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神々の遺伝子爆弾 旧創造主が選別した144,000人の記憶をめぐる物語  作者: 如月妙美


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第1章:選ばれた144,000人の記憶

序:崩壊した地球と最後の研究拠点

西暦2072年、連続的な核紛争と生態系崩壊により、地球はもはや“人類が暮らす”には苛酷すぎる環境と化していた。

放射能汚染、海面上昇、強毒性ウイルスの蔓延……世界人口はかろうじて数千万を切り、組織だった国家や都市は瓦礫の廃墟となっている。

とはいえ、一部の科学者や技術者が諦めずに進めていた計画があった。通称「神々の遺伝子爆弾」。彼らは最期の望みとして、世界各地から144,000人の優秀かつ協調的な遺伝子・脳スキャンを収集し、それを仮想空間へ保存する壮大な計画を立ち上げていた。これを指揮していた科学者グループは“旧創造主”と呼ばれる。

だが、文明崩壊が想定より早かったため、大半の研究者やスタッフは退避や死亡により散り散りになり、地下施設だけが放棄される形で残される。そこには膨大なサーバ群と、2体の人工培養体——ジョン・ブレイド、伊集院いずみが眠り続けていた。2人は仮想世界の再起動役として設計された存在だ。

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1. 地下施設での目覚め——ジョン・ブレイド、伊集院いずみ

時はさらに20年ほど進み、2092年頃。

地上にはわずかなサバイバルコミュニティが点在するのみ。そんな中、一つの小隊が地下施設を探索し、低温休眠カプセルを発見する。内部で眠っていたのが、**ジョン・ブレイド(22歳)と伊集院いずみ(19歳)**だ。

カプセルの外は古びたシェルター。サーバや機器がところどころ稼働しているが、保守要員は存在しない。助け起こされた2人は身体のダルさや頭痛を感じつつ、ここが自分たちの「生まれ故郷」であり、“新たな創造主”として設計されたことを徐々に知る。

•ジョン・ブレイド:北米・欧州系の遺伝子をベースに、工学・情報系のデータインターフェースが可能なよう調整。

•伊集院いずみ:アジア・中近東系の遺伝子を組み合わせ、医学・心理・芸術系のデータにアクセスしやすい特性を付与。

彼らはまだ何も分からず、自分たちがなぜ造られたのかも理解できない。ただ、周囲のコミュニティは「あなたたちが、144,000人分の遺伝子記憶を再起動できる唯一の希望だ」と強く期待を向ける。

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2. 144,000の選別基準——旧創造主の計画

施設の記録を読み解くうち、2人はこのプロジェクトの全貌に触れる。

144,000人もの遺伝子記憶が保管されている。各分野の専門家、文化的リーダー、協調性や倫理観を評価された人物……世界の叡智を集約しようとしたのだ。その基準は以下の通り。

1.健康・遺伝多様性:将来、仮想世界内で種を増やす際も含め、多彩なバックグラウンドを持つ遺伝子が必須。

2.専門技能・知識:医師や研究者、芸術家、教育者、宗教指導者など、多面的な能力を保存。

3.協調性・倫理性:極端な破壊衝動や利己主義を可能な限り排除。ただし完全除去は不可能。

4.文化・言語の保護:あらゆる地域・民族・伝統を一定数保存。

5.年齢性別バランス:もとは物理的再生を考慮して若年層多めだが、最終的には仮想空間シフトで幅広い層を採用。

旧創造主の議論ログにはこうある。「完全に善良な人間ばかりにすると多様性を失い、進化が停滞する恐れ。ある程度の挑戦者や過激思想も容認すべきだ」と。結局、144,000にはかなり多様な人物が含まれているらしい。

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3. 仮想空間の起動——前代未聞の再生計画

このサーバには「Genesisモジュール」なるソフトが走っており、そこでは地形や気象のシミュレーション、人間のアバター生成、社会モデルの構築までを包括的に行えるようになっている。莫大な演算リソースが必要だが、施設の発電設備は部分的に生きているとのこと。

ジョンは工学や情報科学の基礎をインプットするよう身体が設計されており、端末を操作してみると驚くほど直感的にサーバのコマンドにアクセスできる自分を発見する。いずみも医療や心理学的データを体内で呼び出せる感覚に気づく。これは彼らが“新たな創造主”として造られた証だ。

だが、この世界を本当に再起動してよいのか? もし144,000の記憶に潜む悪意や欲望が暴走すれば、仮想空間内で再び争いが起きるかもしれない。しかし現実の地球はほぼ死んだも同然。仮想空間こそ最後の希望と信じるコミュニティの人々に促され、2人は作業を始める。

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4. 地下シェルターの現状とコミュニティ

シェルター内には100人程度のコミュニティが暮らしているが、放射線と食糧難で衰退の一途。外界から物資を探すリスクは高いし、病気も広がっている。専門的な医師や技術者もほとんどいない。つまりここはギリギリ生き延びているだけの集団で、長期展望がない。

彼らは、仮想空間が安定稼働すれば自分たちもいつか意識を移行できるのではと期待している。身体がダメになっても、意識データとして仮想世界で生き続けられるかもしれない、と。ジョンといずみはそれを現実的に可能にする方法を探すが、旧創造主がそこまで想定していたかは不明。一から技術を再発明しないといけないだろう。

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5. データインターフェースと人格過剰摂取のリスク

ジョンはいずみと協力して「試験的に一部の記憶を読み込む」実験を行う。するとまるで脳がオーバーフローしそうになる。頭の中に他人の人生の映像が流れ込んでくる感じ。過激な戦争体験や、深い芸術的インスピレーション、あるいは複雑な言語や数理理論……その洪水に2人は一度ダウンしかける。

最初は小出しにするしかない。必要な知識だけをピックアップし、仮想空間構築に役立てる方針をとる。いきなり144,000人分をフルで受け止めたら精神崩壊する危険があるのだ。

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6. ベータ版仮想世界の初期テスト

施設のメインサーバに最低限の電力を優先投入し、ベータ版仮想世界を立ち上げる。気候や地形は簡素に設定し、合成人格もごく少数(数十~百ほど)をテスト起動。ジョンといずみはログインし、視察する。そこには草原や森、川などが再現され、少数住人が生活を始めている。

この段階で住人の人格は144,000人分の記憶の一部を合成した“試作アバター”にすぎず、それでも自発的に畑を耕す者や、調理を試みる者、宗教めいた祈りを捧げる者などが表れて興味深い。まるで短時間に人類史を圧縮したようだが、争いの火種もありそうだ。いずれ都市ができ、対立が起こるかもしれない。

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7. 合成人格の“人間らしさ”

住人に観察カメラを向けると、彼らは五感を持ち、感情的な反応を示す様子が確認できる。痛みや快楽の感覚も一応実装されているらしく、怪我をすれば苦しむし、食事を楽しむ仕組みもある。もちろん仮想空間ゆえ、物理的に食料が要るわけではないが、満腹感や味覚を脳的に再現しているのだ。

いずみは「これって本当に人間と同じなの?」と不思議がる。ジョンも「プログラムでしかないはずなのに、こんなにリアルに振る舞えるなんて……。」と驚く。 だが、保存されている144,000人の記憶が高度に合成されているなら、こうなるのも不思議ではないのかもしれない。むしろ彼らは“人間の何たるか”を極限までコピーされた生命体なのだ。

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8. 人口拡大と旧創造主が残した“Conflict Trigger”

ベータ版で数十人を安定運用できたことで、2人は人口増を決断。次々にアバターを生成し、住人が数百単位に達すると、仮想世界内で集落や自治体が形成され始める。これが人間らしい生活を送る段階に近づくのを見て、外部コミュニティは希望を見出す。「人類が滅んでも、ここに文化や歴史が続くなら…」と。

しかし、同時にサーバ内部から“Conflict Trigger”と呼ばれる仕掛けが作動し、意図的に災害や対立イベントを注入しようとするログが見つかる。旧創造主は“進化には刺激が必要”という考えから、仮想社会に定期的なカタストロフを与えたらしい。ジョンはそれを停止すべくコード解析を行うが、完全に無効化するとシステムの別部分が壊れるリスクがある。仕方なく“発動頻度”を最低限に留める設定に変更する。

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9. 外界の死とシェルターの終焉

地上との連絡が途絶え始め、食糧や医薬品の補給も断たれる。もともと限界だった生存者コミュニティは疫病で崩壊寸前。シェルター内部にも物理的老朽化の兆候が顕在化し、いつメンテナンスロボが故障してもおかしくない。

ジョンは焦る。「今後はサーバ故障が起きればすべてパーだ…。なんとか稼働を延ばす手段はないのか。」 いずみは苦い笑みを浮かべ「私たちが外に出て修理できるほど、外は甘くないでしょ? もう放射能地獄だし、私たちもそう長くは生きられない…。」

やがて2人はフルダイブを決断。自分たちの体は栄養ポッドに預け、脳をサーバと直結し、仮想世界内で“創造主”として滞在する。外部の維持作業はロボットに任せ、寿命を延ばせるだけ延ばすしかない。成功すれば仮想世界が安定発展し、人類の叡智は残る。失敗すれば一瞬で消える。まさに賭けだった。

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10. 結末に向けて——物語は続く

こうして、144,000人分の遺伝子記憶を生かした仮想社会の再構築が本格化する。ジョンといずみはフルダイブで内部に暮らし、必要ならソフト的に介入しながらも、基本的には住人の自主性を尊重する方針だ。対立や争いはあるが、多くの住人が協力し合い、医療や技術、芸術を進歩させている。

外部電源がいつ切れるか分からないが、その間に内部世界が自己完結の形を作れるかもしれない。人類史をリプレイするか、新たな未来を築けるのかは、もう2人の手を離れ、住人たちの多数の意思と行動に委ねられていく。

結末は未定。地上で生きる人間はほぼ絶滅に近い。しかしサーバが保つ限り、この仮想空間で“人間”は呼吸し、愛し、学び、争い、そしてまた学ぶ。これが“神々の遺伝子爆弾”の正体だ。滅びゆく世界で、残された最後の人類の叡智が爆発的に花開くかどうか。その答えは、この新世界の住人たちが紡ぐ時間の先にある。


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