第7話 陽キャをゆっくり解説
「こんにちは。ゆっくり情美だぜ」
「こんにちは。ゆっくり夜斗です。このチョモランマラーメン女の解説じゃなにもわからなかったから、陽介にばっちり陽キャについて解説してもらいたいわね」
「陽キャのわたしにばっちり任せるみょん。今回はド陰キャな2人でもわかるように5つに分けて陽キャについて解説するみょん」
「よろしくお願いするわね」
「だぜ」
「「「それじゃあゆっくりしていってね」」」
またこれやんのかよ?
普通に解説してくれよと思いながらも、俺は付き合っていた。
「まずひとつ目。陽キャは……誰にでも気軽に話しかけることができる、だみょん」
「どういうことかしら?」
「言葉通りだみょん。例えば……ほら校庭にサッカー部の人たちがいるみょん? あの中の誰かに話しかけてくるみょん」
「用なんかないんだぜ」
「無くてもいいみょん。世間話でもしてくればいいみょん」
「知らない人といきなり世間話なんて難しいわよ」
「陽キャはそれが難なくできるんだみょん」
「フィギュアに話しかけることすら躊躇する夜斗にはハードルが高過ぎるんだぜ」
「バリバリで話しかけるわよ。舐めないでちょうだい」
「フィギュアに話しかけることができても意味はないみょん……」
しかし陽キャとはなんて恐ろしい生き物だ。
用も無いのに知らない人へ話しかけるなんて、そんなこと俺にはできん。
「2つ目。陽キャは……常に流行りの音楽を聴いている、だみょん」
「流行りの音楽だったらわたしも聴いてるわよ」
「わたしも聴いてるんだぜ」
「お前らが聞いてるのはアニソンだろみょん。それじゃダメだみょん」
「アニメは日本が世界に誇る文化よ。なにがダメなのよ?」
「陽キャが聴くのはアニソンではない邦楽や洋楽だみょん。流行りのそれらを常に追い続けて、他の陽キャと音楽の話で盛り上がるみょん」
「アニソンじゃなきゃ音楽を聴きながら、アニメのシーンを思い返せないわよ」
「そうだぜ。それじゃあなんのために音楽を聴くかわからないんだぜ」
「陽キャはそもそもあんまりアニメを見ないみょん」
「アニメ見ないでなにするのよ? ゲーム?」
「ゲームもそんなにしないみょん」
「じゃあ陽キャは普段、なにしてるのよ?」
「陽キャは運動が好きだみょん」
「ベッドの上で開催されるオリンピックだぜ。陽キャは毎日、ベッドの上で開催されるオリンピックで聖火をぶっ刺したあと、2つの金メダルから作られる白いゴールラインを目指して、全力疾走してるんだぜ」
「なに言ってんだみょんこの馬鹿女。運動は部活だったり、スポーツジムに行ったりすることだみょん。あとは友達と繁華街へ遊びに行ったり、夏は海へ遊びに行ったりと、季節の遊びも楽しむみょんね」
俺は遊びといったらアニメゲーム漫画だ。
スポーツなんて見るだけで疲れるし、やりたいと思ったことは無い。海にだって行きたいと思ったことは無い。そもそも泳げないし。
「3つ目。陽キャは……服を頻繁に買う、だみょん」
「服だったらわたしも買うわよ」
「どこでいつ買ったみょん?」
「中学生のときに買ったからもう覚えてないわよ」
「陽キャはファッションの流行りを常にチェックして最新のものしか着ないみょん。中学生のときから同じ服を着てるとか論外みょんね」
「わたしはお母さんがホームセンターで買って来る服を着てるぜ」
「お前ら陽キャのよの字も無いド陰キャみょんね……」
「服なんて着れれば何でもいいわよ」
「夜斗は裸がデフォルトなんだぜ。家では常にブラブラさせてるんだぜ」
「させてないわよっ! 嘘はやめてちょうだいっ!」
「とにかくお前らもっと服を自分で選んで買えみょん」
「面倒くさいわ」
「服を買いに行く暇があったらゲームするんだぜ。それか降霊」
「こ、降霊? なにしてるんだみょんこの女? 怖っ」
サイズが合わなくなったり、破れたりしたときくらいしか服を買いたいなんて思わない。逆にそれ以外の理由でなぜ服を買うんだ? 意味わからん。
「4つ目。陽キャは……初対面の奴とも友達になれる、だみょん」
「うちの連中も盃を交わして仲良くなるんだぜ」
「それとはたぶん違うわよ」
「盃を交わさないでどうやって仲良くなるんだぜ?」
「ひとつ目に言ったように陽キャは誰にでも、用が無くても気軽に話かけることができるみょん。関係を縮める方法も経験から熟知しているから、どんな人間ともすぐに仲良くなって友達になれるみょんね」
「詐欺師みたいね」
「人聞きの悪い言い方しないでほしいみょん」
「うちの連中も関係を縮める方法を熟知しているから、どんな人間ともすぐに仲良くなって便宜を図ってもらったりしてるんだぜ」
「それ友達じゃないわよ。闇の繋がりよ」
「とにかく、陽キャになりたいなら関係を縮める方法を身に着けることみょんね」
「男は殴り合って友達になるんだぜ」
「それ古いわよ」
関係を縮める方法なんてまったくわからん。
友達も情美しかいないくらいだし。
「5つ目。陽キャは……自信に満ちていてすべての物事に前向き、だみょん」
「性的な意味でかだぜ?」
「お前は言葉のどの部分に性を感じたんだみょん……」
「自信に満ちていてすべての物事に前向きって、そんな人間がいるなんて信じられないわよ」
「夜斗なんて今日の晩御飯にミートボールが出なかったら、自殺するっていうくらいうしろ向きに生きてるんだぜ」
「晩御飯にミートボールが出ないくらいで自殺してたら、命がいくつあっても足りないわよ」
「お前らはまあまあ前向きに生きてる気がするみょん」
「アニメと漫画とゲームができれば生きてて楽しいわよ」
「わたしたちにとってアニメ漫画ゲームは血液みたいなもんだぜ」
「解説した5つのことをその前向きさでやれば陽キャになれるみょんね」
「つまりアニメ漫画ゲームを全力でやればいいのね」
「陽キャになるのは意外に簡単そうだぜ」
「解説したわたしの時間を返せみょん……」