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第35話 狙撃

 3人? いや5人か。


 5人が一斉に金網へ取りつき、慣れているのかするすると登っていく。


「これだと金網を超えられちゃいそうだな」


 スマホで連絡はしたが、捕まえる前に逃げてしまいそうである。


「あ、じゃあそこのケース開けてみれば?」

「あ、そうだった」


 金網を超えられそうだったら高台にあるケースを開けてそれでなんとかしろ。

 情美に聞いてそれを思い出し、俺は慌ててケースを開く。


「こ、これは……」


 中から現れたのは、FPSでおなじみのスナイパーライフルあった


「いや、銃じゃねーかこれっ! 俺に人を殺せっていうのかっ?」

「落ち着いて。これ麻酔銃だよ。ほら、注射器みたいな弾丸もあるし」

「あ、ほんとだ」


 注射器みたいな弾丸がケースの中にはあった。


「これ撃って逃亡者を足止めしろってことだね」

「いやいくら麻酔銃だって、人に向かって撃つのは犯罪だろ」

「まあ仕事と割り切ってやるしかないね。大丈夫大丈夫。捕まったりはしないから」

「そう言う問題でも無いような……」


 しかしやれと言われた以上、やるしかないか。


「しかたない」


 麻酔銃を構えた俺は銃身についている暗視スコープを覗く。

 逃亡者はすでに金網の一番上まで登っており、超えられるのは時間の問題だった。


「悪いけど、仕事なんで……」


 俺はよく狙って引き金を引く。

 と、注射器型の弾丸が逃亡者の背中へ刺さった。


 痛みはそれほど強くないだろう。

 逃亡者は不思議そうに背後を覗くも、そのまま金網を超えて行く。


 麻酔銃の効果が現れるのは数分から数十分後だ。

 そう遠くまでは行けず、途中で眠ってしまうだろう。


 ひとりやれれば2人目からは気楽なもので、先ほどよりも緊張せず引き金を引けた。そんな自分に少し怖くなりつつ、4人目にも麻酔銃の弾丸を当てた。


「結構、簡単に当たるもんだな。FPSと一緒だ」

「いや、FPSの経験くらいじゃ普通はそんなに当てられないよ。やっぱり夜斗にはヒットマンの才能があるのかもね」

「堅気の世界じゃ役立てにくい才能だなぁ」


 こんな才能あってもしょうがないなと思いつつ、残りのひとりを探す。


「あれ? もうひとりはどこに行ったんだろう?」


 確かに5人いたはず。

 しかしもうひとりは見つからなかった。


 危険を感じて遠くへ逃げてしまったのだろうか?

 それならそれでしかたないなと思いつつ、俺はもうひとりの逃亡者を探し続けた。


「……やっぱりここに監視役がいやがったか」

「えっ?」


 低い男の声が聞こえて振り返ると、そこにはガタイの良い厳つい男が立っていた。


「わ、わ……っ」


 遠くへ逃げたから見つけられなかったんじゃない。

 むしろ高台の下に来ていたので見つけられなかったのだ。


「てめえらをぶっ殺しちまえばここからバレずに逃げられるってわけだ。おら死ねやーつ!」


 襲い掛かって来る男。


 こんなに近距離ではスナイパーライフルじゃ……。


 これはまずい。


 そう焦ったが、


「んがっ!?」


 身構える俺の前で男はうつ伏せに倒れる。


「このためにわたしが一緒に来たの」


 情美のかかと落としを食らって男は完全に気を失ったようだ。


「はあ……。なにが楽だよお前、この仕事すげー危険じゃん」

「楽だよ。危険なだけで」

「危険が伴うものを楽とは言わないと思う……」

「まあでも、わたしたちが一緒なら大丈夫だよ。遠くを夜斗が。近くをわたしが。なんか良いコンビじゃない?」

「それはまあ……」

「じゃあコンビ名はナッチャンナッチャンで」

「お笑いコンビかっ! どっちがどっちのナッチャンだかわかんねーしっ!」

「やっぱりボケのわたしが頭のほうがいいと思う。ボケはコンビの花だし」

「ツッコミを舐めるなよっ! 俺が頭のほうだっ! って、別にそんなことどうだっていいよ。お笑いコンビじゃないんだから」

「じゃあ……どういうコンビだと思う」

「どうって、友達だろ?」

「そうだけど……」


 納得を口にするも、情美はどこか不服そうだった。


 ……2日はあっという間に過ぎ、俺たちはバイトを終えて帰って来る。


 2日間で一体、何人を麻酔銃で狙撃したことか……。

 一発も外さなかった人間は初めてだと、帰り際に褒められたけど、あんまり嬉しくはなかった。

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