第38話 肝試しで泣く幽霊が
「よろしくね夜斗君」
「う、うん。よろしく」
なんとまさか無堂さんとのペアを引き当ててしまうとは。
これはかなりの幸運だ。
しかし羨ましいという男子からの視線は痛かった。
「……じゃあわたしは脅かす役だから」
「あ……」
情美は陽介から肝試しのルートを聞き、森の奥へと入って行った。
「ここから向こうへまっすぐ行けばそこに大きな木が立ってる。そこに飴玉の袋を姫路に置いて来てもらうから、それを取って戻って来るんだ」
ということで肝試しが始まり、最初のペアが出発した。
しかし情美の奴、脅かすってなにするつもりなんだろう?
あいつのことだし、なんかとんでもないことをやらかすんじゃ……。
そんなことを考えていると、
「「ぎゃーっ!!」」
最初のペアがお互いに叫び声を上げて駆け戻って来た。
「なんだ? どうしたんだ?」
「お、おばけっ! おばけが出たっ!」
「いやおばけって……」
話を聞いた陽介も、他のみんなもまさかという表情だった。
「肝試しを提案した俺が言うのもなんだけど、こんなところにおばけなんて出るはずないだろ? 見間違いじゃないか?」
「い、いやほんとだってっ! なんか変な声が聞こえてきて、奥にあるデカい木を見上げたら逆さになった髪の長い幽霊がいて……」
「鳥かなんかと見間違えたんだろ」
ということで、次のペアが少し怖がりながら出発する。
俺もまさかとは思う。幽霊の存在はともかく、肝試ししようとなったときに都合良く現れたりしないだろうし。
もしかして情美が……。
「「ぎゃーっ!」」
そして2組目も悲鳴を上げながら駆け出て来た。
「幽霊いた幽霊っ! 木の上にっ!」
「マジかよ。鳥じゃねーの?」
「マジマジっ! 人間だったっ!」
陽介はまさかと首を傾げつつ、ペアの女子と森へ入って行く。
「ね、ねえ幽霊なんかいないよね? みんなの見間違いだよね?」
「う、うん。幽霊なんかいないよ。大丈夫」
無堂さんを安心させるために俺はそう答える。
幽霊はいない。
少なくとも、ここには出ないと俺は思う。
「「ぎゃーっ!」」
しばらくして陽介たちのペアが悲鳴を上げて森から駆けて来た。
「ゆ、幽霊だっ! あれ幽霊だマジでっ!」
「落ち着けよ」
慌てている陽介の肩を叩く。
「じゃあ次は俺たちだな」
「えっ? や、やめようよ。本当に幽霊いるんだよきっと」
「大丈夫」
正体はわかっている。
しかしあいつもせっかく脅かし役をやっているんだ。
正体をバラすことはせず、俺は不安そうな無堂さんとともに森へと入った。
「し、静かだね」
「うん」
風の音と虫の声がわずかにするばかりで森の中はシンと静まり返っている。
ホーホー
「きゃあっ!?」
「わっ!?」
鳥の声に驚いた無堂さんが俺の手をギュッと握る。
鳥の声よりも、いきなり手を握られたことに俺は驚いた。
「と、鳥だよ」
「う、うん。けどびっくりしちゃった」
「幽霊とかやっぱ苦手なの?」
「と、得意な人はいないでしょ?」
「それはまあそうか……」
誰だって幽霊は怖い。
「夜斗君は怖くないの?」
「いや、怖くないことはないけど……」
本当に幽霊が現れたらそりゃ怖い。
しかしみんなが見た幽霊とは恐らく……。
「あ、陽介君が言ってた大きな木ってあれじゃない?」
無堂さんの指差す先に大きな木が見える。
その根元には情美が置いたのであろう飴玉の袋があった。
あれを持って帰れば終わりだ。
そう思って木へ近づくと、
「うう……っ。ひっく……ううっ」
なにやら女のすすり泣くような声が聞こえる。
見上げると、そこにいたのは木の枝に掴まって逆立ちをしていた……。
「きゃーっ!!!」
「わっ!?」
木の上を見上げた無堂さんが俺へと抱きついて来る。
驚きと緊張に声を失った俺は、もうなにも言えなくなってしまう。
「夜斗君っ! に、逃げなきゃ早くっ!」
「わっ!? ちょ……」
無堂さんが俺の手を引いて元来た道をダッシュで戻って行く。
俺もそのまま走ってついて行くことに……。
ドサ!
それから背後でなにかが落ちるような音がする。
気になったがパニックになっている無堂さんを放って戻るわけにもいかず、そのまま元の場所へと帰った。
「おばけっ! おばけいたっ!」
みんなのところへ戻って来た無堂さんは開口一番でそう叫ぶ。
「やっぱりいたんだ……」
全員は納得して頷く。
「な、なんかシクシク泣いてて……」
「シクシク泣いてた? 俺のときは笑ってたけど?」
「わたしたちのときも笑ってたよね?」
「そ、そうなの? あたしと夜斗君のときは泣いてたよね?」
「う、うん」
悲しそうに泣いていた。
それがあまりにもリアルで、一瞬まさかと俺も思ったくらいだ。
「姫路さん大丈夫かな? どこにもいなかったけど……」
「いや……」
「えっ? 夜斗君、姫路さんのこと見かけたの?」
「うん。ちょっと迎えに行ってくるよ」
そうみんなに言って俺は森へと戻った。
あのドサって音が気になる。
あいつもしかして……。
心配になった俺はさっきの気があった場所へと急いだ。
「ああ、やっぱり」
俺が心配した通り、情美は木の下で痛そうに足を押さえ、そうしながらさっきと同じくシクシクと泣いていた。




