主人公補正
「魔法にはいくつかの属性があります」
よくある設定だ。火・水・土が三原則の魔法。それとは別の属性で光・闇という属性がある。
三原則魔法は誰でも使えるが、光と闇に関しては高度な魔導士ではないと扱えない。
そして光と闇は基本的に同じ人が扱うことができない。なぜならそれは反発しあう存在だからだ。
確かリーユは光属性を使用していた。いつか扱うことになるのだからその辺は学んでおいて損はないだろう。
だが問題が一つだけある。
「ではまずは使ってみましょうか」
「は?」
思わず声が出てしまった。おかしいだろ。
この男は若くても、魔法に関することはだいぶ猪突猛進で後先考えないらしい。
「この旋律を奏でてみてください」
「えっと……」
私は戸惑う。この男が突然そんなことを言ったからではない。
私は、とても、音痴なのだ。
仕方ないだろ、病床に伏せった女に音楽なんて縁もゆかりもない。
軽く歌ったことはあるが、本当にひどいものだった。
どうしよう。歌いたくない。
「このようにやるんですよ」
デンファレはそういって旋律を奏でて見せた。
炎が舞い上がる。まるでアニメを見ているようだ。本当にきれいで美しい。
「はい、やってみて」
逆にここでひどいものを見せればあきらめるのだろうか。
よし、もうどうにでもなれ
「〰〰〰〰〰♪」
ひどい歌だと自分で思う。音程もリズムもバラバラ。
こんな旋律で魔法が使えるわけがない。
そう思ったのもつかの間大きい炎の渦が巻きあがる。
私は思わずしりもちをついてしまった。
「~~~!!」
瞬間大きな波がその渦を消す。
いったい何が起きたのか私には理解ができなかった。
「すばらしい!」
困惑していればデンファレが目をキラキラさせて私を見つめてきた。
嫌な予感がする。
「独特な旋律、リズム、魔法の強化!どれも才能がなければできないものです!あなたには才能がありますよ!」
恐ろしい主人公補正……。ただ音痴なだけだ。独特な旋律?音が取れてないだけだ。リズムも一緒。まったくどうやってリズムをとればいいのかわからない。
本当にひどい。あきらめさせるどころか、研究に火をつけてしまった。
「では次は!」
「今日はこれでおしまいです!」
メリアがデンファレを止める。正直ありがたい。
「これだけ大きな魔法を使えば魔力の消耗も激しいです。明日からは魔法制御から教えてくださいね!」
そういってデンファレを追い出す。一気に部屋が静かになったような気がする。
「お嬢様大丈夫ですか?」
「はい、少し驚いただけなので」
「明日からはもう少し抑制するよう言いつけておきます」
「あはは……」
メリアがすごく怖い顔をしているが、見なかったふりをしよう。正直歌わないで済むのであれば歌いたくない。
どうか明日はもっと平和に過ごせますように。
「少し休憩してから次に参りましょう」
メリアが笑う。その笑顔が少し怖く感じるのは、気づかないふりをしよう。
魔力の消耗が激しいとメリアは言っていたが、正直まったく疲れとかは感じない。これもチート能力なのかなあ。何事もなければいいけど。
少し休憩したのち私たちは別の部屋に向かった。
「次はこちらです」
「ここって医務室ですよね?次は体力に関してでは」
「はい。そのために必要になります。」
私は首をかしげるが、メリアは気にせず中に入る。訳も分からないまま私もそのまま一緒に中に入る。
「お嬢様。元気そうで何よりです」
そこにはこの間のお医者さんがいた。安心できる笑顔で落ち着く声でそう語りかけてくれる。
「申し遅れましたこの度王族専属の医師となりました。ポトスと申します」
「よろしくお願いいたします。」
丁寧なあいさつに私は一瞬戸惑いながらも返事をする。
こういうかしこまったものになれるのも時間がかかるだろうと感じる。
「お嬢様にはまず自身のお体について知っていただきたく思います」
「私の体について?」
「お嬢様左手を挙げていただきますか?」
ポトス様にそう言われ私は手を挙げる。が、途中で止まってしまう。
肩に痛みが走ったのだ。自分の体。この傷についてということか。
「これ、治らないということですか?」
「いや、絶対にというわけではありません。ただ、先日言った通り後遺症のようなものは残ります。今まで通りというわけにはいかないということをご承知おきください」
転生したとしても私はまた不便な生活を強いられるのかと思うと少し嫌気がさす。
「それとお嬢様にはもう一つ」
「何でしょうか?」
「刺されたナイフには闇属性の魔力が込められておりました。それがあなたの中で暴れまわる可能性があります。」
「暴れまわるとは具体的には……」
「闇の魔力は適正者でないと最悪死に至ります。お嬢様に関しましては一部ですので、軽い発作程度かとは思いますが注意するに越したことはないかと」
私は頭を抱える。あの苦しみがまた私の世界をむしばむのか。本当に嫌気がさすな。
強く握りしめたそのこぶしが誰にも見られていないことを願う。
裏切り者と分かっていてもそれを拒否しないのは本当にやさしさかな?




