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悪役令嬢もライバルもいない乙女ゲーに転生したけど幸せになれません  作者: さしうせすいそ


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13/15

それは同じ存在といえるのか

気づけば一週間たっていた。

変わったことといえばこの世界についての基本の授業が終わり本格的に王位継承者としての授業が始まったこと。

経済学やマナーなど本当に知らないことばかり。それを学ぶのも少し楽しいと思っているので、案外私はこういうのに向いているのかもしれない。

もう一つ、分かったことがある。


「相変わらずリーユお嬢様の魔法はすごいね。素敵なリズムとメロディーで」


これが嫌味でないというなら何なのか教えてほしい。シンプルに褒めているのだろうが、音痴なのに何でそんな魔法が使えるんだという嫌味にしか聞こえない。

わかったこと。それは私の魔法についてだ。

多分これは、聖女の力なんだと思う。自らが奏でた旋律がすべて強力な魔法になる。

だからこんな音痴でもなんとかなっているのだろう。

そして多分デンファレはこれに気付いている。


「では次はこれを」

「デンファレ様。もうお時間なので」

「残念だ。ではまた明日」


私は軽くお辞儀をする。今渡されそうになったのはまだ魔法学会で発表されていない旋律のはずだ。つまり、聖女である確信が欲しくて私にこの無理難題を押し付けているということだ。

絶対されると思って学会で発表されている旋律は基本的に把握してきた。

本格的にまずいな。あとで対策を考えないと。


「メリア次って」

「今日はこれでおしまいになります。何かしたいことはございませんか?」

「では書庫に行って本を読んでもいいですか?」

「はい」


書庫にはいろんな本がある。この世界で何事もなく生き抜くには必要なことだ。

ここに来てからずっと考えている。私はここで生き抜いて何がしたいんだろうか。

リーユを突き放したのは彼女が身勝手だったからで、それは私自身も変わらなくて、どうすればいいかわからない。リーユの家族を悲しませたくない。それはずっと思っていること。でも自主的に動いてゲームのストーリーを変えて誰かの世界を変える勇気は私にはない。

自分の思考がずっとまとまらない。正直本を読むのはこんな施行から逃げたいというのもある。


「これって、思考実験の本……この世界にもあるんだ」


思考実験。思考することで行う実験。器具が必要ない実験。

哲学的な思考実験が私は好きだ。自分はどういう人間なのか理解ができるから。


「内容は基本的に一緒だなあ」


本をめくる。見たことがあるような思考実験が並ぶ。トロッコ問題、囚人のジレンマ、メアリーの部屋、テセウスの船、水槽の脳、スワンㇷ゚マン……

その内容に手が止まる。


沼地を歩いていた男が、雷に打たれて死んでしまう。ほぼ同時に同じ場所で雷と沼の化学反応で男とまったく同じ分子構造を持つ新たな男が生まれる。

沼男は男が今までやっていた行動の続きを行い、普段の生活を始める。この沼男は男と同じ存在といえるのか。


今の、私は、これをどう考える


「難しい顔して何を読んでいるのだ」

「わ!サルビア様!?」

「驚かせてしまったか」


ぬっと横から顔を出してくるサルビア王に私は思わず驚いてしまう。距離感どうなっているんだろうこの国の人たちは……ああ、もしかしてリーユが家族だからこの距離感なんだろうか。


「ん?思考実験か?難しいものを読んでいるな」

「自分がどのような考えをしているのか知る機会だと思いまして」


しれっと隣に座る王に私は少し緊張する。どうかこの緊張がばれませんように。


「スワンㇷ゚マンか。なるほどなリーユはどう思ったのだ?」

「別人だとは思います。その人が受けた思いや記録がその体にはない。思考で理解していても得られないものがあります。それに、死んでしまった人が可哀想です。自分ではないものを愛されるなど」

「そうか……私は同じだと思いたいな」


そういって王は軽く笑う。思いたいということは本当は違う?

別人だと感じても同じだと思いたい?それはどうして


「確かに思いや記録は思考での理解のみになってしまう。だが、そこに確かにその人がいるのならそれでよいと思う。亡くなった者の思考と思いを紡いでくれる存在ならば、きっとその者も喜ばれるだろう」

「その人が別の何かに成り代わっていても?」

「そうだな。それが王である私の答えだ。だからリーユ」


優しく私の頭をなでる王の目は少し寂しそうな様子だった。

なぜ、そんな目をしているのですか。


「お前はお前なんだ。何も気にする必要はない」


何度も何度も私の頭をなでる。その手が少し震えているように感じるのは私の勘違いだろうか。

スワンプマン私が一番好きな思考実験なんですよね。

よくある転生系小説を見ているとき一生考えている。これは誰なんだろうなあと。

リーユにはそんな思考を巡らせてほしくて絶対にこの話は入れたかった

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