表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/47

第44話 逆転の一手

 俺たちを乗せた宅配業者の車は途中で黒塗りのワゴン車へと乗り換えられる。それから町はずれの廃工場へと連れて行かれた。


「ほら降りろ」

「くっ」


 車を降ろされた俺は暗い工場内を歩かされる。

 無堂さんは箱台車に入れられたまま、俺と一緒に連れて行かれた。


 やがてどこかの部屋へと入る。

 事務所のような場所で、この部屋だけ証明が灯っていた。


「戻りました田久呂の兄貴」


 部屋の奥にいる30代くらいの厳つい男。

 その男はイスに座ってハンドガンが磨いていた。


「ああん? なんだそいつ? 娘のほうはどうした?」

「いや、こいつは嗅ぎつけやがったんで一緒に連れて来ました。娘のほうは……」


 男は箱台車から無堂さんを出して見せる。


「へっへっへっ、うまくいったか」

「お、おいお前らっ! 無堂さんを誘拐してどうする気だっ! あぐっ……」


 男に蹴られて俺は地面に膝をつく。


「黙ってろガキっ! てめえなんていつでも殺せるってのを忘れんなっ!」

「まあいいじゃねーか。おいガキ、知りて―なら教えてやるよ」


 そう言いながら田久呂という男はタバコを吸い始める。


「そいつをまわして、その写真をネットに流すのよ」

「ま、まわすって……」

「裸にして俺たちで女にしてやるってことだよ」

「お、お前らっ!」

「お前はここで殺して海にでも放り込んで魚のエサにしてやるよ」

「くっ……」


 このままじゃ俺は殺されて無堂さんはひどい目に……。

 なにか……なにか助かる手段は……あっ。


 俺の視線が自然と自分の鞄へ向く。

 ここには情美からもらった逆転の一手が入っている。


 しかし側に男が2人にいる今の状態で出してはすぐに制圧される。

 なんとかこいつらを油断させて、こいつを有効活用しなければ。


「こいつの親が組を解散させたせいで俺たちは食いっぱぐれたんだ。たっぷりかわいがってやるから覚悟しろよ」

「へっへっへっ、飽きたら海外にでも売り飛ばしてやる。田久呂の兄貴、もうやっちまってもいいですかい?」

「ああ。おいガキ、冥途の土産にいいものを見せてやるぜ。ひゃっはっはっ」

「……ひゅーがは……くは……はああ……ふぅはああっ」

「あん?」


 俺は突然、不自然な呼吸をして見せる。


「兄貴こいつなんすかね急に?」

「ぜ、喘息のほ、ほっさが……はあっ、ふううっ、ひゅーっ、きゅ、吸入器っ」

「ちっ、病気も持ちか。構わねえ。そいつは放っておけ」


 不自然な呼吸をしながら鞄の中を探る仕草を見せる俺から背を向け、無堂さんを囲む男たち。そこへ田久呂という男も加わった。


「ぷはっ! や、やめてっ!」

「へっへっへっ、おとなしくしてりゃあ多少はやさしくしてやるよ」

「兄貴、お先にどうぞ」

「次は俺だぜ」


 無堂さんの縄を解きながら男たちはそんなことを話す。


 男3人の誰も俺を見ていない。


 今だ。


 俺は鞄の中にある拳銃を掴み、男たちの背へ向ける。


「動くな」

「ああん?」


 男たちがこちらを振り向く。

 しかし3人とも驚かず、平然とした顔していた。


「兄貴、こいつモデルガンなんかで俺たちを脅してますよ」

「そんなんでビビるわけねーだろバーカ」


 手下2人がゲラゲラ笑う。

 しかし田久呂だけは変わらず平然とした顔でタバコをふかしていた。


「……てめえら何年、ヤクザやってんだ?」

「えっ?」

「ありゃあ本物だ。そんなこともわかんねーのか?」

「ま、まさか。こんなガキがモノホンのチャカなんて……」

「間違いねー。てめえどこでそんなもん手に入れやがった?」

「そ、そんなことどーでもいいだろっ! 無堂さんをこっちへ来させろっ!」

「てめえにハジけるのかよそれ?」

「そこで拾ったとでも思ってるのか? 撃てるから持ってるんだよっ」


 撃ったことがあるのは一度だけだ。撃ち慣れているなんてことはない。しかしそういう風に見せなければと、俺は必死に考えて言葉を吐いた。


「ふん。それにしちゃあ様になってねーな」

「本気だぞ俺はっ!」

「……ふん」


 田久呂は無堂さんを立たせてこちらへ来させる。


「な、夜斗君……」

「大丈夫?」

「う、うん。けど、夜斗君それ……」

「今はなにも聞かないで」

「わ、わかった」


 俺は男たちへ銃口を向けつつ、無堂さんの手を引いて下がって行く。


「逃げられると思ってんのか?」

「そのつもりだ」

「くくくっ、あめーな」

「なに?」


 瞬間、男は手下の首根っこを掴んで自分の前に立たせ、


 バァン!


「がはっ!? あ、兄貴……」


 その背後から撃たれた銃弾が俺の頬をかすめる。


「くくっ」


 撃たれた男が倒れ、その背後からはこちらへ銃を向けた田久呂の姿が現れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ