第6話 ゆっくり夜斗とゆっくり情美
「こんにちは。ゆっくり夜斗です。わたし陰キャだから陽キャってよくわからないんだけど、どんな人たちなのかしら?」
「陽キャってのはわかりやすく言えばとにかく明るい人たちのことだぜ。陰キャな夜斗でも理解できるように、今日は5つに分けて陽キャについて解説してやるぜ」
「お願いするわね」
「「それじゃあゆっくりしていってね」」
って、なんだこりゃ?
そんな風に思いながら俺は情美の解説を聞いていた。
「まずひとつ目だぜ。陽キャは……舐められたら相手を叩き潰す、だぜ」
「いやそれは陽キャじゃなくてヤクザよ情美っ!」
「なに言ってるんだぜ? うちにいる若い衆もベテランもみんな舐められたら相手を叩き潰すぜ。舐められたら相手を叩き潰すのは陽キャの常識だぜ」
「ヤクザの常識よそれはっ! 陽キャはそんな乱暴な人ばっかりじゃないわよっ!」
「そうなのかぜ? まあいいぜ。それじゃあ2つ目だぜ」
なんか嫌な予感がしつつ、俺は解説の続きを聞く。
「陽キャは……盃を交わすと兄弟になれる、だぜ」
「だからそれヤクザよ情美っ! 陽キャは盃を交わして兄弟になったりしないわっ! 盃を交わして兄弟になるのはヤクザだけよっ!」
「けどうちの連中はみんな明るくて陽気な陽キャばっかりだぜ。その連中が盃を交わして兄弟になるなら、陽キャはみんなそうなんだぜ」
「違うわよっ! 陽気でもヤクザは別よっ!」
「そうなのかぜ? まあいいぜ。それじゃあ3つ目だぜ」
「もういいわよ。嫌な予感しかしないわ」
「まあまあ次は大丈夫だから安心するんだぜ」
そう言われても信用できなかった。
「陽キャは……やらかしたら指を詰める、だぜ」
「そんなわけないでしょ馬鹿っ! バーカっ!」
「だったら陽キャはやらかしたらどうやってケジメをつけるんだぜっ! ケジメをつけるには指を詰めるしかないんだぜっ!」
「詰めるわけないでしょっ! 普通の人はやらかしても指を詰めるなんて方法でケジメをつけたりはしないのよっ!」
「うちにいる陽キャは指を詰めるんだぜっ!」
「あんたんとこにいるのは陽キャじゃなくてヤクザよっ! 明るくても闇なのよっ! 陰キャよりも暗い闇の中で生きてるのよヤクザはっ!」
「なんでなんだぜっ?」
「ヤクザだからよっ!」
この息臭にんにく陰キャ女にまともな陽キャの解説を期待した俺が馬鹿だった。こいつには陽キャとヤクザの違いもわからんのだ。
「それじゃあ4つ目だぜっ!」
「もういいわよっ!」
「陽キャは……騒がしい、だぜ」
「雑ーっ! なんかいきなり雑ーっ! 陽キャが騒がしいことくらい誰でも知ってるわよっ! なにが解説よっ! このチョモランマラー〇ンマン女っ!」
「なんだぜチョモランマラー〇ンマンって? パワーアップしたラー〇ンマンみたいで格好良いんだぜ」
「知らないわよっ! もうあんたの解説なんて聞かないからっ!」
「それじゃあご期待に応えて5つ目だぜ」
「人の話を聞きなさいよっ!」
「陽キャは……わかんないんだぜ」
「最初からそう言いなさいよっ!」
……結局、なにもわからなかった。
昼休みが終わり、午後の授業も終わって放課後……。
「で、俺に陽キャとはなんなのか聞きに来たと?」
陽キャのことは陽キャに聞けばいい。
という結論に至った俺と情美は陽介のところへ来ていた。
「うん。お前は陽キャだから陽キャに詳しいだろ?」
「まあお前たちよりはな。てかその女はなにやってるんだ?」
俺の隣で情美は長い髪を頭上へと高く掲げていた。
「チョモランマラー〇ンマン」
「おもしれー女」
「褒められた」
「馬鹿にされてるだけだよ」
「怒りのチョモランマラー〇ンマン。髪が2つに分かれて竜となる。食らえ。必殺のダブルドラゴンアタック」
「ぐえー」
「俺もう帰っていい?」
2つに分けた長い髪でペシペシ叩く情美と、叩かれる俺を見ながら陽介はため息を吐く。
「あ、ごめんごめん。ちゃんと聞くから陽キャについて解説よろしく頼む」
「はあ……じゃあ解説してやるからちゃんと聞いとけよ。……こんにちは。ゆっくり陽介だみょん」
「って、お前もそれやるんかーいっ!」
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