何物にもなれない弱虫
夢見がちな少女「白姫純恋」持病の発作で亡くなってしまった。
目が覚めれば大好きな乙女ゲーム「泡沫の月華」の世界にいた!?
生前純恋が大好きだった主人公の兄「トリトリウス」もその場にいるが、
家族と過ごした記憶を失ってしまった「ユーリロク」に転生した純恋は何も知らないふりをして彼を遠ざける。
一方妹のことが大切でたまらないトリトリウスは妹を守ろうと奮闘する
そんな近くて遠いラブストーリー
「ここがどこかわかりますか?」
私は首を振る
「ご家族の顔と名前は」
答えてはいけない。この人たちは、家族ではない。
「これは何かわかりますか?」
「鳥の羽ですか?」
「そうですね。ではこれは?」
「石?」
「はいありがとうございます。ご令嬢の記憶は完全に抜け落ちております。飲んだ毒に記憶を失う魔法でも掛けられていたのかと」
「治る方法は」
「記憶操作魔法は非常に危険な魔法です。術者を見つけたとて再び記憶を取り戻すことは不可能に近いかと」
女王様が泣き崩れる。王様も苦渋を飲んだような表情だ。
そもそも術者がいないのでどうしようもない話なのだが、黙っておこう。
ふと柔らかい花の匂いが私を包む。女王様だ。女王様がやさしく私を包んでいる。
「リーユ記憶がなくなってもあなたは私たちの大好きな娘よ。」
「あ、いや、それは、ご迷惑でしょう?」
「迷惑なわけないじゃない!あなたは家族なのよ」
泣いて私にすがる女王様に私は声をかけられなかった。
だって、この愛は私への愛じゃない。
女王様、あなたの娘は死んでしまったのです。きっと、毒で。
ごめんなさい。私がお姫様なら素敵な言葉をかけられた。
私がアニメの主人公ならリーユになりきれた。
何物にも慣れない私は弱虫のくずだ。
「今日は休んで。あなたに祝福の朝日が昇ることを」
女王様は私のほほにキスをした。
私は促されるままリーユの部屋に戻った。
「これからどうしよう。どうやったら見捨ててもらえるだろうか」
いっそ冷酷な両親だったら簡単に見捨ててくれたのだろうか
私はもう必要ないと。簡単に切り捨てる合理的な王様方だったらどれほど楽だったか。
「そんな方々ならユーリはそもそも生まれてないか」
家族がやさしく、大変恵まれた存在。それがユーリロクなのだから。
思考を巡らせていればノックの音がする
「僕……トリトリウスだ」
「え!?」
「入っていいか?」
「ど、どうぞ」
扉が開かれればそこにはトリ様がいた。
美しい顔。ゲームには主人公の過去スチルがないから幼少期のことは知らなかったけど、このころから美形だったのね。
「体は、大丈夫か?」
「はい、ご心配おかけして申し訳ございません。えっと……リウス様?」
「……もう、兄さまとは、呼んでくれないのだな」
「すいません。」
こんな悲しい顔をさせたいわけではなかった。私が弱虫のせいで。
「僕があの時、あの水を自分で飲んでたら」
「え?」
「僕なんだリーユに水を渡したのは。僕が飲んでいれば、お前は……!」
「違います!自分をどうか責めないで。これは私の不手際です。きっと。そうなのです。もう私はあなたが知っている私ではありません。私はあなた方を悲しませることしかできない。あなた方の平穏な日常を壊してしまった。私は、ここにいるべき人間ではない。」
全部私がここにきてしまったせい。リーユを私が殺してしまったせい。私が入ることでリーユを殺し、ご家族を……トリ様を悲しませた。
「リーユは巻き込まれただけだ。そんなこと……誰だ!?」
トリ様が勢いよく振り返る。扉の前には一人の男がいた。先ほど私を診察した医者だ。
「ああ、すいません。いらしたのですねリウス様。薬を渡しに来たのです。記憶も戻るかも」
「ほんとか!リーユは治るのか!?」
「はい」
嘘つき。先ほど難しいと診察していたじゃないか。こいつか。リーユを殺そうとしている男は。
となると本当に水に毒が入っていたかも怪しい。薬といえばいつでもなんでも飲ませられる。
遅効性のものだった可能性もある。
まあ、どうでもいいか。殺してあげよう。リーユを。これ以上リーユの生き方を否定しないために。
「ありがとうございます。リウス様お医者様と記憶についてお話ししたいのです。どうか一度お部屋に」
「いやすぐ終わるからいい」
男は否定した。この場にほかに人はいないほうがいい。だって犯人がもろばれに……バレていいとしたら?
この男が自滅覚悟でリーユに死を、トリ様に絶望を植え付けこの家族を壊そうとしていたら?
ただでさえ、トリ様はリーユに水を渡したことでご自身を責めているのに。
これ以上、悲しまないでほしいと思うのは傲慢だろうか。
傲慢だ。最低だ。大体同じだ。ここで帰したところでリーユを一人にしたことをトリ様大変悔やまれるであろう。
なら、生きるしかない。この場だけでも。
「リウス様お逃げ下さい!この男が犯人です!」
「ッチ。気づいたか。逃がすかよ」
「リーユ!手を!」
「はい!」
トリ様に手を握られ走り出す。走るのはいつぶりだろうか。ママがまだ生きてる時だっけ。
初めての鬼ごっこで私は倒れたんだよな……なんで鬼ごっこはいつも命がけなんだ。
「大人から逃げれれると思うな」
そりゃそう。子供二人が大人から逃げられるわけがない。せめて誰かくれば。
そんなこと思う間もなく、あっけなく私たちは追いつかれる。
どうしよう、刃物は彼の手にある。
「敵襲だ!!!!誰か!!!!」
突然トリ様が声を上げる。やめてそんなことしたら刃物があなたのもとに
「このガキ!」
ダメ。その人は絶対に、ダメ。私ならいい。どうかまた傷つけることをお許しください。
「兄さま!」
とっさに私はトリ様に覆い被る。ずっと呼びたかった。許されなかった。だってこの人は私の兄ではないから。
殺させてたまるか。私の希望を、恋する相手を。絶対守る。
「いあぁあ!」
刃物は私の左肩に刺さる。痛い体がしびれていく。それでも私はこの人を守りたい。
「兄さま、ごめんなさい」
「リーユ!?おい!リーユ!」
大勢の足音が響く中私は意識を手放した。
毎度お世話になっております。
しばらくは毎日投稿できるといいなあ
ということでここで小話をひとつ
白いスミレの花言葉は乙女の死らしいですよ。




