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巡り合うは薄氷の湖  作者: 宇和マチカ


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8/10

花は踏み砕かれる

お読み頂き有難う御座います。

 薄く日が差し込む朝。独り、走り出す影があった。

 影……アマンナは塀を越えられたなら楽勝だと思っていたが、それも館の周り、ほんの最初だけだった。


 塀を越えて少し歩いただけで、物凄い豪雪が司会を塞ぎすぐ先の前が見えない。

 一足踏みしめることに、枝から雪がバサバサと落ちて頭に積もり、目に入る。


 ジャクランに強請って手に入れた白い毛皮の防寒着に多少厚手のショールに上着と厚手のワンピースだけ。雪に向かない王都で買った薄い手袋と見た目だけ派手な靴は、雪で濡れて水が滲みていた。


「さ、寒い……寒い……」


 あまりに寒く、途中振り返って戻ろうとしたが、細い道があるだけで、辺境伯の館が何処にあるのか分からない。


 抜け出したの分かってるなら早く迎えに来てくれたら良いのに! と勝手に抜け出してきたにも関わらず、アマンナは憤慨していた。


 だが、そんな彼女の耳に水の流れる音が聞こえる。

 どうやら、雪解け水が湖に流れ出ているのかもしれない。水の音を追いかければ辿り着けるかもしれない。愛する最推しが、アマンナを今か今かと待っているに違いない。そんな都合のいい妄想が彼女の足に力を与えた。


「頑張らなきゃ。最推しに……彼に……エーリクに会うの!」


 懐には、便箋と携帯型の筆記具が入っている。あの船を交わすイベントの為だけに。

 しかし、肝心の湖を渡る方法を携えずにアマンナは急いだ。


「見える……。見えるわ。『おとめげーむのイベントポイント』が。

 早く『イベント』こなさなきゃ。祝福の光が見える。旗を掲げている……」


 何時も夢に見る光景が、何故か眼前に映る。苦労して湖を渡り、湖の真ん中に咲く薄氷の花を手に入れた金髪の少女を抱きしめる、儚くも美しい美貌の青年が。

 アマンナは起きていた筈だ。しかし、夢がくっきりと見えている。

 雪に埋もれた石や枝に躓きながらも、足を動かした。

 まるで、夢に導かれるように。


「……あ、迷惑リボンさんだわ。嘘でしょ、本当にいたのね」


 必死に歩く彼女の耳に、ポツリと声が聴こえた。


「……! ここ……!」


 アマンナが辺りを見回すと、足元でカシリ、と氷が鳴る音がした。

 何時の間にか周りには木々が無い。ずっと陰鬱に雪を落とし、常に頭上を烟るように覆い被さっていたのに。


「……え」


 アマンナは、何時の間にか氷の上に居た。

 それも、だだっ広いと言って良い程の……大きな大きな氷の上。


 湖に張った氷の上に、アマンナは居た。


「本当に氷の上に乗るなんて……悪運が強いのね」

「ジャクリーヌ、危ないから近付くなよ」

「分かったから。少し苦しいわよ」


 さっきの女の声は知らなかったが、ジャクランの妹の声だ。

 目を凝らすと、少し遠くに人影が見える。その姿を見て、アマンナは驚愕した。


「……何で!!」

「は?」

「何で、何でよ!

 アンタみたいなモブ女が、何でエーリクにくっついてるのよ!!」


 人影は3人。金髪の女と、ジャクランの妹。そして、アマンナが必死に探していたエーリク(さいおし)が氷上のアマンナを眺めていたのだった。

 光の加減で目の色が青いかどうかは分からなかったが、透けるような肌、白い髪は間違いない。

 遠目でも端正な顔が見て取れるし、背の高いスラッとした姿も、先程耳にした声も、アマンナの夢見た最推しに違いなかった。


 しかし何故か、『エーリク』は妹を包むように抱きしめている。あのイジワルな妹を。

 その腕はアマンナを抱きしめる為に有る筈なのに。

 そんな身勝手な考えに支配され、アマンナの頭は煮えくり返っていた。


「え、エーリク……?」

「え、エーリクって……言うに事欠いて、ええ?」


 しかし、陸上の3人は怪訝な声を出している。それが、またアマンナの神経を逆撫でした。


「其処から退きなさいよブス! 不細工なイジワル女!」


 悔しくて腹立たしい思いの丈をアマンナが叫ぶと、冷ややかな反応が返ってきた。


「誰がブスだと? 自己紹介かよ、ふざけんな。

 なあ俺のジャクリーヌ。あの外来雑草、早く氷割って落とそうぜ」

「コーエン様、賛成致しますわ。でも此処は未だ氷が厚いですから石でも投げます?」

「でも、湖の汚染に繋がるしねえ」

「離れなさいよおお!」


 アマンナが地団駄を踏む度にバリ、と氷の砕ける音がする。

 しかし靴に何か刺さったのか、右足の裏が痛みを訴えるので下を見ると、足元の氷が赤い。

 靴から血が滲んで、氷へ流れ出していた。

 アマンナが踏んだのは……硬く薄く凍った氷の破片だった。

 花のように固まっていた薄い氷は、アマンナに踏み躙られ、血に染まっていたのだ。


「あら、見てジャクリーヌ。彼女の足元。

 見たかったらしい薄氷の……『銀皮の花』を踏んでますわ。あのリボン雑草さん」

「最早呼び名が無茶苦茶ね」


 どうやらアマンナは、『イベントアイテム』の『薄氷の花』を踏み砕いていたようだ。

 コレを携えて、エーリクの下へ、対岸に渡らねば『イベント失敗』なのに。

 どうしよう。

 急に不安で仕方なくて、アマンナの体温はみるみる内に下がっていった。


「それと貴女」

「何よ!」

「何故、ヴォイッシュ辺境伯(おとうさま)のお名前でコーエンを呼ぶの?」

「え」


 思わぬジャクリーヌの言葉に、呆気にとられたアマンナは動こうとした。しかし、花を踏んだ足底、そして足全体に激痛が走る。

 足を動かそうとしても、何故か縫い留められたように動かなかった。





アマンナは乙女ゲーム電波ののお導きのままに、イベントスポット?へ辿り着けはしました。


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