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第42話 無堂さんを守るために

 ……しかし俺は普通の高校生だ。相手が危険な反社だったとしても、やり合うような力は持っていない。

 できることと言ったら、無堂さんへの危険を素早く察知して警察へ通報することくらいだ。


 ということで、俺は帰宅したと見せかけてすぐに戻り、無堂さんが住んでいるマンション前で怪しい人間が来ないか見張ることにした。


「けどこれだと俺が怪しまれて通報されるかも……」


 マンション前の駐車場にある車に隠れて玄関を見張っているが、はたから見れば完全に不審者である。


「パンツ被って顔を隠したほうがいいよ」

「不審者を極めてどうする……って、情美っ?」


 いつの間にか情美が隣に屈んでアイスを食べていた。


「お前、帰ったんじゃなかったのか?」

「夜斗のことだし、こうすると思って戻って来た」

「情美……」


 情美は俺のことを心配して……。


「まさか無堂さんの下着を狙うとはね。さあわたしが一緒に行ってあげるから警察に自首しよう」

「あれ? 違った。って、誰が下着ドロボーだっ!」

「じゃあ上着?」

「上着盗んでどうすんだよ……。いや、そういう問題じゃねーけどっ」

「冗談。夜斗が心配だから戻って来た。家でお父さんに聞いたんだけど、なんか無堂さんの両親って警察官らしいんだよね。最近、捜査で組をひとつ解散させたとかで、元組員が2人を恨んでるらしいよ」

「じゃあ無堂さんをつけ回してるのって……」

「もしかしたら組を解散させられた腹いせに無堂さんを誘拐する気なのかも」

「それじゃあすぐ警察に通報して守ってもらわないと」

「そういう動きがあるなら、無堂さんの両親がとっくにそうしてるよ。もしかしたらその辺に私服警官がうろついてるかも」

「そうなのか? なら俺がいなくても大丈夫かな?」

「まあでも、警察だって万能じゃないからねぇ」

「それもそうだな……」


 なにかあってからでは遅い。

 私服警官とやらが周辺で守っているのかもわからないことだし、やはりここで見張ることにした。


「単なるストーカーなら家の中まで入ろうとはしないだろうけど、反社の危険な連中だったら家の中まで押し入るかもしれない。けどいつ現れるかわからないし、お前まで付き合うことは無いよ」

「本当にヤクザみたいのが来たらどうするの? 通報したって、警察が来る前に車で連れ去られちゃうかもしれないよ?」

「ナンバーを覚えておけばすぐ捕まえてくれるだろ」

「犯罪に使うのなんてどうせ盗難車だよ。誘拐したら途中で別の車に乗り換えるだろうから、すぐには捕まえられないと思う」

「じゃあどうしたら……」

「大声出して退散させるしかないね」

「うん。そうだな」


 俺にできるのはそれくらいか。

 こういうとき、情美のようなデタラメな身体能力があったらなと思った。


「もしくは夜斗が無堂さんの下着を被って全裸で出て行くかだね。たぶん犯人は驚いて逃げる」

「無堂さんも逃げ出すわそんなん」

「でもおもしろいじゃん」

「おもしろいのお前だけだろ……」

「いや、ウケを裸に頼るのはどうかと思う。やっぱりしゃべりで笑いを取らないとね」

「なんでお笑いの指導みたいな話になってんだよ……」

「無堂さんが危険な目に遭うかもしれないんだし、裸とか笑いとかそんなこと言ってる場合じゃないでしょ?」

「どっちもお前が言い出したんだろうがっ!」


 しかしいつ現れるのか? 現れなければそれでいいけど、いつまでも情美を付き合わせられないし、犯人が早く逮捕されればいいなと思う。


 ……家にはお互いの家で勉強すると嘘の連絡をして、マンションの前で張り込みを続ける。


「何事もないな」


 夜になったが特に怪しい人物は現れない。来るのは宅配業者やマンションの住民らしき人たちばかりであった。


「ねえ夜斗、動物園ってあるじゃん?」

「あるね」

「キリンっているじゃん?」

「いるね」

「シャンプーなに使ってる?」

「なんで動物園からキリンと来てシャンプーなんだよ?」

「じゃあリンス」

「一緒だろ」

「リンスインシャンプーね」

「そういう意味じゃねーよ」

「お腹減った」

「なんか食って来たら?」

「夜斗もお腹すいたでしょ? 一緒に行こうよ」

「ここ離れるわけにいかないだろ」

「そうだけどさ……」


 と、情美は俯いて俺を上目遣いに見上げる。


「やっぱり……好きだからここまでがんばるの?」

「いや別に好きとかそういうんじゃなくて、友達が危険な目に遭ってたら助けたいってだけだよ」

「じゃあわたしが同じ目に遭っても助けたいって思う?」

「当たり前だろ」

「じゃあわたしと無堂さんのどっちかしか助けられないとしたらどっち助けてくれる?」

「そ、そんな難しいこと聞くなよ」


 どっちを助けるかと聞かれて、無意識に情美の顔が浮かんだ。しかしそれを言葉にはできなかった。


「わたしじゃないんだ」

「そ、それは……その」

「ご飯食べて来る」

「あ、うん」

「トイレも行くよ」

「それは言わんでいいから好きにしろ」

「なんか食べ物買ってこようか?」

「あ、うん。そうだな。頼む」

「夜斗の分もトイレ行って来ようか?」

「行けるものなら行け」

「じゃあ膀胱を抉り出してわたしに寄こせ」

「急にグロい」

「信じちゃった? 冗談ジョーダン」

「いや、信じるわけないだろ……」

「わたしがいないときになにかあっても無理しちゃダメだよ。相手はヤクザもんかもしれないんだからね」

「わかってるよ」

「ドラ〇もんの可能性もあるけど」

「なんでドラ〇もんが出て来るんだよ。そっちのほうがある意味で怖いわ」

「じゃあドラ〇もんに対抗する道具をあげる」

「ねずみのおもちゃでもくれるの?」

「テテレッテッテー」


 と言って情美が鞄から出して来たのは新聞紙に包まれた物体だった。


「なにこれ?」

「開けてみて」


 なんだろうと思って新聞紙の包みを開く。

 ……現れたのは黒光りしたハンドガンであった。


「ひゃーっ!」


 それを見た瞬間、俺は声にならない声を上げた。

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