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巡り合うは薄氷の湖  作者: 宇和マチカ


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6/10

イベントの一つに過ぎないのに

お読み頂き有難う御座います。


「はらたつううう! あの妹、イジワルすぎいいい!」


 別邸に連れ帰られたアマンナは、イライラしていた。

 しかし、隣でオロオロするジャクランに当たり散らす訳にはいかない。

 彼には、何かと他にも役立って貰わないといけないのだ。

 なんとか誤魔化して、充てがわれた部屋に入る。物を壊してスカッとしようにも、質素過ぎて全く壊せそうな物がなかった。床を踏み鳴らすしか無さそうだが、ジャクランにバレるので耐えるしかない。可憐な乙女としての振る舞い(出来ていない)も、ボロボロだった。


「最推しとのイベント……! このままじゃ、発生しない……」


 学校に入る前。

 何時しか、アマンナの頭の中には不思議な、それでいて見たこともないくらい美しい光景が見えるようになっていた。劇のように、場所や時間、場面を変えてそれが寝る度に繰り広げられる。


 それは、アマンナと似たような金髪の少女が、王都の学校に入り、高貴で顔のいい少年達を次々と魅了して、華やかに楽しく過ごす話だった。

 それは、『おとめげーむの愛されヒロイン』だそうだ。


 甘やかしてくれていた親が急に亡くなり、叔父が乗り込んできたと思ったら家の中を滅茶苦茶にしてしまった。

 先ず、お出かけで見初めた可愛いアクセサリーやドレス、可愛い家具や、可愛い物をたっぷり届けて貰う筈だったのにそれも全てキャンセルされた。家の中の荷物も無くなって、スカスカにされた。

 親の葬式をしてくれただけは感謝しているが、それ以外はウザくて堪らない。


 可哀想っ、わたし!

 わたしって、『おとめげーむのドアマットヒロイン』なんだわ。

 美しくも哀れな境遇なのに、懸命に努力して、きらびやかな貴公子に、あわよくば異国の王子様に見初められる最高な役どころ!


 不思議な映像の中に混じっていた言葉は、容易く甘く脳裏に染みていった。

 その分、都合の悪い事はゴソッと頭から抜け出している。


 それから、アマンナは多少叔父に媚び諂い王都の学校に通えることとなった。

 具体的な数値は勿論見えないけれど、勉強もオシャレも頑張って『パラメータ』だって上げた筈。本人はそう信じ込んでいる。


 それにしてもみんなステキ、誰にしようかなっ。

 学校で見たのは、田舎では見られない美男ばかりだった。

 彼らからもモテたから、いっぱいプレゼントも貰えたし。

 アマンナはそう欲望のまま、お菓子を選ぶかのように、楽しんでいた。


 でも、あの少年がいない。

 透けるような銀髪の、触れたら壊れてしまいそうな儚い瞳の、氷の色の少年がいない。


 そのイベントは、凍りつくような寒さの中美しい少年に出会う。

 彼と国境の薄氷の湖で、手紙を載せた船を交わすのだ。

 彼は実は精霊で、ヒロインの愛情を試してくる。


 凍った湖を渡る方法を乗り越えれば、美しい少年との『イベント』が成功し、氷の精霊の力に祝福されて隣国で『ハッピーエンド』が叶うのだ。

『ハッピーエンド』が何かは分からないが、ステキな部屋で贅沢で可愛らしいドレスを着た金髪の少女がアマンナなのだ。

 彼女はそう信じてやまない。


 ジャクランは……あの少年に色味は似ているが、ヘタレで勉強の出来る馬鹿だから、全然違う。

 単にイベントへ連れて行ってくれるだけの乗り物要員でしかない。


 しかし、イベントにいた『妹』は『ヒントをくれる都合のいい存在』の筈なのに。

 優しくて、外套や色んな物をくれて、薄氷の湖の途中案内までしてくれる、便利な小間使い役の筈なのに。


 夢とは全然違うし、妹の傍に居る犬も怖い、ジャクランは大して役に立たない……。アマンナの本人的には完璧な計画は散々だった。

 しかし、彼女は諦めない。無駄な程に諦めが悪かった。

『ヒロイン』としての勘が有れば、薄氷の湖へ辿り着けるに違いない。都合よくそう考えたからだ。


「どーやって、今度は行こうかなっ」


 因みにアマンナは、豪雪の中見知らぬ土地を彷徨く危険も、薄氷が張った湖を沈まずに渡る方法も知らない。折角通わせて貰った学校に通っている内に調べてもいない。


 せいぜい軽く風邪を引くとか、綺麗に治る程度に皮膚を薄く切るとか、その程度の覚悟しか無かった。



アマンナは電波系ヒロイン(本当に受信した系)のようです。

巫女とかお告げ系職がピッタリだったかもしれないですね。内容が役立ちませんけど。

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