聖女
何とか無事に昼食を終えることができた。
顔がよすぎて何度か倒れかけたのはどうか気づかれていませんように。
「じゃあ僕は行くよ」
そういって手を振るトリ様に私は手を振り返す。
去っていく背中に少し安心感を覚えた。この気持ちが気づかれる心配がなくなるからだ。
「本当にリウス様はリーユ様のことが大好きなのですね」
「そのようですね」
「以前よりも仲良くなられたようで」
「え?」
その言葉に私は驚く。トリ様はずっとこうだと思っていた。
たしかにゲームより少し過保護ではあるが、ゲーム内でもリーユのことが大好きでいつも守るために動いていた。
だから、これが普通だと思っていたのだ。
「リーユ様が倒れられる前までは少し騎士のような雰囲気でしたから」
「騎士……」
「今は兄のような雰囲気ですね」
いまいちよくわからない。が多分二度にわたって私が死に目にあったからそう変わったのであろう。
ゲーム内の雰囲気と変わらなかったし、きっと彼はリーユを愛していることに変わりはない。
私はその邪魔をしないように生きていかなければならない。この気持ちを悟られないように
「素敵なお方ですね。リウス様は」
「……そうですね。行きましょうかリーユ様」
そんな言葉しか出ず、私はメリアを困らせてしまったのだろうか。少しの無言が私の心を刺した。
それ以上踏み込んでしまえば私はリーユでいられない。隠し通すためにも遠く離れた位置から見守る私をどうか許してほしい。
そんなことを思いながら私たちは自分の部屋に戻った。
「午後からは魔法の勉強です。魔法に関しては特別な講師がいらっしゃいます」
メリアからそういって紹介されたのは紫色で長くきれいな髪をなびかせた男性だった。
「デンファレと申します。そうぞよろしくお願いいたします」
「リーユロクです。よろしくお願いいたします」
顔が引きつっていないことを切に願う。
この人は知っていた。ゲーム本編でもリーユに魔法を教える立場にいる人だ。ゲーム本編より若いのでよりきれいに見える。
この世界の魔法は旋律を奏でることで発動することができる。無詠唱は魔法の威力を落とすだけだ。
基本は魔法研究会が旋律を研究し広める。だがゲームだとリーユがヒーローのために独自の魔法を開発する。
その魔法はとても強力なものでリーユはこう呼ばれるのだ
「聖女」
「え?」
「を覚えておりますか?リーユ様」
自分が知っている単語を出されて思わず反応してしまった。それはリーユがゲーム内で呼ばれる名称だ。
だがこれを知っていればまたおかしなことになってしまう。
「いえ、覚えておりません」
「そうですか、ではお伝えしますね。先ほどメリアより花の加護が弱まることがあるという話はがあったと思いますが」
聖女は花の加護を強化できる存在である。花の加護が弱まった時その力を発揮する。自らが奏でた旋律がすべて強力な魔法となり
花の加護とともに人類を守る旋律になるというものだ。
聖女の旋律は非常に強力なものであり、聖女はその力をもって国に繁栄をもたらすのだ。
「ということです。理解しましたか?」
「あ、はい!」
「なぜ突然聖女の話をしたかといえば、聖女は全ての魔導士のあこがれであり目標です。リーユ様にはそれを目指していただきたいからです。」
そう。この男の目的はそれ。聖女を覚醒させ手聖女の力を研究することを目的としている。
ゲーム内でこの男に誘拐されるイベントがあったのだがだいぶ後のお話だし、私はこの物語を変える気はない。
だから気にしないことに決めた。まあ、自分が死なないように頑張りはするが。
「そうですか。頑張ります」
「おや、ずいぶん素直になられたのですね以前は」
「デンファレ。余計なことを言ってないで始めてください」
メリアに少し強く指摘されデンファレはそのまま魔法の指導を始めた。
何か、気を使われている気がする。まるで以前のことを意図的に話さないようにしているかのように。
これに関してはずっと感じていた。たぶん私が以前のことを全く気にしていないから怖がっているのだと思われているのだろう。
正直過去に興味がないからなのだが、気を使われるのは申し訳ない。
自分がどう生きればよいかそれがわからないまま私はこの世界を生きるのだ。
自分のすきの言う気持ちには敏感だが他人からの気持ちには鈍感な女の子。
かわいいよね。気づけよ!




