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第8話 情美とデート?

 陽介から受けた解説を踏まえ、光属性を手に入れるべく俺は情美と一緒に繁華街の駅前へと来ていた。


「人がいっぱいで気持ち悪い。吐きそう」

「大丈夫かよお前?」


 長く友人をやっているが、一緒に繁華街へ来たのなんて初めてだ。俺も情美も引き籠り体質なので、遊ぶときはいつも俺の家か近所のネカフェだったし。


「大丈夫。夜斗に借りを返すためにがんばる。嘔吐物を吐きかけちゃったらごめん」

「なんで吐きかける前提なんだよ……。ビニール袋に吐け」

「ビニール袋に吐いた嘔吐物をぶっかけちゃったらごめん」

「なにそれ嫌がらせ? てか人ごみくらいで吐くなよ」

「吐かぬなら、吐かせてみよう嘔吐物」

「吐くなっつってんのっ!」


 もう2度とこいつとこんなところに来ないからな。


「じゃあさっそく解説にあったひとつ目を実行してみるか」

「うん」


 知らない人に話かける。

 これがまず光属性を手に入れる第一歩だ。


「じゃあ行ってらっしゃい」

「行ってらっしゃいって……」


 人は嫌というほどたくさんいる。

 しかし話しかけに行く勇気は無い。


「な、なんか手伝ってくれよ」

「そうしたいけどなにしたらいいんだろう?」

「お前がまず誰かに話しかけてきてくれよ。お前を切っ掛けにして俺もその人に話しかけてみるからさ」

「わ、わたしが……」


 とは言えこいつも俺とおんなじ陰キャだ。

 こいつは俺以上に知らない人と話すのは苦手だから無理かな。


「よ、よし、じゃあわたしが先に行く。うおおおお。一億総玉砕。バンザイ突撃、行きます」

「いや、意気込みが大袈裟すぎる」


 話しかける相手を定めたのか、情美は中年サラリーマン風男性のほうへまっすぐ歩いて行く。


「あ、ああ、あのっ!」

「えっ?」


 声をかけられた男性が情美のほうを向く。

 知らない人だ。当然、相手は不思議そうな表情だった。


「えーっとあの……なにか?」

「あ、あのあのあのあのあのののののののっ!!!」

「えっ? えっ?」

「あのおおおおおおおええええええっ!!!」

「うわああっ!?」

「あいつ本当に吐きやがったっ!」


 幸い、ビニール袋を持たせていたので地面は汚していない。

 しかし男性は驚いたのか離れて行った。


「お前、大丈夫かよっ?」


 ゲロゲロとビニール袋に吐いている情美の背をさする。


「……だ、大丈夫。朝食べた分を吐いたから、これで昼は2倍食べられる」

「いや、そんなことは聞いてねーよ」


 ともかくと、俺は情美を連れてこの場を離れた。


「はあ……吐いたよ。吐き尽きたぜ。空っぽになるまでな」

「名台詞を汚すのやめてくんない?」


 吐いたゲロを駅のトイレで処理した俺たちは、ラーメン屋へと入って落ち着く。


 食わせたらまた吐くんじゃなかろうか?

 そんな心配をする俺だが、止める間も無くすでに情美はラーメンをすすっていた。


「また吐くかもしれないからあんまり食うなよな」

「吐いたらまた食べればいい」

「そういうことじゃねーよ」

「それよりも知らない人に話しかけるってのはまだハードルが高いね。先に別のやつをやろうか」

「そうだな」


 また吐かれても嫌だし。


「じゃあ次はなんだっけ?」

「流行りの音楽を聴く」

「ああ」


 それなら簡単だ。


 ということでラーメンを食い終えた俺たちは、繁華街にある大手のCD屋へとやって来る。ここに来ればなんか流行りの陽キャ音楽がすぐに聴けるだろう。


「これ、なんかランキングで1位みたい」

「へーどれどれ」


 ぶら下げてあるヘッドホンで歌を聴いてみる。


「……うーん」


 良いんだかなんだか俺には判断できない。

 しかしこれを聴くのが陽キャなのだろう。


「どう?」

「あんまりよくわからない」

「夜斗は陽キャ力が低い。よろしい。陽キャ力53万のわたしが聴いて曲の良さを説明してあげましょう」

「その言い方が陰キャっぽい」


 ヘッドホンを渡すと情美は音楽を聴き始める。


「ほう……ほう……へえ」


 するとなんかわかってるのか、情美はふんふんほうほう言いながら音楽を聴く。やがて小刻みに身体を揺すってダンスのような動きも見せ始めた。


 まさか人ゴミで知らない人に話しかけただけで吐くようなド陰キャ女が、陽キャ音楽を理解してリズムに乗っているというのか?


 しかし外見だけなら並みの陽キャが裸足で逃げ出すくらいには優れている。

 もしかしたら陽キャ音楽を聴いたことで、陽キャの才能に目覚めたのかも?


 そんな風に思う俺の前で、情美はヘッドホンを外す。


「どうだった?」


 俺の問いに情美はフッと笑い、


「再生ボタン押してなかった」

「聴いてなかったんかーいっ! ふんふんほうほう言ったり、リズムに乗ってるような動きはなんだったんだよっ!」

「なんでしょうね?」

「知らねーよっ!」


 それから再生ボタンを押して今度こそ、情美は音楽を聴くも、


「これはたぶんゾウとキリンが首脳会談でラクロスをやる歌だね」


 などと意味のわからないことをのたまったので、目の前で思いっきりため息を吐いてやった。

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