手放したくない
その日の夕食の際の会話は覚えていない。
王も王妃もきっと私が踏み込んだから話してくれた。
それはわかっている。
私が思考実験の話を始めて、リーユのことを知りたがったから話してくれた。
わからない。この感情が一体何なのか、私は知らないのだ。
あの人たちは何をもってリーユと定義づけているのだろう。
あの人たちはなぜ私を愛そうとするのだろう。
あの人たちを傷つけないで、でも私を見てほしいなんてわがままどうして思考をよぎるのだろうか。
たくさんの思考に蝕まれながら私は意識を落としていく。
目を開ければ花畑に居た。
「久々に来たな。ここ」
私がここにいるということは元主人公もこの場所にいるはずで
会うのは一週間ぶり。
思考を整理するにはちょうどいいか
「純恋様待っておりました」
「何か用でもあったのですか?」
最後の日の記憶は最悪。夢に描いた主人公は全然違う人間で、そこに理想は存在しなかった。
「今日は純恋様にお願いがあってきたんです」
「お願い?」
「はい。生活を元に戻してください」
「は?」
思わずふざけた声が出る。
この女はいったい何を言っているのだ。
「もともとこれは私の願いより生まれた秘術、どうか戻していただきたいのです」
「なん、で」
あの時あなたは言った。飽きてしまったと、退屈だと。自分から手放したのにどうしてそんなことを言うの。
全てをあきらめていた私に希望を見せてそれですべてを奪うの
「だって全然物語と違うんだもん。誰も近くに来ない。ヒーローも現れない。苦しいだけ。私一人で苦しさに耐えるのなんていやよ。私素敵な人生を送りたいの。それにその人生の先には素敵な人生があるって知ったから」
ゲームのことだ。この先にある素敵なこと、それをリーユは望んでいる。
簡単な話だ。返せばいい。それがあの人たちの幸せになるのだから、迷うことなんかないはずなのに。
あの人たちの幸せを願うなら、言え。私は私の人生を歩むだけだ。ずっと思ってたじゃないか。
なぜか言葉が出てこない。
わかってる。
なんだかんだ御託を並べても結局私はこの人と一緒だ。
自分が幸せになりたかった。ここにいれば幸せになれるかもしれない。だからこの世界を手放したくない。
結局私はリーユと一緒で、自分が幸せになりたいから他人の幸せを犠牲にする。
だから、この言葉に私はすぐに返すことができない。
「しょうがないから少しだけ時間あげる。ちょっと一人で考えてきて」
とんっと背中を押される。
私は湖に落ちていく。思考がまとまらないまま花畑を後にした。
目が覚める。まだ夜のようだ。
「私はいったい何になりたいの」
わからない。思考を巡らせるたびにさらに奥底に沈んでいくような感覚になっていく。
心臓がうるさく響く。ドクンドクンと響く鼓動を抑えながら私は思考を巡らせる。あの人たちが愛しているのはいったい誰なのか。考えれば考えるほど心臓がうるさくなる。
これは、ちがう
「まずい……!」
私は心臓を抑える。発作だ。私はこの感覚を知っている。忘れかけていた感覚。
急いでドアを目指す。早くポトス様のところに行かなければ、私がそのまま手を伸ばす。そうすればガチャリとドアが開いた
「リーユ、夕食の時元気なかったけど大丈夫……リーユ!?どうした!?」
「リ、ウスさま、くる、しい」
突然目の前に現れたトリ様に驚きながらも私はとっさに助けを求める。
「すぐに医務室に……でもリーユを動かくのは……でも一人にするのも……よし、今ポトスを呼んでくる!ここで待っててくれ」
少し考えた後トリ様は部屋を急いで出ていった。
あのやさしさが私をまた惑わせる。
リーユ(元人格)は死ぬほどわがままお姫様でいやな奴です。
それくらいがかわいい。




