幸せになれるか
目を覚ます。
最悪な気分だ。
リーユに言った言葉が自分の中でこだまする。
周りのことを考えないのは私も同じだ。
頭を抱えているとノックの音が聞こえる
「入るぞ」
「王様」
少し困ったような顔で、それでも優しく王様は微笑んだ。
「寝ていたのかい?」
「少し気分が優れず」
「そうか。リーユ」
「はい」
「明日から通常の生活をしてもらう、失った知識についても教師が来て教えることになる。大変だと思うが頑張ってくれ」
王様が申し訳なさそうに言う。私としてもこの世界のことを知ることは必要だ。
「もちろん!精一杯励みます」
私は笑う。愛想笑いなんて久々にした。
他人の機嫌を取ろうと思うことなんて最近はしていなかったから。
そんな事したくなかった。限りある人生の中で誰かの為に気を使って自分に制限をつけるなんて。
でも今はこの人たちを悲しませたくないと、願う。
心から会いした相手に受け取って貰えないなんて寂しい思いして欲しくないから。
「気分が大丈夫であれば、一緒に夕食を取らないか?」
「マナー等覚えていないのですが」
「大丈夫。隣に侍女をつけてゆっくり教えてもらうといい」
「そういう事であれば」
私は了承する。
こんな事ならマナーをしっかり覚えておくんだったな。
王様は先に食堂に向かう。私は少し身支度をして部屋を出る。
「リーユ!気分は大丈夫か!?」
「ええ、大丈夫です」
近い。心臓が持たない。冷静になってしまうといけない。トリ様があまりにもかっこいい。見たことがない推しの姿はいつでも狂えるなと、オタクは思う。
「顔が赤いぞ。まだ体調が悪いんじゃ」
「あ、いえ!もう!元気です!」
「無理はしないでくれよリーユ」
頭を撫でられる。
片想いが目の前に現れるとこんなにしんどいのかと知らなかった感覚を得る。
この人にとって私はどうしようもなく妹で、守るべき存在で、それ以上ではない。
この愛は絶対に悟られてはならない。リーユロクとして生きるのであれば絶対だ。
好きな人がいる世界に転生しても、必ず幸せになれるのかと言われればそうではないと答える。
彼にとって私は妹で。私は彼を騙しているのだから。
そんな私が幸せを選ぶことなんて出来ないのだ。
「ここが食堂だ」
「はい」
扉が開かれればそこには豪華な料理と王様、女王様がいた。
「こうしてみんなでご飯を食べるのは久しぶりね。さあ、食べましょう」
女王様の笑顔に少し安心感を覚える。
緊張を全て解してくれるような、そんな感覚。
お母さんってこんな感じなのかな。私はよく知らないが、物語の登場人物はだいたいそうだし、きっとそうなのだろう。
用意された食事はナイフとフォークを使う典型的な洋食。
最初っからピンチだ。
私はまだ少し痺れた左手を眺める
「すまない。配慮が足りていなかったな」
王様は隣にいる従者に耳打ちする。
その人は私が食べる食事を切り分けてくれた。
これもだいぶ過保護では……とは思ったが、この愛を受け止めなければ私はあの人と同じになってしまう。そんな気がして私はそれを受け入れた。
「ありがとうございます。いただきます」
みんなが食べ始める。さすが王族、食べている所作も美しい。私これになれるのかな。まあならなくても、誰も傷つかなければそれでいいか。
「ん、これ美味しいですね」
「やはりそれが好きなんだな。それはお前の好物だ」
王様がそう笑う。そもそも別人なのでたまたまなのだろうが、それでも3人が笑って幸せそうなのが、私は嬉しい。
「変わらないものもあるんですね」
そう言って笑って見せた。3人が1番幸せになれる道を、これからも歩めますように。私が邪魔になりませんように。
その後は他愛のない話をしながらご飯を食べた。他人と食事をしたのは久しぶりで、それだけで私は楽しかった。
一日を終えて一息つく。これから始まる日常に息が詰まる。この感覚は私があの人たちの愛を受け取れるか分からないという緊張か、それとも未だにこの状況を納得できていないストレスか。分からないが今は考えても仕方がないと切り替える。
「今日はすごく寝ている気がする」
そう呟きながら私は意識を手放した。
説明パートはこちらでおしまい明日からは生活パートが始まります。




