手紙を出すのが遅すぎる
お読み頂き有難う御座います。
ごきげんよう。私はジャクリーヌ・ジリン・ヴォイッシュ辺境伯令嬢です。今年17になります。
我がヴォイッシュ辺境伯家は、隣国との境に位置しております。
ですから有事が多い多い。
小競り合いから戦争寸前まで大変なんですのよ。オマケに北にありますから、作物も限られてますし。
領民は大体牧畜や猟や織物業、それと夏の間に収穫した野草で香水の作成を生業としていますわね。
贅沢を言えば、少しは鉱山でもあればねえ…。まあ、そんな物が見つかるとなっては、また隣国が躍起になって攻めてくるんでしょうけれど。
そう言えば、一応我が家には兄がおります。
狩りも不得手、剣も銃も不得手。それなら家内を差配する書類仕事も不得手。それならば織物……は糸くずのみを生産するという不器用さ。草も毟れない。
出来ないなら出来ないで粘ればいいものを、短気ですぐ音を上げる男です。
有り体に物凄く役立たないので、跡継ぎの座は私に決まってしまいました。今年の秋にね……。
とてもとてもとても迷惑ですわ。
顔だけは王都で持て囃されたようですが、中身は一方向しか見えない夢見がちな男です。
この辺りなら、普通に埋没するような面構えなのですがね。
で、せめて何か学んでこいと父が王都にやったのですが……。
驚いたことに、成績は悪くなかったようです。
しかし、其処で厄介を拾っていたようですね。
しかも、冬の休暇を王都で過ごしていればいいものをその厄介者を連れてきたのです。
せめて事前に許可を取るとか、出来ないのでしょうか。
二日前に家に着いた手紙は、嫁を連れてくる等と訳の分からない文面でした。お父様は苦虫を口いっぱい噛み締めておられましたわ。
別に兄が野辺の花やら虫とでも結婚しようが、構わないのです。お父様は兄を王都の適当な文官にでもして縁を切り、放逐なさろうとお考えでありましたから。
まあ、相手のことは一応は調べましたよ。
「跡継ぎ様が今帰ったぞ!」
「こんにちはー! わたし、アマンナ・ポヨーンでーっす! ヨロシクねっ!」
とある昼過ぎ。
食堂に向かおうとした私が二階を歩いていると、けたたましい声が響き渡りました。
使用人も眉根を寄せて顔を顰めています。
えーと。
この厳寒の冬季に帽子も被らず、派手なリボンを金髪の左右に付けてペラペラの屋内用ピンクのコート着用者は……。
叔父に家を乗っ取られて虐げられていた悲劇の少女でしたっけ。
どれだけ馬車の防寒にお金を掛けたのです。このバカ兄は。
単騎駆けで帰ってこいと言いたいところです。
叔父の乗っ取りだなんて強い言葉で非難していましたが、この女があまりにアホ……いえ出来損ないだから仕方なくかの方も手を貸したのでは?
ポヨーン男爵の領地の方も、一時期はいい加減でガタガタだったそうですが、弟君に代替わりされたら堅実になったそうですし。
……兄の手紙はガセネタですわよね、やっぱり。
ですわよねー。
「あ、あのこ妹ちゃん? キレイな銀髪ね!
仲良くしようね! おリボンあげる!」
仲良くしたくないですし、要らないですし。
滅茶苦茶したくありませんわ。後、この女は私より歳下です。
「ウゥー」
「あ、ワンちゃん! モフらせ……きゃっ!」
「ガウッ」
許可もないのにズカズカ階段を上がってこようとしたので、足元に控えるコーエンが威嚇の為吠えました。
余所様の犬に許可もなく触るな、というマナーすらないとは……。
「白くてふわふわ……。大丈夫よ? わたし優しいわ。怖くないからね」
「コーエンは気難しいけど、きっとアマンナを気に入るさ」
あ、駄目だ。早く放逐しよう。
そんな空気が漂うのも気付かず眼の前の二人はベタベタとするのでした。
因みにお父様は居ません。
私も迎える気は有りませんでしたし、僅かな良識の芽生えへの期待は失せました。
まだグダグダガタガタ言っていたので、敷地内の別邸へ放り込みました。
玄関の鍵、お父様に相談して変えようかしら。
コーエンは白い毛足の長い雪国犬イメージです。
何時の間にか住み着いて、ジャクリーヌに常に付きまと……従っています。




