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第37話 始まるキャンプ

 電車に乗ってバスに乗り、ようやくとキャンプ場へと着いた俺たちはテントの設置を始めた。


「なかなか難しいなぁ。情美、お前テントの設置ってやったことあるか?」

「ちょっと待って、今わたし、獲物を捕る罠の設置をしてるから」

「お前に聞いたのが間違いだった」


 陽介はキャンプ場にある水道まで水を汲みに行ってしまったし、他のみんなも自分の作業をしているので手伝ってもらいにくい。


 まあ説明書を見ながらやってるし、そのうち完成するだろうと、俺は気長にやることにした。


「夜斗君大丈夫? 手伝おうか?」

「えっ? あ、無堂さん」

「あたし手が空いたから手伝ってあげるよ」

「う、うん。ありがとう」


 やはり無堂さんはやさしいな。


 俺は無堂さんから教えてもらいながら、自分のテントを設置していく。

 他の男子は作業をしながらその光景をうらやましそうに眺めていた。


「よっと、これで完成だね」

「うん。無堂さんのおかげでなんとか設置できたよ」

「あたしはちょっと手伝っただけ。完成させたのは夜斗君だよ」

「う、うん」


 俺を見てニッコリ微笑む無堂さんにドキリとする。


 やはりかわいい。

 無堂さんと仲良くできるなんて、キャンプに来てよかった。


「ん? あれ? 情美?」


 さっきまでいた場所に情美の姿は無かった。


「あ、姫路さんならさっき川のほうへ歩いて行ったよー」


 と、他の女子から聞き、俺はなんとなく心配になってあとを追った。


 しばらく歩くと、川を眺めて立っている情美を見つけた。


「なにしてるんだ?」

「えっ? あ……別に」


 実際、なにをしているというわけでもない。

 ただそこに立って情美は川を眺めていた。


「どこか行くなら声かけてけよ。心配するだろ」

「夜斗は無堂さんと仲良くやってたし、わたしはいないほうがいいと思って」

「そんな変な気は使わなくてもいいよ」

「……夜斗と無堂さんを恋人同士にするって約束したから、できることは少しでもやらないと」

「お前が辛いならそんなことしなくてもから」

「えっ?」

「お前その話するときすごい辛そうだし、それ見てると俺も辛いし心配になるからさ。そんなことしなくていい」

「けど……夜斗は無堂さんのことが好きなんでしょ?」

「好き……だけど、その……」


 俺は情美の目を見つめる。


「俺には無堂さんと恋人同士なることよりも、お前のほうが大切なんだ。い、いや、友達としてな。友達として。友達のお前が辛かったり苦しかったりするのは嫌なんだ。だから……」

「無堂さんよりもわたしのほうを大切に思ってくれてるの?」

「と、友達として、な」


 そう答えた俺を見て情美はにっこりと微笑む。

 それを見た俺の心は無堂さんの笑顔を見たときよりも高く鳴ったような気がした。


「けど、夜斗には命を助けてもらった恩義があるし、借りは返さないと……」

「その話は一旦、無しでいいよ。またなんかお前が納得する形のを考えおくから」

「うん……」


 借りなんて返さなくてもいい。しかしそう言っても納得しないだろうし、とりあえうはこう言うしかなかった。


 作業をしているうちにやがて夕方となり、夕飯の用意をみんなで始める。作るのはキャンプの定番、カレーである。


 俺は野菜を切ってほしいと頼まれたので、まな板の上でニンジンを切っていた。


「お前カレー作ったことある?」

「お父さんとキャンプしたときに作った」

「へーじゃあ経験者だな」

「うん。まずはウサギを捌いて血抜きするの」

「ウサギを捌くのっ!? 俺の知ってるカレーの作り方といきなり違うんだけどっ!?」

「あとは山で取った野草とかキノコを混ぜて煮て、カレーだと思い込んで食べる」

「最後で完全にカレーじゃなくなっちゃったよっ! ウサギの肉と野草とキノコを煮ただけの味が無い煮物だよそれっ!」

「自然を生き延びるためには味なんてこだわってはいられない。食って栄養にできればいいのが自然の生き方」

「だからキャンプだって言ってんだろっ! お前のは過酷なサバイバルでキャンプじゃないのっ!」

「じゃあ捕まえたウサギどうしよう?」

「逃がしてあげなさいっ!」

「バイバイウサ吉」

「食べる気だったのに名前つけたんだ……」


 駆け去って行くウサギに手を振る情美の背を眺めながら俺はため息を吐いた。


「わたしなにしたらいい?」

「じゃあ俺と一緒に野菜切ろう」

「うん。野草とキノコでサラダ作っていい?」

「いいけど食っても大丈夫なのかそのキノコ?」

「キノコ如きが俺を殺れると思うんじゃねぇぞって思いながら食べればどんなキノコも食べられるってお父さんが言ってた」

「それお前のお父さんだけだから」

「いや、毒キノコ食べて死にかけて病院でお母さんに怒られてた」

「食べられてないやん……。そのキノコもあぶなそうだからポイしてきなさい」

「バイバイキノ太郎」

「キノコにも名前つけてたんだ」

「キノ国屋文左衛門も元気でね」

「キノコに大層な名前をつけ過ぎだろ」


 情美と一緒に野菜を切り終え、それから肉と一緒に煮込んだカレーをみんなで食べる。


「足りないから豚ニンニクマシマシチョモランマラーメンも食べるかな」

「こんなところで食べられるわけないだろ」

「それはどうかな?」


 と、情美は空へ向かって信号弾を打つ。

 それからややあって、ラーメン屋の岡持ちがこちらへ向かって走って来た。


「へいっ! 豚ニンニクマシマシチョモランマラーメンお待ちっ!」

「救助を呼ぶみたいにそんなもん注文するなっ!」

「これ食べないとわたし死んじゃうから」

「どういう身体してんだっ! 普通の人はそれを食べると身体を悪くするんだよっ!」


 みんなの絶句する表情に見守られながら、情美はズルズルムシャムシャとラーメンを食べ始めた。


 やがて夜になり、


「肝試ししようぜ」


 と、陽介が言い出した。


「肝試しって……。キャンプでやるもんかそれ?」

「でも雰囲気はあるだろ?」

「まあ……」


 暗くて静かなのでそれはまあそうである。


「えーっ、やめようよ肝試しなんかー」


 特に反対する者がいない中、無堂さんだけが嫌がった。


「ああ、無堂はおばけとか苦手だもんな」

「そ、そんなことないけど……」

「男女1組だから大丈夫だよ。ペアはくじ引きで決めようぜ」

「けどあたしたち9人だからひとり余るよ?」

「うん? そうだな……」

「ごにょごにょ」

「えっ? 自分が脅かす役やるって?」

「じゃあ姫路は脅かす役で、8人でくじ引きだな」


 そう言って陽介は下に色のついた細い紙を作って両手へ握る。


「同じ色を引いた男女がペアな」


 差し出された陽介の手からくじを引く。

 俺が引いたのは黄色いであった。


「……それじゃ全員、くじを見せてくれ」


 陽介の声で全員がくじを掲げる。


 俺と同じ黄色の女子は……。


「あ、あたしのペアは夜斗君だね」


 なんと俺のペアは無堂さんであった。

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