第5話 仁義のため俺の恋を手伝うと言う情美
「お、俺と無堂さんを恋人同士に? お前の手伝いで?」
俺の問いに情美は無言で頷く。
「いやいいよそんなの。どうせ俺みたいな陰キャじゃ無堂さんとつり合わないしさ」
「そんなことない。夜斗は……良い人。グッドパーソンデェス」
「なんで急に英語?」
「それが伝われば無堂さんと恋人同士になることはできる」
「無理だと思うけど……」
俺はイケメンじゃないし、勉強もスポーツも得意じゃない上に陰キャだ。
陽キャな美少女の無堂さんと恋人同士になんてなれるわけない。
「じゃあ他になにかわたしにしてほしいことある? 命を助けてもらったことに見合うようなこと」
「そ、そんなこと急に言われても……」
「夜斗は無堂さんのことが好き。無堂さんのことばかり考えてる。部屋には無堂さんの隠し撮り写真を貼りまくり、無堂さんの捨てたゴミを食べ、無堂さんち前にある側溝に潜んで日々、ニヤニヤとしている」
「こわいこわいこわい。やってないよそんなこと。そんな変態じゃないよ俺」
「あの人と恋人同士になることは、夜斗にとってすごく大きいこと。違う?」
「いや、それはそうだけど……」
「だからわたし手伝う。必ず……夜斗と無堂さんを恋人同士にしてみせるから」
「……」
さっきしていた遠足で俺に見つけてもらった話のときとは一転して、情美は悲しそうに言葉を続けている。
なんでこんなに辛く悲しそうなんだ?
どうして……?
「なんか辛そうだし、やっぱり難しいんだろ? やっぱいいって」
「だ、大丈夫。仁義のために必ず借りは返すから。図書室の本は借りパクしても、受けた恩義は必ず返すから」
「う、うん。図書室の本も返そうな」
なにをどう手伝ってくれるのかはわからないけど、たぶん無理だろう。
どう考えても無堂さんが俺をのことを好きになるとは思えないし……。
直後にチャイムが鳴ったので俺たちは教室へ戻る。
それから午前中の授業を終え、俺は情美と一緒に学食へ向かった。
「あー腹減った。お前、今日はなに食べるの?」
「豚ニンニクラーメンの野菜マシマシチョモランマ」
「いや、学食にそんなのないだろっ」
「へいっ! 豚ニンニクラーメン野菜マシマシチョモランマお待ちっ!」
「あんのかーいっ!」
なんてやり取りを終えた俺と情美は学食の端にある席へと座る。
「ズルズルズールズル。ムシャ、ハム、モニュ」
「お前よくそんなに食えるな」
すでにチョモランマが5合目くらいまで減っている。
一体、この細い身体のどこに……あ、胸か。
栄養はたぶんこのデカい胸にすべて行ってるんだと思った。
「食べるときに食べとかないと、いつなにが起こるかわからない」
「君は戦地かなにかで生きている兵士か?」
「人生は戦場。仕事や人間関係という銃弾の雨に晒されながら、人は日々、辛い毎日を送っているの。ごっそさんでした」
「あ、もう平らげちゃった」
なんか意味のわからないことを言いながらチョモランマを平地にして、情美はラーメンを完食した。
「俺まだ食い終わってないのに」
隣では情美が楊枝で歯を扱いていた。
やっぱり昨日の美少女さんと同一人物とは思えない。
情美には清楚さの欠片も無いし。
「げっぷーなんか眠くなってきた」
「お前、一応、女なんだから人前でのゲップは控えろよ」
「げっぷー」
「うわっ! にんにく臭っ! こっち向くなっ!」
「へっへっへー」
「このにんにく女ーっ」
にんにく臭い息を吐きながらニヤニヤ笑う情美の額へデコピンを食らわす。
「痛い。あ、臭いのが下からも出そう」
「馬鹿お前っ! それだけは絶対にやめろよっ!」
男でも人前じゃそれはやらないのに、女がやったら失うものが多過ぎる。
「冗談。それよりもあれ見て」
「あれって……」
情美の視線を追うと、そこには友人らと一緒にいる無堂さんが見えた。
「無堂さんは友達いっぱい。周りは陽キャがいっぱい。あんまりおっきくないおっぱい。いやー」
「なんでラップ調?」
「あの陽キャ軍団にわたしら闇属性の陰キャが入るのは困難。入るには光属性を身につけなければならない。げっぷー」
「臭い息吐くモンスターってなに属性だっけ?」
「夜斗が無堂さんと付き合うには、あの陽キャ軍団に入るための光属性を身につける必要がある。そのためにはまず光属性を理解するところから始める」
「理解ってどうしたらいいんだ?」
「わたしの家にはヤクザがいっぱい。ヤクザはみんな陽キャ。つまりわたしは陽キャに詳しい。そのわたしが陽キャについて夜斗に解説してあげる」
「う、うん」
「それじゃあ……こんにちは。ゆっくり情美だぜ。今日は陽キャについてわたしがばっちり解説するからゆっくり聞いていってほしいんだぜ」




