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第43話 怪しい宅配業者

「チャカじゃねーかっ!」

「受け取って……くれるかな?」

「バレンタインチョコを渡すみたいな顔でなにを渡して来やがるんだお前はっ!」


 私服警官がその辺にいるかもしれないというのに、なんてもんを渡してくるんだこいつは……。


「冗談」

「冗談? ああ、これモデルガンか……」

「いや、パンツ被って顔を隠したほうがいいって言ったこと」

「そこっ!? わかってるわそんなんっ!」

「それはお父さんのタンスからくすねてきたから本物だよ」

「お父さんの財布から千円札を抜いてきたみたいなノリでなんてもんをくすねてくるんだお前は……」


 しかし確かにこの重みは、あの見合いのときに握った銃と同じだ。

 間違い無く本物の重量感が俺の手に握られていた。


「あとこれマガジン」

「わー漫画の方じゃなくて、弾倉だー。って、こんなもの受け取れるかよっ! 俺が警察に捕まるわっ!」

「けど相手は持ってるかもしれないよ」

「いや、それはそうかもだけど……」

「いざってときの護身用。使わなければそれでいい」

「……」


 あくまで護身用。

 そう決め、俺は銃とマガジンを鞄へ入れた。


 情美が食事に行ってしばらく経つ。相変わらず怪しい人間は来ず、出入りはマンションの住人か宅配業者だけだった。


 俺も腹減ったな……。


 けど、情美がなにか買って戻るまでは我慢だな。


 腹を鳴らしながらマンションの玄関を眺めていると、大きな箱型の台車を押しながら宅配業者が出て来る。


「うん?」


 宅配業者の指がなんか……。


「あっ」


 よく見ると、小指が無い。

 ということはもしかして……。


 嫌な予感がした俺は出て行こうとする。


 けど、もしもあれが俺の予想通りだったらどうする?

 本当に大声だけで退散してくれるか?


 しかし躊躇して出て行かなかったら、取り返しのつかないことになってしまう可能性も……。


 そう考えたら行かざるを得なかった。


 行く前に警察へ通報するか?

 いやでも間違っていたら……。


 このまま考えていたらあのワゴン車に荷物を載せて行ってしまう。

 もう出て行くしかない。


「す、すいません」

「はい?」


 声をかけると、宅配業者の男性は無表情を俺へと向けた。


「あの……その箱台車の中身を見せてくれませんか?」

「は?」

「間違っていたらすいません。けど、気になることがあって」

「気になること?」

「友達をその……誘拐しようとしている人間がいるかもしれなくて。大変に失礼ですけど、もしかしたらと思いまして……」

「馬鹿馬鹿しい」

「わかっています。けど見せていただけない場合、友達が家にいるかを確認します。家にいるってことはわかってますから。それでもしも家にいなかったら、警察に通報してその車のナンバーを伝えます」

「……」


 宅配業者の男性は明らかに不機嫌な顔を見せて来る。


 当然だ。

 誘拐犯だと疑われているのだから。


「まあ、見せるだけで納得してもらえるなら」

「はい。すみません」


 宅配業者の男性が箱台車を開く。

 その中を覗くと、


「あっ!?」


 そこには両手足を縛られて猿ぐつわを噛まされた無堂さんの姿があった。


「無堂さ……」

「おっと声を出すんじゃねーぞ」

「う……」


 別の男が背後から現れ、俺の背に密着してなにやら固い感触のものを押し付ける。恐らく銃口だと俺は察した。


「騒げばお前もその女もここでお陀仏だ。まだ死にたくねーだろ?」

「くっ……」

「車に乗れ」


 背中に銃口を押し付けられたまま、俺は車の荷台へと乗せられる。

 しかしその直前、俺はこっそりとズボンのポケットから生徒手帳を地面へ落とす。


 これに情美がなにか気付いて警察を呼んでくれれば……。


 そんな淡い期待を込めた。


 隣には無堂さんが入っている箱台車が載せられる。


「よし出せ」


 男らが乗り込み車のエンジンがかかる。


 このままどこへ連れて行かれるのか?

 わからないが、碌な目に遭わされないだろうことはわかった。


 そして車が発車する。……と、


「うん? なんだ?」


 俺に銃を突き付けている男が、ワゴン車の窓から後方を覗く。

 俺もチラリとそちらへ目をやると、


「あっ!」


 情美だ。

 情美が車を追って走って来ていた。


「なんだあの女?」

「おいもっとスピード出せ」

「ああ」


 車は大通りへと出てスピードが上がる。……しかし、


「な、なんだあの女っ!?」


 スピードに離されるどころか、情美はむしろ車へと近づいていた。


「おいっ! あれはてめえの知り合いかっ!」

「いやあの……」


 身体能力が並外れているとは思っていたが、まさかここまでとは……。


 車に追い縋る情美の姿に俺は唖然としていた。


「追いつかれるぞっ! もっとスピード出せっ!」

「法定速度ギリギリだっ! これ以上出したらサツに止められるっ!」

「くそっ! うん?」


 前を向いていた男がふたたび車の背後を見る。

 と、そこには情美の姿が無かった。


「なんだ諦めやが……うおっ!?」


 なにが車の上に落ちてきたように車内が揺れる。


「お、おいまさか……」


 天井を見上げるヤクザの男。

 俺もまさかと思いながら車の天井を見上げていた。


 ドォン!


「うおっ!?」


 ものすごい衝撃音とともに天井がへこむ。

 同時に車が右へ左へと揺れて蛇行する。


 ドォン!


 そしてまた同じ衝撃音とともに天井がへこんで車が揺れた。


「お、おいなんだあの女っ! ターミ〇ーターかなんかかっ!?」


 いや普通の女子高生。

 普通……普通かなぁ。


 知らない人間からすれば、ターミ〇ーターと思ってもしかたない。


 ドォン!


「うおっ! く、くそっ! おい女っ! こっちにはてめえのお友達がいるんだぜっ! お友達の身体に穴を開けられたくなきゃあ、とっとと失せやがれっ!」


 そう男が天井へ向かって声を上げると、衝撃はピタリと止む。


「早く降りろっ! 今すぐに指を吹っ飛ばしてやってもいいんだぜっ!」

「……」


 情美は無言で車の天井から車道へ飛び降りる。

 そして走り去る車を、後方からずっと睨み続けていた。。

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