申開きは嘘だらけ
お読み頂き有難う御座います。
「それで、何故雪に埋もれると分かっていて、屋敷から出したのですか?」
まあ埋もれつつも、塀を登ってましたけどね。
バカ兄はあの女の看病を、とか馬鹿で無駄なことを言ったそうですわ。
勿論、申開きの為、本邸にバカ兄のみ呼び寄せました。
はあ、身包み剥いで追い出したい……。いえ、王都で稼がせて馬車の内装で拵えた負債を返させないと……。
「これには理由が」
「グルルルルゥ……」
「え。あ、ジャクリーヌ、こ、コーエンを下げ……」
「ウゥ!」
「びょっ! な、何でもない……」
まあ、あの迷惑女の思惑なんてバレバレなんですけれどね。
それにしても薄氷の湖に何の用があるのかしら。
雪が積もっているから、景色を眺めつつ滑って即死する氷水にハマりたいとか?
あー、あんなの放置しとけばいいのにー。山の糧になればいいのにー。
それにしても、お父様が居ないから私がバカ兄の弁明を聞く羽目になってるのは何故でしょうね。跡取り娘だからですね。こういう些細な家内揉め事の差配に慣れろとー。
ですわよねー。嫌ですわねー。
「健気な話なんだ! あの悪徳な叔父からの手紙が来たから、思わず飛び出したんだよ!」
意味が分からないんですが。
余所様の家から捜索隊(10人もです!)まで出させておいて、一体何がどう健気なんでしょう。
家族だからと甘え、言いたいことしか言わない戯けた口を開かせる為、コーエンに少し牙を剥かせつつ。
はあ、脅されないと喋らないなんて情けない。
捕虜か何かなのかしら。
「つまり、虐待していた設定の叔父からの謝罪の手紙を受け取った? と」
「そうだ!」
何故に。
そもそも、何処に行くか知らせてもいないでしょうに、別邸に手紙なんて届くわけないでしょうが。
大体、この雪で街道閉鎖されているのに王都から素早く物が届いたら奇跡ですわ。
仮に万が一届いても、家を潰しかけて助けてくれた上、学費を出してくださった叔父様に平に平に謝るべきなのは、迷惑女の方では?
そもそも薄氷の湖へ物見遊山の話はどうなったのです。どちらも作り話なのかしら。
でも、薄氷の湖の件をバカ兄は知らないようですね。
気軽に連れて行け、と持ちかけたらいけないという空気は感じているのかしら。
狡い女ね……。
「だから何です。我が家の使用人を雪中へ態々探しに行かせた理由になりません」
「だから、慈悲あるアマンナは許す為に此処を抜け出そうとして」
何が慈悲なのか、意味が分からないのですが。
まあ勿論、財産をスカスカにした姪に辛く当たるお気持ちはよく分かりますけれど。
ええ、あの迷惑女は浪費家ですわ。馬車の改造費を見せられた此方としては、叔父様と熱い握手を交わせそうですわよ。
色々有るけれど、座席にリボンを飾るな!
「何故、そんなものが我が家に持ち込まれたのですか?」
「し、知らない侍女が、お小遣いを貰ってと」
「小銭を握らされて融通した? と。若い女ですか?」
「多分……」
この冬季に知らない侍女が潜り込める程、我が家はスカスカでは無いのですけれど。別邸の世話に置いている使用人は3人で、年配の女性使用人以外男性のみですし。
「では、その不審者を探し出し、その首を切りましょう」
「はあ!? く、クビ!? ええと、あ、辞めさせるってことか? 大袈裟じゃ……」
「いえ、免職ではなく実際の首を切るのです。当たり前でしょう?
指示に従わず、好き勝手に動く使用人のせいで、我が家が軽く見られるのですよ」
「待ってえっ! わたしの為に争わないでっ!」
突っ込みどころしかない大声と、ドアをドカドカ叩く雑音が聞こえますわね。
……滅茶苦茶元気じゃないの。生き生きしているあの女の首を刎ねたいわぁ……。
勿論ウチの使用人は勝手に部屋に通す訳がありませんから、ドアは固く閉じられています。
「なんて優しいんだ、アマンナ……。
そうだ、残酷だろ」
バカ兄が、都合よく話を繋げているようですけれど。
まあ、もうどうでも良いですわ。
「残酷? 可哀想?
仮にウチに雇われていたなら、主人以外の命に従ったのが問題です。当然では?
その使用人があの女に感けている間、他の者が業務で割を食ったとは考えないのですか?」
「そ、それは……」
と言うか今朝業務妨害しましたしね。
「もしかして、その若い侍女とやらの案内で我が家を害する不審者が入り込んだらどうするのですか」
まあ、顔見知り以外の侵入者は撃ち殺しますけれど。
「な、何も無くて良かったじゃ……ぶぇっ!」
「グルルルッ!」
「は? 何も無くて良かった?
肝を冷やして怯えた、家族の事を考えないのですか?
成程。女だけが大事で、家族の事なんてどうでも良いのですね」
「違うわっ! ジャクランは家族思いで……わたし、叔父さんにに今までのことを謝ってほしいだけなのっ」
ええー、未だ廊下にいるの、あの女……。
喋らないといけないの、嫌だわー。
「つまり、彼女の叔父様は彼女の意のままに振る舞えというのね。
今まで己を虐待してきた男に、謝れと命じるのね。
成程。
我がヴォイッシュ家の威光を借りて、脅すのね」
「そ、そんな……。え、何で? 妹って、こんなにひどい人なの?」
また廊下から雑音が……。どちらが酷いのやら。この茶番に付き合って差し上げている私の、何が酷いのよ。
「……貴女、評判で伺った父親そっくりではないかしら。お金遣いの荒い、傲慢なお方!」
「ち、違うわ! お父様は……騙されたのよ! 家族思いにはちょっとお金がかかるのっ!」
ちょっとじゃないでしょうが。祖先のコツコツ貯めた遺産を馬鹿な兄であるあの女の父親が殆ど食い潰したと聞いたわよ。
立て直したあの女の叔父君もお気の毒に。
「謝らせて、正しき方向へ導いて心を救いたいだけなのっ!」
「貴女、神職か何か? お兄様、貴女のアマンナ嬢はもうすっかりお元気なようよ。
即座に王都へ帰られては?」
「あ、アマンナ……! べ、別邸に戻ろう」
はあ、やっと出ていったわ。
いい歳をした中年男が、小娘に膝を折るだなんて無いのよ。
そもそも嘘ですし。
取り敢えず、あの迷惑女の思惑は何なのかしら。
四の五の言わず、叩き出したいわ……。
魔改造された馬車は、ピンクのリボンで飾られていたそうです。




