時間はそうかからなかった。
物だけならまだ良かった。
だが、成長して行動範囲が広がるとマリアはナディアの交友関係も羨ましくなったのか、周囲をちょろちょろし始めて友人たちとの接点を増やそうとした。
ナディアは友人たちに妹との仲はあまり良くない事を最初に伝えていた。
嫌いになってしまった理由も。
それに同情したり、理解を示してくれた者もいれば、そうは言っても妹なんでしょ? と理解してくれない者もいた。
結果として付き合いが減った者もいれば、変わらず付き合いを続けていく者も。
そういう意味では、マリアの存在は試金石みたいだなと思ってしまったくらいだ。
ナディアの話を鵜呑みにするだけではなく、マリアの事もきちんと見て、そうしてその上で判断してナディアから離れる、という選択をされたのならばナディアも納得はできる。
だが、マリアからの姉に意地悪をされていてぇ……なんて言葉だけでこちらの言い分を聞こうともしない相手とはナディアだって付き合いを続けたいとは思わないし、ましてやそんな姉妹の仲を改善してあげようなんて思いあがった気持ちで関わられるのもうんざりだった。
オルベル家の姉妹には兄もいる。
兄は少し年が離れていて、二人と関わる機会はなかった。
家を継ぐため学び、それ以上を求め留学をしていたので、ナディアも兄についてあまり詳しくはない。
向こうも忙しいのか、年が離れた妹とどう接していいのかわからないからなのか、ともあれ手紙が届くというような事も無かった。両親には手紙を出しているようだったので、何をしているかわからない、というわけでもない。
そんな兄がそろそろ留学から帰ってくる、と両親の会話から察する。
兄が家を継ぐとなれば、結婚相手も探すのだろう――と思ったが、どうやら既に婚約者がいるらしい。
マリアが「婚約者?」と呟けば、母は違う意味で捉えたのか、
「二人の婚約者もそろそろ探さなくてはね」
なんて言い出した。
この家を兄が継ぐのだから、ナディアもマリアもいずれ嫁いで家を出なければならない。
そうでなければ、修道院だろうか。
とはいえ裕福でもないこの家では寄付金だって知れている。
そうなれば、修道院に入るといってもそこでのんびり過ごすなど難しいだろう。
あくせくと働かなければならないのなら、それなら裕福な平民に嫁いだ方がまだ自由がありそうである。
だがこの場でそんな事を言っても、マトモに聞き入れられはしないだろう。
ナディアはそう思って口を噤んだ。
「私、素敵な人と結婚したいなぁ」
なんて夢見る乙女みたいな事を言っている妹にしら~っとした目を向けたが、両親は妹しか見ていなかったようで、特に何を言われる事もなかった。
そうしてそろそろ年頃になる娘たちの婚約者を……と探したところで、オルベル家は男爵家という貴族社会の中で立場も下で、これといって特筆すべきものもないような家だ。相手を選び放題、なんてはずもない。
夢見るマリアの願いに両親も応えようとはしていたようだが、そう都合よく相手が決まるはずもなく。
最初に婚約者が決まったのは、ナディアの方だった。
スコット・ハーヴィー。
子爵家の長男。
てっきり同じ男爵家あたりで探されているかと思っていただけに、ナディアは少しばかり意外に思った。
穏やかそうな見た目で、最初の印象は悪くなかった。
何より結婚して家を出れば、もうマリアと関わる機会だって減るだろうとも。
割と早い段階で妹が羨ましがって持ち去ろうとするような物は手にしない、と学習していたナディアの身の回りの物は、正直自分の好みから遠くなってしまっている。
大切な物や、好きだと愛着を持っている物を持っていかれるから余計に妹に対して嫌いという感情が育つのだから、であればどうでもよいような物を持っていかれるならそこまで心に傷は負わない。
……嘘だ。
どうでもよいと思っていてもそれでも自分のなのだから、それを奪う妹の事など心底から嫌いである。
マリアの物はマリアの物なのに、ナディアの物もマリアの物だと思っているあの妹が心底憎たらしい。
そしてそれを良しとしているような両親の事も。
両親の目はきっとマリアは可愛い娘で、ナディアは意地悪な娘に映っているのだろう。それこそ、ずっと昔から。
マリアがそう思われるように家の中で振る舞ってきたから、というのもあるのだろう。
自分を良く見せる事に関して、幼い頃からマリアはずっと上手かった。
ナディアを悪く見せれば、比較されてもっとより良く見えるのだろう。
ナディアはマリアのように要領よく自分を良く見せる事ができなかった。
ただそれだけ、と言ってしまえばそうなのだろう。
それもあって、ナディアは結婚して家を出る日を心待ちにしていた。
婚約者同士の交流。互いの家を行き来して、時に観劇などを楽しみ、仲を深めていく。
だが、そんな二人の間にマリアが入り込んできた。
お姉さまの夫になるのなら、私にとってもお義兄様だわ、なんてもっともらしい事を言って。
どちらも結婚して家を出れば、会う機会なんて減るだろうに。
しかし愛らしいマリアにそんな風に言われて、スコットはまんざらでもない様子だった。
事前にナディアは妹のマリアが好きではない事を伝えているというのに、それでも仲良くできるのならしておくに越したことはない、なんて言って。
いつしか二人きりの逢瀬は、マリアという異物が紛れ込み三人でいるのが当たり前となりつつあった。
「――意外だったわ」
だからこそナディアは屋敷に帰ってきてからそう口にしていた。
「何が?」
マリアは何を言っているのかわからない、とばかりにきょとんとした表情をして、そうしてナディアを見ている。
「貴方の事だから、スコット様の事なんて見向きもしないと思っていたのに」
見た目だって、華やかとは対極の位置にいる。
マリアが夢見るような素敵な素敵な貴公子様とは反対の、穏やかで優しそうな見た目。もっと悪し様に言うのなら、地味。
そんな男性をマリアが目をつけるとは思ってもいなかった。
「あら、そんな言い方失礼よ。スコット様は素敵な方だわ」
まるで恋する乙女みたいに頬を染めて言う。
周囲が見れば間違いなくマリアが恋をしていると思うだろう。
それくらい違和感も不自然さも何もなかった。
「ふぅん? 本当かしら。お母様が貴方にって持ってきた縁談の相手より爵位が上で、それで目を付けたとかじゃないの?」
「そんな言い方……! お姉さまの方がよっぽど失礼よ」
どうだか。
声には出さなかった。
ナディアは知っている。
母親がマリアにと持ってきた釣書。やはり家柄としても特に惹かれる要素がない我が家では、相手も相応の相手しか見つからなかった。
我が家と同じくらいパッとしない――という言い方は相手の家に失礼ではあるが、事実なのだから仕方がない――男爵家の者たち。貴族をロクに知らぬ平民が思い浮かべるようなキラキラした美貌とは縁遠い容姿。
洗練されていない、と言えばまぁ、磨けばどうにかなりそうではあるが、残念ながら磨いたところで……というのがとても失礼だがナディアの感想だった。
であれば、マリアもきっと同じような結論を下したことだろう。
なんだかんだ言葉を濁して、こちらの方はちょっと……なんて言って見合いにすら持ち込まないマリアは、明らかに選り好みしているが、母はそれを咎めもしていない。
そうよね、貴方にはもっと相応しい相手がいるはずだわ。
なんて言って、新たな相手を探しているのだ。
そう遠くないうちに伝手は全滅するだろう。
そうなれば後は――直接そういった相手と知り合えそうなパーティーにでも参加する、とかだろうか。しかし誘われてもいないパーティーに行ったところで追い返されるのが関の山。招待状を得るために奔走する事になるか、はたまた仮面舞踏会など招待状を特に必要としていない所へ乗り込むか。
……いや、流石にそこまでは母もしないか。
一夜の相手を探すならまだしも、マリアの相手を探すために母が行くにしても恐らく見つからないだろうし、だからといってマリア本人を連れていったとしても、厄介な相手に一夜の遊び相手にされて終わる。
ああいった場は性質の悪いのが多いと聞いているので、ナディアでも容易に想像できてしまう。
「私が失礼なのはいつもの事でしょう? 貴方にとって」
ふん、と鼻で笑うように言えば、マリアは「お姉さまったらもう……」なんてまるでこちらを宥めるみたいな言い方をするが、ナディアはもうなんとも思わなかった。
「貴方は私から奪うばかりだけど、奪うものがなくなった後、貴方には何が残るのかしらね」
いっそもっと愚かであったのなら、マリアは他所でもやらかしていて、きっと今頃両親だってマリアに厳しくあたっていただろう。
だがマリアは奪うのは姉からと決めているのか、外で他の誰かに迷惑をかけるような事はなかった。
それもあって、ナディアの妹が嫌いという話を聞いても半信半疑のままだった者もいるのだ。
一部の友人だった者は悲しい事にマリアを信じナディアとの関係は途絶えてしまったけれど、ナディアを信じてくれた友人もいる。
そういった友人の事をマリアはお姉さまと同じで意地悪な人なのね、きっと、なんて言っていたけれど。
わかってくれる人はいる。
それはつまり、マリアがいつかどこかでボロを出す切っ掛けになるかもしれないという事だ。
マリア本人はそこを理解しているのだろうか。
皆が皆マリアの言い分を信じるわけではない。その当たり前はもしかしたらマリアにとって当たり前ではないのかもしれない。
「いやだわお姉さまったら。まるで私が何も持っていないみたいに。
私は欲しいものは手に入れる主義なの。だから何も残らないなんてあるはずないわ」
自信満々にそう言う妹。
ナディアはそれを、白けた目で見るだけだった。
思えば予感はしていたのかもしれない。
スコットと会う日に妹が割り込んでくるようになって、そこから徐々にスコットとマリアとの仲が縮まったように思っていた。けれどもスコットはマリアはいずれ妹になる相手だからと言って、それだけだと言っていたのに。
「ごめんなさいお姉さま……悪いとわかっていたけど、どうしてもこの想いを止められなかったの……」
「君には済まないと思っている……」
マリアが行動に移ったのは、ナディアにとってみれば案外早かった、と言うべきだろうか。
薄々そうなるだろうなとは思っていたので、衝撃はない。
ただ心のどこかでああやっぱりね、と納得するばかりだ。
スコットと会う日に時々何故か自分に話が……なんて使用人に呼び出されたり、マリアが呼んでいたなんて言われて誰もいない部屋に案内されて待たされたり、と端的に言えば妨害されているなと思うようなものがあったのだからお察しというものだ。
そうしてナディアがいない間に二人で想いを深めていたのだろう。
マリアに使われた使用人に関しては、最早何も言うまい。
どのみちこの家の中ではナディアの立場は使用人より上ではあるけれど、家族の中では底辺だ。
可愛いマリアの願いを叶えるために、意地悪な姉を遠ざけてやった、なんて使用人は思っているのかもしれない。
両親たちの前でいかに二人が愛し合っているかを切々と訴えて、お腹には既に子が……なんて言われてみろ。
このままスコットとナディアを結婚させたとして、そうなるとマリアは私生児を産む事になるし、そうでなくとも家の醜聞になる。
それならばまだ、今なら間に合うとばかりに婚約者をナディアからマリアに変更した方が傷は浅い。
勿論婚前交渉という部分はあるが、それでも最悪の事態と比べればマシ。
そう判断した父は、あっさりと婚約者をナディアからマリアに変更した。
婚約者が変わった事を誰も知らないというわけでもない。
だから全く醜聞が出ないというわけでもないのだ。察する者は察する。
マリアに来ていた見合いのいくつかをナディアに……と母が持ち掛けたが、ナディアはこの一件で結婚相手は自分で決めると言い放った。
薄々そんな気がしていたから、頭の隅に計画は立てていたのだ。
持つべきものは友人である。
婚約していたのにそれが急遽なくなった、という点で、真実がどうあれその部分だけでまるでナディアに瑕疵があるように見る者はいる。
マリアもそれくらいは理解していたのだろう。
勝ち誇ったみたいに、ごめんなさいねお姉さま、と二人きりになった時に言われたが、別に何とも思わなかった。
「いいのよ、どうせ私も貴方も結婚して家を出ればもう会う事もないでしょうから。
私はこれ以上貴方の踏み台にならなくて済む。考えると清々するわ」
「でもお姉さまの結婚って言ったって……」
「アテならあるわ。後妻だけど」
「後妻だなんて……」
悲壮な雰囲気で言ってはいるが、マリアの表情にはやっぱりそういったロクでもない縁談しか残ってないのね、とばかりである。
「いいのよ、別に。私は遠くから踏み台もなくなった貴方のメッキが剥がれるのを眺める事にするわ」
「そんな言い方。本当にお姉さまったら意地悪なんだから」
「貴方に親切にしようって気持ちはとっくに売り切れたもの」
「時として人を悪者みたいに言って自分が被害者のように振る舞って。
そうやって周囲の同情を集めて味方を増やしていたようだけど、姉が遠くに行くのなら次は誰を犠牲者にするつもりなのかしらね。
でも私と違って元は他人だもの。簡単に私と同じようになるとは思わない事ね」
家の中では両親が味方だった。
だから容易であると言えなくもない。
両親が味方である以上、使用人たちもそちら側につくのだから。
だが、次にナディアの役割を別の誰かに押し付ける時。
その相手を間違えれば破滅するのは妹だし、今までの評価も裏返って地の底まで転落するのは言うまでもない。
「私を踏み台にしないと輝けなかった貴方が、この先どうなるのか見ものね」
言うだけ言ってマリアの反応も待たずに踵を返せば、少ししてからガチャン、と陶器が割れる音がした。
大方飾られていた花瓶を割ったのだろう。
少ししてから「お姉さまが……!」と叫ぶマリアの声が聞こえたが、今更悪者にされたところでナディアが困る事はない。
こうなるだろうな、と思ったあたりから友人経由で知り合ったとある人物へ、ナディアは速やかに連絡を入れた。
そうして、身一つで家を出た。
どうせ残された物は自分の好みですらない、妹に奪われないためだけにあるだけの物。
わざわざ持っていこうとも思わなかった。
ナディアが嫁いだ先は、モルヴィア伯爵家だ。
当主であるユーゴは妻に先立たれ、再婚した妻が浮気をし危うく種の違う子を伯爵家に入れようとしていたのもあって、早々に叩き出した。
まだ幼いが子はいるために、跡取りに関しては問題がない。
ただ、子が幼いためか母親がいた方がいいだろう、という周囲の親切――ユーゴからすればお節介で、後妻を求めているとの事だった。
二人目の妻が妻だったのもあって、ユーゴはナディアと子を作る事はないと言った。
友人から紹介された時に既にその話はしてあったので、ナディアも否とは言わなかった。
後妻となりはするが、白い結婚である。
けれどもそれで構わなかった。
そのかわりに、ちょっとした話をした。
もし、もしいつか。
妹であるマリアがわざわざこちらに関わってきたならば。
その時は、彼女の思う通りにしてやってほしい、と。
伯爵は最初、怪訝そうな表情をしていたが、ナディアの話を聞いていくうちに納得したようだった。
「きみは、それ程までに妹を嫌っているのか」
「えぇ。大嫌いよ。……私みたいなのが後妻だと、子どもの教育に悪いかしら?」
「いいや。その程度なら可愛いものだ。
……わかった。憶えておこう」
「ありがとう」
「礼はいらない」
夫になった相手との会話は淡々としていた。
彼曰く、家族仲が悪いのは別に珍しい話ではない。
そうでなくとも、家によっては家督を継ぐために兄や姉を蹴散らそうとする弟や妹だっているくらいだ。
そういった家の足の引っ張り合いや命のやりとりと比べれば、マリアのやっている事は姉からものを奪い自尊心を満たすだけの、なんともちっぽけな事でしかない。
そう言われてしまえば、あの妹に命まで奪われなくて良かったわ、と思うばかりだ。
――結婚して数年、既にマリアは子を産んで、そうして子爵夫人として社交界に積極的に参加していると噂で聞いた。一方のナディアはというと、伯爵の子の教育に関わりつつ日々を穏やかに過ごしている。
自分の子でなくとも、自分を母と慕ってくれている。
伯爵の命は長くはない。それは既に知っていた話だ。
だから、伯爵の死後、子の後見人となってくれる相手を探していた。
妻がいなければ代理人をたてるつもりだったと言うが、それとて場合によっては悪徳な人物を雇う形となってしまったならば、子に財産が渡らないかもしれない。
実際ナディアも後妻となった事で、あの家の財産目当てだ、なんて一部からは陰で言われているのを知っている。
恥知らずにも生家であるオルベル家からは、金の無心がきたけれど、ナディアはそれを無視した。
もっともその無心は両親の独断で兄は関わっていなかったらしく、後日謝罪の手紙が届けられたが。
せめてマリアの嫁ぎ先でもあるハーヴィー子爵家だったなら兄だってマリアには色々としていた事を知っているだろうし、何も言わなかっただろうに。
マリアにばかり物を与え、ナディアの物まで奪った後で補填すらしなかった挙句、妹のお姉さまが意地悪する、の言葉を信じて糾弾するような両親を何故ナディアが助けると思うのか。
今の今まで甘やかしたマリアにこそ助けを求めればいいのに。
伯爵家の財産を考えると、確かに子爵家に頼るよりは……と思うのは無理もないとは思うけれども。
だが伯爵家の財産はあくまでも伯爵家のもので、ナディアの両親に仕送りをするのに使われるはずもない。ナディアが独断でそうする事もないのは言うまでもないだろう。
引退した両親を兄がどう扱っているかは知らない。両親がどうなろうと興味がないからだ。
だが、噂でそれとなくマリアの方は知ったのだろう。
両親が助けを求めているのに助けてあげないなんて酷い。
そんな風に友人間で噂をしている、というのが聞こえた。
けれどもその頃には、マリアの言葉が薄っぺらいものであると周囲も勘付き始めていた。
助けたいなら、自分の両親でもあるのだから貴方が手を差し伸べればいいじゃない、と言われてマリアは黙り込んでしまったのだとか。
ハーヴィー子爵家とて、資産が豊富というわけではない。
オルベル家と比べれば多少はマシ、程度だがそれだけだ。子爵家の財産からマリアの両親のために使われる予算など出る事もないだろう。
どうしても助けたいのであれば、マリアが自ら何かして、資金を作って助けるべきだ。
それでなくたって、マリアは今まで両親にたっぷりと甘やかされ、愛されてきたのだから。
もしナディアがそんな風に言ったのなら、マリアは今まで愛されなかったのだから今こそ助けてあげれば愛されるかもしれませんよ、なんて言うのかもしれない。
だがナディアは今更両親の愛なんて求めてすらいないのだ。
であればやはり両親が助けを求めるべきなのは、今まで愛し育ててきたマリアだろう。
妹に意地悪をするような姉が、助けてくれるだなんて思う方がどうかしている。
ナディアにとっては両親も妹も嫌いな存在だ。どうなろうと知った事ではない。
兄に対しては、そもそも関わる時間が短かった。だから好きだとか嫌いだとか、そんな風に思う事もないのだ。不幸になれだとか思う程でもなく――言ってしまえばどうでもいい、これが恐らく正直な気持ちだった。
願わくば二度と関わる事がなければいい、というのが本音だが、どうあっても関わるしかない時がやってきた。
社交シーズンである。
伯爵は今までのらりくらりとあまり表に出るような事はしなかったが、それでも出なければならない場というものは存在する。
だからこそ彼は妻であるナディアを伴って、領地から出て王都のタウンハウスへと移った。
同じくして、どうやらハーヴィー子爵家も移動したようだ。
そうなれば、ナディアが関わるつもりがなくとも顔を合わせる状況になるのは明らかだった。
ナディアはナディアでモルヴィア家の妻として領地に近しい家との親交を深めていた。
マリアもハーヴィー家と繋がりのある家との交流をしていたのだろう。
マリアは率先して姉が悪く思われるような言葉回しをしてナディアの評判を落とそうとしていたようだが、しかし実際に社交に出れば何もかもがマリアの思い通りに、とはならないのは言うまでもない。
むしろ姉の婚約者を寝取った女としての悪評が、じわじわと水面下で囁かれるようになっていた。
二人が愛し合っていたのはまだいい。
だが、そこで結婚するより前に子が出来てしまった、なんていう話は醜聞になる。
それを隠したところで、結婚して子供が生まれるまでの日数を考えると明らかに計算が合わなくなるのは当然で、そういった事に詳しくない相手であればまだしも、ある程度わかっている相手からすれば「あぁ、やらかしたのか」となる。
あからさまに言われたりはしなくても、それでも陰で言われているというのを知ってしまったのだろう。
だからこそ、マリアはどうにか躍起になってナディアの評判を落とそうとしていたのだ。
そうする事で、矛先を逸らそうと。
かつての男爵家――オルベル家の中だけでならそれは有効な手段であった。
しかし社交界はちっぽけな男爵家とは異なるのだ。
そんな事をしたところで、余計にマリアの周囲の目は温度を失っていくだけだというのに、マリアはそこまでを理解できていなかった。
マリアの中では思っていたよりナディアの評判が落ちなかったから、だからそのせいで自分にまでとばっちりが来ていると思っているのかもしれない。
ナディアは残念ながらマリアの考えを全て理解できているわけではないので、本当にそう思っているかまではわからないが。
ともあれ、今までは物理的な距離もあって直接顔を合わせるような事がなかったけれど、いよいよナディアとマリアが再会する時がやってきてしまった。
マリアの評判がじわじわと下がると共に、スコットもまた同じように周囲からの評判が落ちていっているせいか、どうにも最近は色々な事が上手くいっていないらしい……と噂で聞いてはいた。だからか久しぶりに見たスコットは、疲れが滲んでいたし、なんだかナディアと同じだけの年数を過ごしていたはずなのに一人だけ時間の流れが違ってしまったかのように年をとった印象だった。
きっと思い描いていた未来とは大きく異なっているのだろうな、とナディアは思う。
ただ、子どもができてしまった、とあの時言っていたのは虚言ではなかったようで、跡取りがいるのは確かだ。
その子が成長してどうにか家の悪評を払拭できれば、ハーヴィー子爵家が盛り返す可能性は普通にある。
親の事をとやかく言われる事があるかもしれないが、それでも先代のやらかしを次代がどうにかしていくというのは、貴族家では割とよくある事だ。
むしろ代替わりをしてしまった方がいい場合だってある。
ただ、そうなるまでには相当先が長いので、現状を即座にどうにかしたいと考えているのならさぞ現状が苦痛だろう。
マリアの目がナディアの隣に立つユーゴに向けられている。
スコットよりも年上だが、しかし良い感じの年の取り方をしたと思えるからか、疲れ果てた様子のスコットと比べるとユーゴの方が若々しくさえ見える。
しかもスコットと比べるのはあまりにも申し訳ないけれど、穏やかで優しそうな――言ってしまえば落ち着いた容姿のスコットと比べると、ユーゴには華やかさがあった。目立つくらいに華々しいというわけではないのだが、それでもふとした瞬間目を惹きつけられるような、そんな細やかなものではあるけれど。
しかし今のマリアの目には、その細やかなものであっても輝かんばかりに見えているのだろう。
いつもならナディアはマリアの考えている事なんてわからない。
わからない、が今ばかりはマリアの考えている事がわかってしまった。
だからこそそれとなく釘を刺した。
しかしマリアはそれをあえてわかった上で否定した。
隣にスコットがいるのだから、そう言うしかないだろう。
ナディアは理解している。
その言葉が口先だけのものであるという事を。
だが一度は形だけとはいえ忠告をしたのだ。
であれば。
後の事など知った事ではない。
ダンスをするにしても、ユーゴの体力はそうあるわけでもない。
だからこそ一曲だけ、形ばかりの夫婦としての振る舞い。踊った後はその場を離れ、知った顔を見て話に花を咲かせる。
そうしていくうちに、少し風にあたりたくて……といった様子でバルコニーへと移動する者や、一足先に帰り支度を始める者も見え始めた。
今回のパーティーの主催は公爵家だ。
城で行われるものと比べれば規模は小さいものの、それでもナディアからすれば城で催されるものと然程変わりはない。何せかつては男爵令嬢。規模が大きな催しに参加する事がなかったのである。
それがユーゴと結婚した後、それなりに場数を踏みはしたけれど、だからといってこういった場には慣れていない。
それもあってナディアはユーゴから離れて、休憩室で休む事にした。
このパーティーは夜遅くまで続く。
だから最後までずっと参加する必要はない。
途中で帰る者がいるのはつまりそういう事だ。
帰らずに、この公爵家で夜を明かす者も勿論いる。
なのでナディアが部屋を借りて休んでいても、何もおかしな事はない。
部屋にしっかりと鍵をかけて、そうして一眠りする。
起きた頃には果たしてどうなっている事やら……なんて思いながらも、やってきた眠気に身を任せた。
翌朝。
ナディアは目覚めた後部屋から出て、そうして夫であるユーゴと合流する。
彼もどうやら別の部屋で休んでいたらしく、今しがた起きたのだとか。
朝食も用意すると公爵からは言われていたが、二人はそれを断って帰る事にした。
「……かつて君が言っていた通りになった」
「そうでしたか」
「すまない」
「何も謝る事なんてありませんよ。むしろ謝るのは私の方だわ」
「いいや、君が謝る必要はどこにもない」
馬車の中での会話は思った以上に淡々としていた。
別の部屋で休んでいたユーゴに何があったか。
それは今の会話で充分に理解した。
ユーゴの二番目の妻。
ナディアの前の妻だった女は、妻の座におさまった後、別の男と浮気をしていた。
いや、本命はその中の誰かだったのかもしれない。
伯爵家の金で悠々自適な暮らしを送ろうとしていた女。
別に裕福な生活を送りたいという願いだけなら、誰だって咎めたりはしないだろう。
ただ、二番目の妻は夫となったユーゴ以外とも関係を持っていた。
結果として、その中の誰かから病を感染されたが、その事実に気付かぬままユーゴとも身体を繋げた。
気付いた時にはユーゴもまた病に感染していた。
更に生まれた子はユーゴとは似ても似つかない、肌の色さえ異なる子。
一目でわかる証拠。それを伯爵家の子などと認められるはずもない。
だからこそ二番目の妻は赤子と共に追い出された。
ユーゴが病に罹った事に気付いたのは、その後だ。
普通に生活する分には特に問題はない。
ただその病は粘膜接触や血液から感染するらしく、性的な接触はできなくなった。
血液に触れる事でも感染するリスクが高まるとなると、下手に大きな怪我はできない。
そして困った事に、この病の特効薬が存在していなかった。
ただ症状の進行を遅らせる薬はあったから、ユーゴはそれでどうにかしている。
かつての妻だった女がどうしているかはわからない。
薬は高価な物だし、女に感染させた男が誰なのかもわかっていない。
症状を遅らせるといっても、完全に止めるわけではないので緩やかに病はユーゴの身体を侵していく。
最初の妻との間の子が成人するまでに生きていられればいいが、その可能性は低かった。
だからこそ新たな妻としてナディアを受け入れた。
だが決して身体を繋げる事は許されない。
そうしてしまえば彼女まで感染してしまう。
それ故の白い結婚。
それでなくとも、一部の者にはユーゴが性病に罹った事は薄々ではあるものの知られている。
ただ、その性病がどういったものであるか、までは知られていないだけで。
ユーゴも最初はただの風邪だと思っていた。
だがその後他にも症状が現れた事で、ただの風邪ではないと思ったからこそ詳しく検査をして、そしてそれが別の病であると知る事となった。治療薬のない病という、どうしようもない状況。
二番目の妻を探し出して八つ裂きにしてやりたい気持ちも無かったとは言えない。しかし、そんな事をしても自分の病が治るわけでもないのだ。
であれば、他にやるべき事を優先するしかない。
医師が言うには、徐々に免疫力が落ちていっているので、この先風邪を引いたりするだけでも命に関わるとの事だ。それ以外でも、怪我をした場合出血量によってはすぐに治らないかもしれない、とも。
普通に触れるだけなら問題はないと言われていても、ユーゴは我が子に触れる時、一層注意するようになった。
だと言うのに――
マリアは――ナディアの妹は、あの後ナディアが離れ、自身の夫も疲れたから、と休もうとして休憩室へ向かった矢先にユーゴを誘惑してきたのだ。
ちょっといいな、と思えばナディアの物をなんでも奪ってきた女。
だからこそナディアは結婚する際言ってきた。
もしいつか、マリアが貴方を誘惑するような事をしてきたのであれば。
是非ともその誘いに乗ってほしい、と。
それは病を感染させる行為に他ならない。
かつてスコットがまだナディアの婚約者だった時だって最終的に身体を繋げて、そうやって奪ったのだ。
その上でそれが成功してしまったのだから、きっと同じような手口を使うに違いない、とナディアは思っていた。ユーゴが乗り気でないようならば、あの手この手で誘惑するだろうという、嫌な確信があった。
そんな風に言われていたから、ユーゴは少しだけ妻を気にする風を装ったのだ。
結果としてカクテルに媚薬を混ぜた物を渡してくるとは、本当に予想通り過ぎていっそ笑いが込み上げてきそうだった。
媚薬なんて何故持っているのか。
もしかして、最初からそうするつもりだったのか。
ナディアの夫が自分の夫よりもつまらない存在であればそのままで良し。しかしそうでないのなら……と事前に用意してあったのなら、なんと周到な事だろう。
ただその周到さは同時に杜撰でもある。
後になってそんなつもりはなかった、とは言えなくなるのだから。
使った時点でそのつもりでしかない。
ユーゴの病気は必ずしも感染するわけではない。ただ、性行為、もしくは血液に触れるなどしてそれが相手の体内に入った場合高確率で感染する、と医師には言われた。
マリアはもしかしたら感染していないかもしれない。けれど、媚薬を盛ってまで行為に及んだのだ。
誰かに見られたのなら決して言い逃れなどできないくらいに、何度も。
であれば、恐らくは感染している事だろう。
だがすぐさま病気になった、とは気付かないと思う。
最初はまるで風邪を引いたような感覚だった。
だからてっきり、日々の疲れが出たのだろうとユーゴも思っていたのだ。
だがその後も不調は続いて、それからだ。気付いたのは。
もしマリアがかつてスコットを奪った時のように、ユーゴの子が宿った、などと言い出したとして。
可哀そうな話だが母体が感染していた場合、赤子も感染した状態で生まれる事になりかねない。
マリアがもし、その子を伯爵家の者だからと言ったところで、跡取りにもスペアにもなれない生まれつきいずれ死に至る病を抱えた者を受け入れるわけにはいかない。それでなくとも正規の方法で結ばれたわけでもないのだから。
仮にマリアがユーゴに無理矢理襲われた、などと言い出したところで、あの時周囲にはユーゴを知る者もいた。そしてマリアがユーゴを誘惑しているのも見ていた。
なのでマリアがどれだけ自分こそが被害者だと訴えたところで、周囲の声はそれを否定する。
ユーゴを誘惑した時点で、マリアは詰んでいるのだ。
そしてそれに気付いた時には手遅れとなる。
マリアはユーゴにとってはあまり関係のない存在ではあるけれど。
今の妻の妹、という本来ならば友好的な関係を築くべき相手なのかもしれないが、しかしあれは二番目の妻と同じような女だ。
マリア本人に恨みはない、が、しかしああいった手合いのせいでユーゴは病に感染した。本人に復讐すべきであるとわかってはいるが、追い出した女がどうしているかを今更調べるつもりはユーゴにはなかった。
自分の身体の事を復讐に使おうとするナディアの事も本来なら思う部分があって然るべきだが、二番目の妻と同じような女性を野放しにしているのも気分が悪い。復讐とは違う。ただの八つ当たりと言われればそうなのだろう。
だが、ユーゴは自分から率先してマリアと関わりにいったわけではない。向こうが行動に移ったのだ。
消極的な八つ当たりにわざわざやられにきた相手に同情はできなかった。
「もし、感染していなかったらどうする?」
恐らくは感染しただろう、と思うが、それでも万が一というものはある。
「どうもしないわ。もしそうなっていたとして、いつかあの子が私に勝ち誇ったように貴方を奪った事を告げてくるようなら、その時は私も暴露するだけ」
「病気持ちの男と身体を繋げた、と後から知ったならさぞ取り乱すだろうな」
「言ってこないならそれはそれで構わないわ。内心で勝手に優越感に浸っていたとして、どうでもいいもの」
ユーゴの問う『もしも』はナディアにとってはあまり意味のない言葉だ。
マリアの事だから、いずれきっとユーゴ様と愛し合ってしまったの、なんて頭のおかしい発言をしてくるだろうな、とはナディアも思っている。ただその時には、自分とユーゴは白い結婚である事を明かし、性行為から高確率で感染する病を持っている事を告げてやればいい。
ユーゴと不貞をしておきながら、何食わぬ顔でスコットともその後行為に及んでいたのなら、マリアは知らぬうちに夫に病を感染させて……という事にもなるだろう。
だがナディアにとっては本当にどうでもいい。
あの時、ナディアではなくマリアを選んだ時点でスコットの事もどうなったって構いやしないのだ。
確かにマリアはナディアの妹だけれど、ただそれだけ。
スコットが婚約者であったナディアを捨ててまで選んだマリアが他の男と盛って、結果病気に感染していたとしても、それが貴方が選んだ女だとしか言いようがない。
マリアの教育に関してはナディアが育てたわけではないので、むしろただ姉であるからというだけでナディアに言われても困る。
ユーゴの死後、伯爵家の財産をどうするかは決めてある。
なのでユーゴが生きているうちだろうと、死んだ後であろうと、伯爵家の血を引いた子がいるだのなんだの言ったところでどうにもなりはしないのだ。
「今まで私から色々な物を奪っていったあの子が、今度は病に命を奪われる事になる。
その時が訪れるのが楽しみだわ」
そう言って笑うナディアを。
どうでもいいと言いながらも、心の奥底では全然どうでもよくないと思っているであろう、心の一部が壊れてしまった哀れな女をユーゴはただ黙って見つめていた。
もし本当にマリアが病に感染して、いずれ命を落としたとして。
その時きっと彼女は心からの笑顔を浮かべるに違いない。
ただ、それでも。
自分が死ぬときはきっと泣いて涙を流してくれるだろうな、と思うだけで。
心から悲しんでくれなくたって、それでいいと思ってしまった。
病気に関しては実在するものとは若干異なっております。
次回短編予告
とある男女の秘められし恋。
それを密やかに見守るだけだった者たちは、ある日ちょっとした行動に出た。
それが正しい事だと信じて。
次回 思い込みが暴走した後で
その恋は果たして本当に恋だったのか。




