記憶を失った主人公
「お嬢様!お目覚めになりましたか!」
「お嬢様!」
「すぐに国王様方に報告を」
「お嬢様!ご体調は!」
従者と思わしき人々がせわしなく行き来する。
お嬢様と呼ばれた私はつい口に出す。
「どちら様ですか?」
私はこの言葉を後に死ぬほど後悔するのである。
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死んだら何もない。天国や地獄ましてや転生などあるわけがない。
それが病弱な私が導き出した答えだった。
「今回の転生物もよかったなあ」
私白姫純恋は転生物の純情恋愛アニメと乙女ゲームが大好きな病弱な女の子だった。
「やっぱり転生物は外れなしね。悪役令嬢やライバルになるのってすごくかっこいい!……けど」
それでも私は、主人公が好きだった。恋愛して結ばれて美しい物語になるお姫様。
女の子のあこがれが私は好きだ。
「そう思うでしょトリ様?」
トリトリウス・ナスタチウム
私が一番はまっている乙女ゲーム「泡沫の月華」に出てくる主人公の義兄。
非攻略対象だ。だが私はこのキャラが大好きなのである。
いつも妹のことを思い、誰よりも強い彼が大好きだ。
誰とも恋仲にならない主人公エンドでしか見れない唯一のスチルが本当に良い。
「私も転生してトリ様に合えたらなあ……無理か、あの世界に悪役令嬢はいないし、死んだって無になる……だけ」
咳き込み胸を抑える。いつもの発作。苦しい。最悪。でもいつものこと。これを背負って私は生きていく。そう思いながら眠りについた。
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「お嬢様!お目覚めになりましたか!」
目が覚めれば知らない人が目の前にいた。いつものベットの上じゃない。
パパでもなければ看護師さんでもお医者さんでもない。
せわしなく動くその人たちに向かい私はつい口に出してしまった。
「どちら様ですか?」
がしゃり。何かが落ちる音がする。
そちらを見れば見覚えのある顔があった。
「リーユ……?覚えていないのか……?」
紅い髪に緑の瞳。妹に向けるその瞳は何よりも美しい。大好きな男性トリトリウスだ。リーユのために用意したであろう水が床を満たす。
トリ様はどうしてそのような顔をしているんですか?
いや、というより今私のことをリーユと呼んだ?
まさか私は……転生してしまった!?
「えっと……」
今更トリ様だけわかります~なんてこと言ったら逆におかしいよね?
大体あのゲーム基本は学園ものだから使用人の顔どころか親の顔もわかんないのよ!?
なんでリーユの今までの記憶がないのよ。
あれ、そうだリーユは?本物のリーユの精神はどこへ行ったの。なんで何も覚えていないの。
「兄さまだお前の。覚えていないか!?お前は毒を」
「リウス様!」
使用人に言葉をさえぎられる。そういえば主人公は8歳の時毒を盛られて倒れたことがあったっけ。そこから不運に見舞われるようになった。
今はその時だというの!?あのゲームあんまり人気じゃないから設定集も続編もないし主人公の過去もあんまり語られないしでぜんっぜん情報がないのよね。
いったいこの状況でどうしろと
「リーユ!目が覚めたのか!」
「国王様!」
「大丈夫か!?体に変わりはないか!?」
優しい。あたたかい。でも、ちがう。この心配は私に向けてでは、ない。甘えてはいけない。
あなたたちに大事にされる人間ではないと。証明しなければ。だって、私はリーユではないのだから。
「どちら様ですか?リーユとは?」
「は」
「どうやらリーユ様は記憶を失われているようで」
「えっと、王様?とそちらはご子息様?ですか?すいません存じ上げない無礼をお許しください。」
ごめんねリーユ。あなたの大好きな家族を傷つけることを許して。
それでも、私はあなたを取り繕ってまでこの家族でいるのは許されないわ。
「リーユ、リーユロク愛するお前の名だ。私は父だ。そこにいるリウスはお前の兄だ。母もいる。なにも覚えていないのか?」
「申し訳ありません。その名もあなた方も心当たりは、ありません」
「医者を連れてまいります。国王様どうかお気をたしかに」
泣きそうな彼らに私は声をかけることもできない。
それは、私には許されない。この世界を壊してしまったのだから。
転生物のアニメを見てよく思っていた。元の世界を壊してまで手に入れる幸せはどんなものなのかと。
今までの彼女らはどこに行ってしまったのかと。
私はただの人間で世界を壊す覚悟なんかどこにも……ない。
はじめまして!
異世界転生、両肩思いが好きすぎて書き始めました。
ゲーム本編が始まるのはだいぶ後です。
しばらくはリーユとリウスの兄妹愛をお楽しみください。




